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中島聡のアイディアと生成AIが可能にする、視聴者に価値ある情報だけを届けるシステム「おかえりなさいテレビ」の画期性

SNSと比して信頼度は高いものの、放送時間にユーザーが左右されるというネックを持つテレビの報道番組。しかし生成AIの活用で、そんな制約を排することも十分に可能となるようです。今回のメルマガ『週刊 Life is beautiful』では著名エンジニアの中島聡さんが、2010年に自身のブログで公開していた「おかえりなさいテレビ」なる構想を紹介するとともに、そのアイディアに現在の技術を組み合わせることで実現できるサービスを改めて考察しています。
※本記事のタイトルはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:生成AI時代の報道

プロフィール中島聡なかじま・さとし
ブロガー/起業家/ソフトウェア・エンジニア、工学修士(早稲田大学)/MBA(ワシントン大学)。NTT通信研究所/マイクロソフト日本法人/マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。現在は neu.Pen LLCでiPhone/iPadアプリの開発。

生成AI時代の報道

私がオープンソースで開発しているMulmoCastのテストと宣伝の両方を兼ねて、さまざまなコンテンツを作り、XやYouTubeで公開していますが、その過程で「生成AI時代の報道」のあり方について少し見えて来たような気がするので、共有します。

私は以前から、報道はもっと個人にカスタマイズされたものであるべきと感じていました。NHKの朝のニュースは、インターネットが存在しない時代に作られた「万人向け」のものであり、今の技術を活用すれば、はるかに価値の高い情報を視聴者に提供することが可能なはずです。

SNSは多種多様な情報を得るには優れているツールですが、フェイクニュースを含めたノイズが溢れている上に、SNSのビジネスモデルが広告である限り、視聴者に価値を提供することよりも、「いかに滞在時間を長くするか」を重視した設計になってしまいます。

Instagram、Tiktok、YouTube、Facebookが良い例で、「あっという間に時間が溶けてしまう」経験をしたことがある人も多いと思います。

この問題は、10年以上前から私が考えて来たテーマの一つでもあり、2010年に私のブログに「私からの提案:おかえりなさいテレビ」というタイトルの記事を書いたことがあるので、それを紹介します。

(前略)ちなみに、私が数年前から暖めている商品のアイデアがあるので、ここで披露しよう。題して「おかえりなさいテレビ」。ターゲットは、毎日のように9時とか10時にならないと家に帰らない・帰れない会社員。わざわざ番組予約をして見るほどテレビは好きではないが、まわりの話題についていけるぐらいは、ドラマとかニュースとかスポーツ番組は見ておきたい、と感じている人たち。

操作はいたって簡単。家に帰ったら、スイッチをオンにするだけ。いきなりその日のテレビ番組のダイジェストが始まる。流れている映像に興味がなければ「スキップ」ボタンを押す、興味があれば「しばらく見る」ボタンを押す。それだけだ。最初はあまり賢くないが、使っているうちにだんだんと「この人は野球が好きだな」とか、「キムタクのファンなんだな」と理解して、ダイジェストの内容が充実してくる。その人が平均して何時ぐらいにテレビを消すのか(=寝るのか)も認識して、家に帰った時間から計算して適当な長さに編集してくれる。

これを実現するには、もちろん当然ネットに繋がなければならないし、マルチチャンネルを同時録画できる機能も持っていなければならない。衆合知を利用した学習機能を持ったクラウド・サービスも必要だ。しかし、決してそんなことは宣伝しない。クラウドとかマルチチューナーとかディスク容量を宣伝しなければ売れないようなら、その時点で負けだ。あくまでコンセプトは「おかえりなさいテレビ」。仕事に疲れたサラリーマンに、寝るまでのわずかな時間を充実して過ごしてもらう。それだけだ。

面倒な番組録画の機能なんてない。もちろん、EPGも表示しない。リモコンのボタンも5つぐらいで十分だ。ネットに繋がっていても、ブラウザーも載せてなければ、もちろんウィジェットもない。ネットは最高のおもてなしを提供するための、単なる道具に過ぎない。

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その頃(2010年)は、もちろん、生成系AIなど影も形も存在しなかったので、オンデマンドで映像を生成することなど想像もしていなかったし、そもそも、この記事は(衰退しつつあった)日本の家電メーカー向けの提言だったので、こんな表現になっていますが、上のアイデアと、今の技術を組み合わせれば、とても面白いことが出来ると思います。

生成AIの誕生により、画像の生成コストが限りなくゼロに近づいている今、報道の中身はもちろんのこと、メディアのモード(文字、映像、音声など)や脚色(アナウンサー、声優、絵柄、長さなど)に関しても、視聴者の好みやライフスタイルに合わせて、柔軟に提供すべき時代が来ていると私は感じています。

上に書いたように、そんなメディアのUIは、極端にシンプルでなければなりません。カスタマイズ用の面倒なUIなど持たず、モードの選択肢と、「スキップ」「いいね」「いらない」の三つのボタンぐらいしかない、極端にシンプルなものです。

システム側がそのユーザーのフィードバックを受け、自動的にユーザーが必要としている情報だけを選び、それぞれのユーザーに適したモード(映像、音声、文字、スライドなど)と脚色(アナウンサー、絵柄など)で、24時間、いつでも好きな時間に、好きな量だけ提供してくれるのです。

ちなみに、こんなサービスを作ることが可能だと強く感じたのは、2週間ほど前に始めた、(xALのAniを日本風のアニメにアレンジした)アニーが提供する報道映像(NHKニュースをMulmoCastでアニメ化したもの)をXで提供した際の、ユーザーのフィードバックの中に、とてもポジティブなものがあったからです。

  • とても分かりやすい!そしてアニーに伝えてもらう事で、少しマイルドになる気がする。色々な捉え方がある情報も伝えやすくなると思う。AIの活用はこんな所にも広がっている。
  • スっと見れてしまうショート動画
  • 生成AIの正しい使い方
  • 毎日アニー解説を欲する体になりました
  • 何これ凄い最高笑。アニメーションにすると嫌味なく言えるっていうか、スッと入ってくるわかりやすさあるなー。「あんたの愚痴もたまには役に立つかもねー」は笑える。

今後、MulmoCastビジネスをどう発展させるかはまだ決めかねているところですが、こんなサービスも含めて色々と考えて行く予定です。

(本記事は『週刊 Life is beautiful』2025年7月29日号「生成AI時代の報道」の一部抜粋です。「トランプ関税」や「私の目に止まった記事(中島氏によるニュース解説)」、読者質問コーナー(今週は17名の質問に回答)などメルマガ全文はご購読のうえお楽しみください。初月無料です ※メルマガ全体 約1.7万字)

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