多くの若者が親元を離れ新生活をスタートさせる春。そんな彼らを虎視眈々と狙っているのが悪質商法や宗教団体のリクルーターですが、有効な自衛手段はないものでしょうか。今回のメルマガ『伝説の探偵』では現役探偵の阿部泰尚(あべ・ひろたか)さんが、悪質商法や宗教団体の勧誘の実態を紹介。その上で、被害から身を守るため何より大事なのは「予防」として、3つの具体的な方法を挙げています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:カルトのカモ
春は「勧誘」の季節。カルトのカモにならないための予防法
4月を迎え、新しい制服やリクルートスーツなどに身を包む若者が街を歩く姿を見ると、春だなと初心を思い出すもの。
一方で、毎年のようにある彼らがターゲットになる悪質商法や宗教勧誘などの問題が脳裏をよぎる。
もっとも騙されやすい「無根拠型大丈夫シンドローム」な人々
4月は新入学で、大学の入学式やオリエンテーションなどが始まる。実家を出て一人暮らしや大学寮で暮らすということもあろう。一昔前は大学のサークルなどに紛れて、宗教勧誘が行われていた。もちろん露骨に勧誘するのではなく、ゆるいテニスサークルを装い、合宿などの行くと礼拝だとか勉強会と称して入信するように進められたりするわけだ。
騙されるとか勧誘されてしまうのと偏差値はおおよそ無関係だろう。私は大丈夫、うちの子は大丈夫という無根拠型大丈夫シンドロームがもっとも騙されやすいとも言える。
一方で、儲け話や投資の話などもよくある事で、商品を大量購入してしまったり、健康食品だとねずみ講のような仕組みに取り込まれてしまうこともある。いわゆる、悪質商法被害である。
特に、民法改正で18歳成年となってからは、大学は格好のカモ狩り場となった。
一方、ほぼ全ての大学はこうした事態を受けて、注意喚起を強く行っている。ただし、これまでのように未成年を理由に契約を無効にするということも18歳成年では不可能であるし、サークルやボランティア団体に紛れて学生の勧誘をしてくる者を把握するのは難しい。
初夏から増える「生存確認調査」の依頼
私の本業は探偵である。浮気調査のみを専売としない営業方針である私が運営する探偵社は、総合探偵社として様々な依頼を引き受ける。その中で、毎年初夏から秋にかけて受任数が増えるのが、我が子の生存確認、安否確認を目的とした依頼だ。
そして、このほとんどが、大学入学を機に上京するなど親元を離れて暮らし、宗教勧誘から入信して出家してしまったケースやマルチ商法で騙され脅されて大学を辞めて住所不定状態になっているなど、高度な行方調査が必要なケースも多い。全てに共通するのは、「大学を機に」と、「親子断絶」である。
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我が子を新興宗教に絡み取られた親が感じた異変
2022年に北海道から関東にキャンパスがある大学に進学したAさんは、大学が斡旋する賃貸不動産を保護者が契約して大学の近くに一人暮らしをしていた。
大学1年生の間は、親に多くを求められない経済状況であるから、アルバイトを決めたり、大学の生活、一人暮らしに慣れるなどで大忙しであり、サークルなどの活動には参加していなかったそうだ。
2023年になり、後輩が数人、同じキャンパスに来るということで高校の先生や両親から紹介されて世話役になった。その中のBさんが大学非公式のボランティア団体に興味があるということで、一緒にその団体の説明会に行った。
当時のLINEのやりとりをみる限り、その団体はゴミ拾いをしたり、地球規模の環境問題についてのセミナーをするなどの活動で、説明会で出てきた大学生は同じ大学の人もいて、人当たりがよく、何でも話せる雰囲気だったと満足している様子がうかがえた。
ゴールデンウィークに活動の合宿があり、Bさんと参加したいというところまでは、Aさんが順調に大学生ライフを満喫し、明るい将来を夢見ていたような親子のやりとりが確認できたが、この合宿以降はそのやり取りがほとんどなくなる。
そして、夏休みAさんは両親にBさんと一緒に住みたいと相談した。家賃が安くなる他、Bさんの両親も知る仲であったので承諾をした。
引っ越しで両親が立ち会い、部屋なども見たが特に異常を感じることはなかったが、2024年の5月頃から連絡が途絶え、心配になった両親が部屋を訪ねたが、誰も応答せず、管理会社に事情を説明してなんとか部屋を見せてもらったが、部屋に帰っている様子はなかった。
大学にはまだ籍があるが、出席が足りないものもあるようだった。この段階でAさん本人から両親に抗議の電話があり、一方的に縁を切ると宣告してきた。このときの様子をAさんのご両親は、一言で言えば、我が子は気が狂ったのだと感じたそうだ。
Bさん両親にも事態を伝え、Bさん両親も動き出したが、同様の対応であったという。
彼らは方々走り回り、我が子に何が起きたのか知ろうとしたが、ほとんどわかなかったそうだ。当然、警察や大学などにも相談をしたが、成人していて、大学などからの問い合わせにはきちんと応対し、意思表示もはっきりとしているため、何ら行動を起こすこともできず、行きついた先が私であったというわけだ。
2025年1月に相談を受け、私が調査に乗り出したわけだが、「大学入学を機に」「親子断絶」という状態は類似事案と共通していた。
調査の手法や経緯は非常に細かく長くなるので割愛するが、AさんとBさんが入会したのは、ある新興宗教が勧誘のために隠れ蓑にしているボランティア団体であった。ボランティア団体自体は関連を否定するが、幹部のほぼ全員が信者であり、半年以上活動した者はほぼ間違いなく信者になるわけで、たまたま信者が集まってしまったという言い訳は聞くに堪えないものだ。
