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中島聡が危惧。米ライドシェア企業と中国バイドゥ社が欧州でロボタクシーを運行する不安

アメリカと中国がしのぎを削る自動運転タクシーサービスを巡る攻防。そんな中にあって、米ライドシェア企業が中国のIT大手と組み欧州でロボタクシーサービスを展開することが明らかになりました。今回のメルマガ『週刊 Life is beautiful』では著名エンジニアの中島聡さんが、このパートナーシップの背景を解説するとともに、安全保障上のリスクを指摘。さらに日本の自動車産業が置かれている現状を解説しています。
※本記事のタイトルはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:LyftとBaiduのパートナーシップ

プロフィール中島聡なかじま・さとし
ブロガー/起業家/ソフトウェア・エンジニア、工学修士(早稲田大学)/MBA(ワシントン大学)。NTT通信研究所/マイクロソフト日本法人/マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。現在は neu.Pen LLCでiPhone/iPadアプリの開発。

LyftとBaiduのパートナーシップ

ロボタクシーと言えば、WaymoとTeslaばかりが注目されていますが、中国でも技術と実証実験が着実に進んでおり、今後、グローバルには米国と中国の間の覇権争いが進むと見て間違いはないと思います。

そんな中、一つ気がかりなニュースが目に止まりました。(Uberのライバルとして)ライドシェア・サービスを展開するLyftが、中国の百度(Baidu)と組んで、ヨーロッパでロボタクシー・サービスを提供するという報道です(参照:「Lyft and China’s Baidu look to bring robotaxis to Europe next year」)。

百度は「Apollo Go」と呼ばれるロボタクシーサービスを北京、上海など中国の複数の街で提供しており、米国外では世界最大のロボタクシー・サービスです。

最新のモデルはRT6と呼ばれ、Waymoと同じくLiDARを活用した自動運転(レベル4)ですが、Waymoと比べて格段に安い車体を使っているのが特徴です(Waymoは$150,000、Apollo Goは$30,000)。

Lyftは、このRT6を活用したロボタクシー・サービスを2026年から、まずはドイツで、それに続いてイギリスでスタートするそうです。

BaiduがLyftと組む理由は、Lyftが今年の4月に買収したFREENOWにあります。FREENOWは、BMWとMercedes-Benzのジョイント・ベンチャーとして作られた会社で、既存のタクシーの配車アプリを提供する会社です。

米国では、Uberに差をつけられるだけでなく、Waymoにまで抜かれつつあるLyftとしては、ヨーロッパでロボタクシー・ビジネスを立ち上げることにより、生き残りを図るための悪くない戦略だと思います。しかし、そこに中国の技術を使わなければならない点が、安全保障上の観点から、大きなリスクになると感じました。

米国は、既に、国防上の理由から、中国製のロボットや自動運転車を米国市場から排除する動きに出ていますが、NATOの同盟国であるEUの国々が中国製の自動運転車を認めることをよしとするとは私には思えないのです。

BaiduのRT6に関しては、「Baidu’s supercheap robotaxis should scare the hell out of the US」に詳しく書かれているので、参照してください。

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【追記】

自動車産業が衰退した場合の日本経済への影響: 悪夢の競合コンテスト

上の文章を書いた直後に、Slack経由で流れて来た記事です。

なぜ、日本の自動車メーカーが思い切った「EVシフト」を出来ないのか、そしてそれがもたらす「最悪のシナリオ」が分かりやすく、論理的に書かれた文章なので、一読をお勧めします。

私は、2019年までXevoという会社を通じて、日本の自動車会社とビジネスをしていましたが、経営陣のEVやソフトウェアに関する認識の甘さには本当に驚きました。2019年の時点で、既にTeslaが危機を脱して米国のEVシフトの先端を走っていることは明らかだったし、EVの時代には(自動運転を含めた)ソフトウェアがとても重要なことも明確でした。

にも関わらずEVシフトに踏み切れなかったのは、ハイブリッドでその後数年間は稼げることは明確だったし(実際に、今でも稼いでいます)、その後には水素自動車へのシフトが可能だと、少なくとも経営陣は信じていた(もしくは、信じたかった)のだと思います。典型的な「イノベーションのジレンマ」と言えます。

2019年の時点で私が想像もしていなかったのは、中国のEVメーカーの台頭です。Tesla一強の時代がいつまでも続かないことは知っていましたが、これほどの勢いで、中国のEVメーカーが生産量・シェアを拡大するとは予想もしていませんでした。

Teslaの成功にすら懐疑的だった日本の自動車メーカーにとって、中国製の安価なEVが世界を席巻し始めている状況は、本当に危機的な状況と言えます。今から本気でEVの生産を開始したところで、この記事に書かれている通り、電池などの部品は中国から輸入するしかなく、国内の自動車産業の空洞化は避けられません。コスト面でTeslaやBYDと戦うためには、莫大な設備投資が必要です。

問題を先送りにすればするほど差は広がるばかりなので、思い切った戦略変更が必要な場面ですが、サラリーマン経営者には難しいのかも知れません。

(本記事は『週刊 Life is beautiful』2025年8月12日号の一部抜粋です。「Elon Muskの報酬」や「私の目に止まった記事(中島氏によるニュース解説)」、読者質問コーナー(今週は9名の質問に回答)などメルマガ全文はご購読のうえお楽しみください。初月無料です ※メルマガ全体 約1.6万字)

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image by: Tada Images / Shutterstock.com

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