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本当に民主主義の勝利なのか?韓国・尹大統領の罷免が決定した弾劾裁判の中身

昨年12月に「戒厳令」を宣言した韓国の尹大統領の弾劾裁判が決着し、罷免を求める決定が下されました。今回のメルマガ『宮塚利雄の朝鮮半島ゼミ「中朝国境から朝鮮半島を管見する!」』では、韓国・北朝鮮情勢に詳しい宮塚コリア研究所の代表である宮塚利雄さんが、裁判の主な論点などの詳しい内容を紹介しています。

尹大統領罷免-野党は民主主義の勝利と宣う

韓国の憲法裁判所は2025年4月4日、「非常戒厳」を違法に宣布したなどとして弾劾追訴された尹錫悦大統領(以下、尹氏)について、罷免を求める決定を出した。尹氏の弾劾裁判の結果は大方の予想通りだったが、ソウルの知人は裁判官8人のうち2人は保守系だから、場合によっては弾劾無効の裁可の可能性もあるのではないかとも予測された。結果は8人全員一致の意見で「国民主権と民主主義を否定し、国民の信頼を裏切った」と判断され、尹氏は失職した。尹氏の弾劾無効を訴えてきた知人は「ありえない結果」だと呆然としていた。

弾劾審判では戒厳宣布などを通じ、尹氏の行為に重大な違憲・違法性があったかどうかが主な争点となり、尹氏による戒厳宣布や国会への軍・警察投入など5件の行為について、重大な違法性・違憲性が認められるかどうかだった。

1件でも認められれば罷免が決まるとして判断が注目されたが、結果は全てで尹氏の違法行為を認定し、尹氏側の「全面敗訴」になった。尹氏の主張と憲法裁判所の判断を見てみると、まず「非常戒厳」宣布について、尹氏側は「戒厳令は大統領の統治行為」としたのに対し、憲法裁判所側は「宣布を正当化する危機は存在しなかった」。

二番目に「国会への軍・警察投入」について、尹氏側は「秩序維持が目的」であった。これに対し裁判所側は「政党活動の自由、国軍の政治的中立性を侵害」とした。

三番目の「戒厳司令部の布告令」について、尹氏側は「象徴的なもので執行可能性はなかった」としたのに対し裁判所側は「政党活動の制限は、代議制民主主義の原則に違反」とした。

四つ目の「選管への軍投入」について尹氏側は、「不正選挙の疑いがあり確認必要」としたのに対し、裁判所側は「令状なしの捜索は選管の独立性を侵害」とした。

五つ目の「政治家らの拘束指示」について尹氏側は「指示していない。証言は偽証」としたのに対し、裁判所側は「拘束対象に元最高裁長官らが含まれ、司法権の独立を侵害した」とし、尹氏側の主張をことごとく退け、尹氏側の完敗となった。

もっとも、一部の裁定については裁判官8人が全員同じ意見ではなかったようで、裁判官4人は「証人の法廷出頭を重視する『伝聞証拠禁止の原則』について、運用を厳格化すべきか緩和すべきかを巡り対立した。

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今回、尹氏の『指示』を証言した軍人らの供述調書の採用に、問題があったとの認識が示されたといえる」(「産経新聞」4月5日号)部分もあった。

憲法裁判所の宣告は2025年4月4日午前11時に始まった。この審判は関心の高さから一般傍聴席20席に対しテ9万6370人が応募し、法廷内の様子も生中継された(私も日本のテレビで傍聴していた)。憲法裁の宣告は午前11時に始まった。文炯培所長権限代行は時々、伏し目がちに手元の宣言文を読み上げた。

言い渡しの直前に時刻を「午前11時22分」と確認した後、最後は決定文から目を離し、法廷を見渡しゆっくりと口にした。「主文 被請求人 大統領尹錫悦を罷免する」。聞きなれない韓国語であった。韓国留学中に朴正熙大統領と全斗煥大統領の軍事政権下で戒厳令を体験したが、あまりにもかけ離れた戒厳令騒動であった。朴正熙大統領の戒厳令宣布について、木村幹著『全斗煥』は次のように述べている。

1972年10月17日、朴正熙は突如、「特別宣言」を発表し、この日の19時を期して、国会を強制的に解散すると共に、政党他による政治活動を禁止した。憲法の一部条項が停止されると共に、韓国全土には非常戒厳令が宣布された。朴正熙は進んで11月21日に戒厳令下で国民投票を実施、12月17日には、「維新憲法」と通称される、新たな憲法の成立を宣言した。「維新クーデタ」と呼ばれる事件である(同書 81ページ)

今回の6時間で解除された文民による戒厳令と軍人の下した戒厳令の違いをひしひしと感じている。次期大統領を狙っている野党・共に民主党の李在明代表は野党主導で大統領を弾劾・失職に追い込んだことを「民主主義の勝利」とたたえ、「世界がK民主主義をうらやむだろう」と意気揚々と宣ったというが、「戒厳令」とは何かということを改めて考え直さざるを得なかった。

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image by:  A.PAES / Shutterstock.com

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元山梨学院大学教授の宮塚利雄が、甲府に立ち上げた宮塚コリア研究所から送るメールマガジンです。北朝鮮情勢を中心にアジア全般を含めた情勢分析を独特の切り口で披露します。また朝鮮半島と日本の関わりや話題についてもゼミ、そして雑感もふくめ展開していきます。テレビなどのメディアでは決して話せないマル秘情報もお届けします。長年の研究対象である焼肉やパチンコだけではなく、ディープな在日朝鮮・韓国社会についての見識や朝鮮総連と民団のイロハなどについても語ります。

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