居酒屋チェーンなどで「タブレット」や「スマホ」による注文が普及してきた。だが、LINEの友達登録を要求してきたり、そもそもメニューのカテゴリ分けや画面遷移が意味不明すぎたりで、「もう、なんでもいいから、とりあえずビールを持ってきてよ…」と客側がぼやきたくなるものが少なくない。これに関して、「頭の悪い人間が設計した注文システムは実は過渡期的なものであり、AIに代替されて消えていく運命にある」と指摘するのは、心理学者の富田隆・元駒沢女子大教授だ。(メルマガ『富田隆のお気楽心理学』より)
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです
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頭の悪い人間が設計した「タブレット注文」にイライラするのは「老害」にあらず
昨今、居酒屋や定食屋のチェーン店に行くと、各テーブルに置いてある「タブレット」で注文ということになります。
あなたは、このタブレットを使った注文でイライラしたことがありませんか?
隣のお客が普通に食べている枝豆が、いくら探しても出てこないとか、店員さんに一声かければ済むはずのことが、タブレットだと二手間も三手間もかかってしまうとか。
たとえば、昔だったら、店員さんにアイコンタクトして、空ジョッキを持ち上げ、「同じもの、お替わり!」と叫べば、店員さんが威勢よく「ハイ!生ビールですね」と注文を受けてくれて、1~2分の内に冷え冷えの生ビールが運ばれてきたものです。
ところが今は、タブレットで「飲み物」のページを開き、生ビールの中から「サッポロ」を選んで、数を入力し、注文を「送信」しなければなりません。
こうした「手間」が億劫だということで、チェーン店には入らないというご同輩も少なくありません。「出てきた料理まで、味気なく感じる」と言う人までいます。
最近では、客のスマホから注文できる(と恩着せがましく謳う)システムを使っている店も増えつつあります。
基本、注文の方式は同じようなものですから、タブレットがスマホになって画面が小さくなった分、さらに不便になるのですが、「スマホ依存症」の若者には好評なようです。さらに、店の側はタブレットを揃える費用までも浮かせることができるわけですから、得意満面。
しかし、私のような年寄りは、なぜか腹も立とうというものです。「この先どうなってしまうんだろう?」と暗い顔をするご同輩も少なくありません。
ただ、頭の悪いシステムエンジニアが設計した注文のやり方に客の側が合わせるといった「原始的」で「顧客軽視」の状況がこの先も続くかどうかは分かりません。
市場経済は「競争」が基本ですから、もっと便利で人間的なシステムが安く導入されれば、そちらの方が勝つはずです。(次ページに続く)
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店によってUIすらバラバラ。原始的なタブレット注文はAIに淘汰される
論より証拠。かつて一世を風靡(ふうび)していた「ポケベル」は完全に姿を消しました。今時、「ポケベル」で暗号のような数字のメッセージを送っている人はもういませんよね。同じように、現在のような原始的で、非人間的な店頭注文管理のシステムは、実は「過渡期」的なものであり、やがて消えていく運命なのです。
これからは、AIの技術が普及しますから、注文のやり取りはもっと人間的で双方向性のコミュニケーションに取って代わられるはずです。
まずは、もっと「音声認識」が当たり前になるはずです。私たち客は、システムの端末(タブレットやロボット)に向かって、「音声」で問いかけたり「注文したり」するようになるでしょう。
たとえば、以下のような具合です。
客「ビールにしようかな」
システム「生(なま)にいたしますか? 瓶ビールもございますが」
客(パネルに表示された瓶ビールを見て)「ああ、オリオンビール、置いてるんだね」
システム「はい。オリオンビール、一本お持ちいたしましょうか?」
もう一人の客「あら、懐かしい。私もオリオンビールにするわ」
さらにもう一人の客「僕は、青島(チンタオ)ビールにする」
システム「それでは、オリオンビール2本に青島ビール1本でございますね」
