今やあらゆるカテゴリーで人間に取って代わるスピードをもって進化するAI。天気予報の分野でもそれは例外ではなく、各国のIT大手や専門機関がAIを駆使した予測法を開発・発表するに至っています。はたしてAIが「生身の予報官」を超える日は来るのでしょうか。今回のメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』では気象予報士として『ニュースステーション』のお天気キャスターを務めていた健康社会学者の河合薫さんが、その可能性を自身の経験を交えつつ考察しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:AIは風を読めるか?
プロフィール:河合薫(かわい・かおる)
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。
そこが気象予報士の腕のみせどころ。AIは風を読めるか
これもAI、それもAI、気が付かないうちにあれこれAIの時代に突入しました。
お天気の世界も例外ではありません。
米Googleは2018年までの40年間の気象データをAIに学習させ、「GenCast」と名付けた天気予測AIを開発し、19年の予測をした結果、地表の温度、降水量など1,300を超える指標の約97%で、世界最高水準の予測モデルENSを上まったと発表しました。
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米Googleは他にも、米海洋大気局(NOAA)が実験導入するモデルなどを開発し、中国の華為技術(ファーウェイ)も天気予測AI「盤古気象模型」を公開。どちらも従来の大型スーパーコンピューターと同等の精度が得られたとか。
日本でも理化学研究所の研究グループが、現行の数値予報とAIを組み合わせて、ゲリラ豪雨を予測するシステムを開発し、予測できる時間が5倍に延びたそうです。
おそらく今後は急速にAIの天気予測が広がり、いつでも、どこでも、簡単に「自分の頭の上の天気」がかなりの精度でわかるようになることでしょう。
とはいえ、天気予報を100%あてるのは…無理です。大気には「初期値がわずかに違ったときに、その後に巨大な差となって表れる予測不可能性=カオス的性質」があるので、どんなに優秀なAIが登場しようとも「ハズレ、空振り」は絶対に避けられません。
例えば、ある地点の気温が13.2℃と観測されても、真の気温の値は13.2212℃かもしれないし、13.2213℃かもしれない、この微妙な差が予測を狂わせます。
しかも、現行の数値予報でも超得意分野とあまり得意な分野があったりするので、その差が時間を追うごとに予測の精度に影響を与えたりもします。
あくまでもこれは私の感覚ですが、数値予報は風速の予測はかなり当たるのですが、風向はそこまで正確じゃない。それが結果的に気温予測の精度を下げる。AIにもそんな得意・不得意があるはずなのです。
実際、ハリケーンや台風の進路は高い精度で予測ができても、その勢力の推移については予測精度がかなり低いことを検証した論文もあります。
つまり、「人」の力が不要になることはない、と私は信じているのです。
私がお天気ねーさんをやっていた頃も、「気象庁の数値予報の精度は高い。でも、極端な現象を予測するのは下手。ここが気象予報士の腕のみせどころなんです!」なんてことをインタビューを受けるたびに言っておりました。
実際そうですし、私が「大当たり!」を出す時はきまって、勘ピューターに従った時でした。
天気は地震と違い「備える」ことができる唯一の自然現象です。しかし、その備えの壁を、最も簡単に破るのが「予測できなかった自然の威力」です。雨や風の強さであり、雨や雪の量であり、持続する時間です。
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「人ならではの感覚を磨く訓練」の大切さ
かつて天気予報は、全国の地方気象台の気象の専門家たちが、空を見上げ、風を感じ、雲の流れや、視界の変化を念入りに体感し、記録して行っていました。
私はそういった人たちにお天気の基礎を徹底して教わりましたから、人にしかない、人ならではの感覚を磨く訓練の大切さが忘れられないやしないか?と心配
なのです。
気象学者らが積み上げてきた天気予報の手法を、AIが性能で上回るようになっても毎日天気予報をしていた予報官の勘ピューターをAIは上回ることができるのか?
みなさんのご意見や体験など、お聞かせください。
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