第二期トランプ政権が政府効率化省のトップにイーロン・マスク氏を起用したことが大きな話題となりました。そして、そのマスク氏がXのポストで「侘び寂び」と発言したことをご存知でしょうか? 今回のメルマガ『j-fashion journal』では、ファッションビジネスコンサルタントの坂口昌章さんが、その言葉の真意について推測しています。
侘び寂びライフスタイル
1.米国政府効率化省とマスク氏
トランプ次期大統領は11月12日、自らの新政権で「政府効率化省(DOGE)」を新設し、そのトップに実業家イーロン・マスク氏を起用すると発表した。
マスク氏は宇宙開発企業「スペースX」や電気自動車メーカー「テスラ」の創業者。大統領選ではトランプ陣営に巨額の献金をした。
最近では、政府予算のほぼ3分の1に当たる少なくとも2兆ドル(約310兆円)を、連邦政府の支出から減らすよう求めた。また、連邦政府機関には責任の範囲が重なっているものが多いとし、何百かの機関を廃止するよう提案している。
トランプ氏は、バイオテクノロジー分野の投資家ヴィヴェク・ラマスワミ氏も、政府効率化省でマスク氏と仕事をすることになると説明した。ラマスワミ氏は、大統領選の共和党予備選に出てトランプ氏と戦ったが、撤退してトランプ氏支持に回った。
ラマスワミ氏は予備選で、連邦政府職員の75%以上を解雇し、教育省や連邦捜査局(FBI)、アルコール・タバコ・火器及び爆発物取締局など、いくつかの主要連邦機関を閉鎖すると主張していた。
トランプ氏はこの2人の役割について、「大規模な構造改革を推進する」方法をホワイトハウスの外から助言するものだと述べた。また、ホワイトハウスや行政管理予算局と協力し、年間6兆5000億ドル(約1000兆円)の政府支出における「大規模な無駄や不正」と闘うとした。
トランプ氏はさらに、マスク氏とラマスワミ氏は2026年の7月4日(アメリカ独立記念日)までに仕事を完了することになると説明。「より効率的で官僚主義の少ない小さな政府は、独立宣言250周年を迎えるアメリカへの完璧な贈り物になる」とした。
2.ポジティブな「侘び寂び」
そんなマスク氏が、日本時間11月21日に自身のXに日本語で「侘び寂び」とポストし、SNSでその意味や意図について様々な意見が飛び交っている。
曰く「DOGEの哲学」「単なるコストカットではなく、意識やライフスタイルの転換」を示しているのではないか等々。
トランプ氏もマスク氏も侘び寂びとは正反対のビジネスをしてきた。最新のテクノロジー、巨額の投資、金ぴかのビル。
そんな彼らが、国を再生するために経費削減や合理化、スケールダウンに取り組んでいる。ネガティブに捉えれば、後退、縮小、退化だ。しかしポジティブに捉えれば、侘び寂び、物質文化から精神文化への進化、禅や仏教思想にもつながる。マスク氏はポジティブなDOGEを考えたいのではないか。
私は、コロナ禍以降の世界不況にも意識の転換、ライフスタイルの転換が望まれていると思う。「SDGs」に変わるキーワードとして「侘び寂び」が注目されるかもしれない。
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3.大型化から小型化へ
「侘び寂びライフスタイル」について考えてみたい。「侘び寂びライフスタイル」は、日本の美意識や哲学を反映した生活様式であり、特に不完全さや一時性の美を重視する。この概念は、物事の本質を見つめ、シンプルでありながら深い意味を持つ生活を追求することにある。
米国文化に対極にあるのが「侘び寂び」であり、行き詰った米国文化を革新するには有効かもしれない。
例えば、アメ車と日本車では目指す方向が異なる。アメ車は、大きさや豪華さを目指したが、日本車は、小型でシンプル、燃費の良さや乗り心地を追求した。
住宅でも、BOXABL社の「Casita(カシータ)」というプレハブ極小住宅が注目を集めている。「住宅を折り畳むこと」と「配送しやすいサイズ」と「工場での大量生産」で、作業量と運送という二つの課題を解決した。これは住宅に対する価値観の転換である。
共通するのは、大型化から小型化への流れだ。
4.新しいものより古いもの
新しいものより古いものに価値を感じることも。「侘び寂び」である。
日本ではリノベーションが人気を集めている。特に、歴史ある古民家のリノベーション住宅は人気だ。あるいは、古民家の古材をインテリアに活用することも多い。
古民家や古材の魅力は、「不完全さの美」の魅力でもある。自然環境の中で曲がった樹の形状のまま梁に使うことで、自然や歴史を感じることが出来る。
これは、骨董品の魅力にもつながっている。
例えば、プレハブ極小住宅のインテリアに、古材やリサイクル材を使ったり、骨董品を配置することで、侘び寂びを表現することが出来る。
あるいは、反対に古民家の中に、最新鋭の設備を完備した小さな部屋を埋め込むのも良いだろう
日本のストリートファッションでも、古着が重要な位置を占めている。最新の雑貨と古着をセンス良く組み合わせたり、最新のコレクションと古着を組み合わせることで、個性を表現するのだ。
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5.自然と調和したライフスタイル
更に、侘び寂びを追求すると、「自然との調和」に行き着く。
西欧文化では、自然は征服するものと考えている。自然環境を取り払い、人工的な建造物で埋めつくすことが西欧文明の特徴である。
しかし、日本では、自然環境を「借景」にして、自然と一体化した庭園を造る。あるいは、「枯山水」のような人工的造形で自然から受ける高い精神性を表現しようとする。
現代の都市は、完全な人工物で構成されている。それでも、東京は中心に「皇居の原生林」、「自然に近い明治神宮の森」がある。日本中に点在する神社も白木や茅葺など、自然の素材が活かされた建築様式であり、鎮守の森のように樹木に囲まれている。
自然と調和した住宅、自然と調和したファッション、自然と調和した食生活、自然と調和したビジネス、自然と調和したライフスタイル、自然と調和した政治とは何かを考える時代が、侘び寂びの時代ではないか。
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■編集後記「締めの都々逸」
「人を押しのけ 疲れるよりも もののあわれを 感じたい」
米国に代表される浪費文化が終わろうとしています。そもそも地球はそれほど大きくありません。豊かになって浪費をする人が増えたら、一方で困窮する人が増えます。人間が必要な食料の量は、所得に比例しません。住宅の広さも、機能だけを考えると、コンパクトな住宅で十分です。広い家を維持するには多くのエネルギーが必要です。
お金持ちになっても、モノを大量に消費するのはやめましょう。骨董品の収集は良い趣味ですね。資源もエネルギーも使いません。でも、勉強は必要です。
消費ではなく自己実現。GDPは下がってもいいのです。消費せずに幸せになることを目指しましょう。侘び寂び。(坂口昌章)
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