しかし、表向きそうした看板があるわけでも名札があるわけでもないから、AさんもBさんも気が付かず深みに嵌ったのだろう。ボランティア団体の活動を通じて信者と交流するようになって、入信してしまったというのが、この問題の中心的なことである。
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何より大事な「予防」とその3つの方法
AさんとBさんは新規勧誘の係をしていて、主にボランティア団体の幹部らが多数居住しているアパートの一室を根城としており、大学にはほぼ行かずに関連のカフェ店で手伝いをしていた。
こうなると、脱会させるなどを考えるが、そうそう簡単なものではないし、ミイラ取りがミイラになることもあるだろう。居場所を見つけ、行動を大まかに把握し、そのボランティア団体の背景を調べて両親に報告したが、親子関係は一方的に断絶され、状況は深刻であった。
堪らず両親がカフェ店に行ってみたが、逃げられてしまい、その後しばらくアパートに引き籠ってしまっていた様子であった。
また一方で新たな発見もあった。
AさんとBさんは共に行動しており、新規勧誘を行っていたが、その勧誘方法が大学周辺や校内で活動をするのではなく、SNSを使って勧誘のキッカケを得ていたのだ。
使用が確認されたのはInstagramで、良いコメントをしたりするなどして対象者とSNS上で緩やかな接触をはかり、心理的な距離を縮めておき、イベントなどに誘いだし、徐々に個別に勧誘をしていくという手の込んだ手法で、調査中に接触があった同大学の1年生が言うには、「何か宗教だろうなというのはわかったが、良い人であるから、それで縁を切るというのも嫌だというのが正直な気持ちだから、なかなか勧誘を断りづらい」と話してくれた。
これで私がAさんもBさんも脱会させて両親との関係を戻せればよいのだが、それができれば、今とは異なる仕事をしているであろうし、どうすることもできない葛藤を抱えることもない。できることは起きている事態を報告し、安否を確認するのみだ。
もしも最近流行りの退職代行みたいに脱会代行みたいな業者があればそれはそれでと思うのだが、こうしたものは本人が取り込まれてしまっているわけだから依頼自体が無いだろう。
また、SNSを勧誘側が利用することで、今後は大学だけではないSNSで繋がる者同士のやりとりを装おって、勧誘が増えるであろう。
何より大事なのは、予防である。
代表的な予防法は下記の通りだ。
- 氏名住所電話番号など、個人情報を書かない、渡さない、話さない
- 大学の場合は学生課など窓口に相談したり情報提供を求める
- SNSのアカウントを教えない
なんだそれだけか…と思うかもしれないが、信仰の自由がある以上、無理やり止めることもできないし、注意喚起を強くやって、予防に心掛けるしか方法が無いとも言える。
むしろ、何か現実的に有効な方法論があれば教えて欲しいところだ。
子育て中の親御さんには、世の中の危険をしっかりと親子で共有するのも良いだろう。心配事の9割はまず起きないと言われており、危険を教えてもオバケが出るぞと脅かしているだけという人もいるが、オバケが出ると言ってなんだ出ないではないかと笑い話になれば、それでよい。実際に勧誘する側はありとあらゆる手で勧誘を試みてくる。
企業や教員などの職と同様で、慢性的な人出不足は、カルトも悪質商法も同じなのだ。
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勧誘の言葉の語尾に「知らんけど」とつけてみる
私が大学生であったおよそ30年ほど前にも、宗教の勧誘やらマルチの勧誘やらがありました。彼らにとっては、やはり大学生はカモネギだったのでしょう。やたらと手相を見せてくれとか、無料の飲み会があるとか、勧誘をしてきてました。
一般的なビジネスとしても、新聞購読の営業がしつこく来て、一人暮らしの大学生はカモにされていました。当時は普通に営業マンが脅してきましたので、脅し返したり殴られてボコボコにし返したり、そうしたら仲間が来て乱闘になったりとかなりバイオレンスな体験をしましたが、悪質なものでなくても、カモにしようという輩がウヨウヨいるのが一般社会というものです。ネット上の広告を見ても、そんなものばかりです。
基本的に楽なものは全て詐欺だと思っていいでしょう。
「1日10分でお父さんの月収を超えました=詐欺かお父さんが失業中です」
「3粒食べたらマイナス15キロ!=15粒食べたら消えてなくなるかもしれないよ」
「このパンを食べたら記憶力が劇的アップ=ドラえもんかっ」
悪質商法やマルチ商法も、言葉を置き換えてみたり、素朴にツッコミを入れてみると、粗がよく見えてきます。
カルト宗教のようなものでも、〇年〇月に日本が沈没するなどの予言をするなどしていましたが、何も起きなければ〇×神が奇跡で止めたとかまた嘘を言うのでしょう。
ならば、全盛期のマイクタイソンの全力パンチを神通力で止めてみてくださいって思います。確実にノックアウトされます。
彼らの言う全ての語尾に「知らんけど」とつけてみてください。信じる気が失せると思います。
まあ信じてしまっている人は仕方ないところはありますが、信じる前に引き戻しができないと、多くの場合取り返しがつきません。
家族のもとに返すのは何度か試みたことがありますが、私にはできませんでした。
できることは、広くは注意喚起かと思います。お子さんがいる方は気を付けてもらいたいし、若者の皆さんにも気を付けてもらいたいと思います。
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