著名エンジニアの中島聡氏が、「人間よりも賢いAI」が誕生した後の社会保障制度について考察する。間もなく実現するAGI(汎用人工知能)やASI(人工超知能)は失業率を劇的に悪化させる。このままでは人類の大半が「社会のお荷物」になってしまう。「UBI(ユニバーサル・ベーシック・インカム)」ではこの問題を解決できないため、新たな社会形態・ライフスタイルが必要だという。(メルマガ『週刊 Life is beautiful』より)
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです
プロフィール:中島聡(なかじま・さとし)
ブロガー/起業家/ソフトウェア・エンジニア、工学修士(早稲田大学)/MBA(ワシントン大学)。NTT通信研究所/マイクロソフト日本法人/マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。現在は neu.Pen LLCでiPhone/iPadアプリの開発。
「AI失業」による社会不安 どう対処するのが正解か
少し前にも書きましたが、出版社の人と、人間よりも賢いAIが誕生した後の社会を描く「未来予測本」の企画を考えているところです。
単なる技術の進歩の予想だけでなく、それが私たちのライフスタイルや社会に与えるであろう影響も考えたうえで、「来たるべき社会」を説得力を持って語ろう、という企画です。
書きたいトピックはいくつかあるのですが、もっとも難しいと感じているのが、AIやロボットが大半の仕事を人間よりも安く・上手にできるようになった時代の社会のあり方です。
今の法律・税制・社会保障などのシステムは、どの国においても、「人間よりも賢いAI」が存在しない時代に作られたものであり、これから来るであろう大半の仕事をAIやロボットがこなす時代に適しているとはまったく思えないのです。
今のシステムをそのまま適用しつづければ、資本や技術を持つ人たちとそうで無い人たちの間の貧富の差はさらに広がって、さまざまな歪みを社会にもたらし、社会に不満を持つ人たち・将来に不安を感じる人たちが大量に発生します。
そのような状況は、人々の票を甘い言葉で集めるポピュリズムの台頭を許し、最終的には、世界全体を戦乱の渦に巻き込む可能性が高いと私は思います。
「ベーシック・インカムの支給」では幸せになれない
少し前まで私は、国民全員に生活に最低限必要なお金を配るUBI(ユニバーサル・ベーシック・インカム)が唯一の解決策だと考えていました。
しかし、新型コロナで社会が混乱に陥ったときに、バイデン政権が行ったお金のバラマキが、若い人たちの労働意欲を削ぎ、社会を逆に不安定にした様子を見て、必ずしもそんな単純な話ではないと考えるようになりました。
(※メルマガ6/24号で言及した)映画「PERFECT DAYS(パーフェクト・デイズ)」が、妙に心に響いたのは、「働くことの意味」を深く考えさせてくれる映画だったからだと思います。
映画の中に、公衆トイレを丁寧に清掃する主人公に対して、若い清掃員が「誰かが使えばすぐに汚れちゃうのに、何でそんなに丁寧に磨くの?」と尋ねるシーンがあります。そこに、江戸時代から続いて来た「勤勉な日本人の美徳」と、それが失われつつある今の日本が、とても上手に描かれていると感じました。
そんなことを考えている中で、先日、今後の社会のあるべき姿のヒントとなる可能性がある話を聞きました。(次ページに続く)
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