客「おう、とりあえず、それで頼むよ」
システム「はい。承りました。ありがとうございます。少々お待ちください」
このように、従来、店員さんとお客の間で交わされていた自然な双方向のコミュニケーションをAI化したシステムが引き受けることになるはずです。
こうした自然な会話で注文を受けるシステムの構築は、現在の技術力で充分に可能なことなのです。後は、客がそれを求めるかどうかです。
さらに、AIの特長を活かせば、あいまいなお客のニーズをもとに、具体的な提案をシステムの側が行うこともできます。つまり、システムが客の相談に乗る、というわけです。
システム「何か、ご注文がございますか?」
客「うん、刺身をもらいたいんだけど・・・」
システム「盛り合わせをおつくりいたしましょうか?」
客「今、旬のものってある?」
システム「はい。今日は鰆(さわら)が入っております」
客「おお、鰆か。そりゃ良いね」
システム「はい。今朝ほど豊洲から入ったばかりです」
客「じゃあ、それを頼むよ」
システム「はい。それでは、鰆のお刺身をご用意させていただきます」
もちろん、鰆の刺身に合った日本酒の相談にも、AI化されたシステムは応じてくれるはずです。これって、昔は店の親父さんやお姐さん(人間)が普通にやっていたことなんですよね。(次ページに続く)
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選択肢の中からひとつ選んでボタンを押す、実験動物のような生活からの脱却
AIと言えば「脅威」「怖ろしい」といった条件反射を繰り返す人が今でも少なくありませんが、AIがシステムに入ってくるということは、システムがより人間的に賢くなるということであり、自然言語によって人間とシステムとの交流ができるようになるということでもあるのです。
現在の、非人間的で頭の悪いシステムよりは、よほど「まし」だと私なんぞは思ってしまいます。
ただし、AIによりシステムの側が人間的になると、それに応じて、客である人間の側にも最低限の「常識」といったものや、基本的な「会話能力」が求められるようになるのは必然です。
それは何も難しいことではありません。昔の人間が、日常、普通にやってきたことです。人間を相手に。
挨拶をしたり、何かを伝えたり、相手が言うことを理解したり、尋ねたり、答えたり、教えたり、教わったり、一緒に考えたり、といった、ごくごく基本的なコミュニケーション能力が必要になってくるからです。
ただ、残念ながら、こんな簡単なことができない人も、一部には現れつつあるのが日本の現状です。引き籠りになって、家族とも口をきかないといった例は極端かもしれません。しかし、そんな人でも生きて行けるのが日本に特有な「過保護社会」です。
コンビニやら自販機やらが街に溢れ、ちょっといびつな「便利な世の中」になってしまった日本では、他人と口をきかなくても生きていけるのです。「与えられた選択肢」の中からひとつ選んで、ボタンを押すだけ、といった実験動物のような生活をしていれば、自然とコミュニケーション能力は「退化」していきます。
そういった人たちには、AIを相手に対話するより、黙々とタブレットでメニューを検索する方が性に合っているのかもしれません。
「生成AI」のサービスが普及し、これを利用する人の幅が広がったことで、これを賢く活用できる人と、反対に、まるで役に立てることができない人との間に「格差」が生じるようになってしまいました。
考えてみれば当然なのですが、たとえどんなに優秀なAIが相手であっても、くだらない質問には、くだらない答えしか返ってこないのです。
どうやら、AIには人の有り様を映す「鏡」のような側面があるのかもしれません。
知人のAI専門家が、こんな「諺」を教えてくれました。
「Garbage In, Garbage Out.(ゴミを入れても、ゴミが出てくるだけ)」
AIというものの本質を実によくついた「諺」ではないでしょうか――。
(メルマガ『富田隆のお気楽心理学』6月18日配信号「居酒屋タブレット」より抜粋、再構成。同号の「仮初exciting」「夏至の短夜」はご登録のうえお楽しみください。初月無料です)
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