ハンガリーで16年ぶりの政権交代が実現しました。「欧州におけるプーチンの代理人」とも呼ばれたオルバン首相が大敗を喫し、EU内の反EU勢力が一気に弱まることになります。これはウクライナ戦争の行方にも直結する、見逃せない地政学的大事件です。今回のメルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』では、国際関係アナリストの北野幸伯さんが、オルバン失脚の背景と、プーチンにとっての重大な打撃について鋭く解説しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです
プーチンの盟友失脚は4人目
今回は、東欧ハンガリーの総選挙について。
日本で「ハンガリーにメチャクチャ興味がある」という人は少ないでしょう。
しかし私は、件名に【重要】をつけました。
なぜでしょうか?
今回の選挙で失脚したオルバンは、欧州における【プーチンの代理人】のような男だからです。
どういうことでしょうか?
ハンガリー総選挙の衝撃的な結果
ハンガリーで4月12日、議会(一院制)選挙が実施されました。
現職ヴィクトル・オルバン首相の与党「フィデス・ハンガリー市民連盟」の議席は、定数199中55議席にとどまり大敗。
圧勝したのは、マジャル・ペーテル氏が率いる新興野党「ティサ(尊重と自由)」。138議席を獲得しました。
国民の関心は非常に高く、投票率は79%に達しました。これは、過去最高です。
オルバン首相は敗北を認め、【16年ぶり】に【政権交代】が実現することになります。
なぜ件名に【重要】をつけたのか?
オルバン失脚で、重大な変化が起こるからです。
どういうことでしょうか?
プーチンの「ロシア・ファースト」戦略
トランプは、「アメリカ・ファースト」で知られています。しかし、「〇〇ファースト」の政治や外交をはじめたのは、彼ではありません。
はじめたのは、プーチンです。
プーチンは2000年、大統領になりました。彼は、いつも(戦術的ではあるが)ロシアの利益を第一に追求してきました。
たとえば彼は、「北方領土を返還する可能性があるよ」と「ほのめかして」安倍総理に接近。「まずは信頼醸成が必要だ」などといいつつ、日本から金と技術を奪おうと、虎視眈々と狙ってきました。
要するに、「ロシアに金と技術をくれれば、北方領土問題が前進する可能性があるかもよ」と。
それで安倍さんは2016年5月、「8項目の協力プラン」を提示した。「8項目の協力プラン」とは、具体的に
(1)健康寿命の伸長 (2)快適・清潔で住みやすく、活動しやすい都市作り (3)中小企業交流・協力の抜本的拡大 (4)エネルギー (5)ロシアの産業多様化・生産性向上 (6)極東の産業振興・輸出基地化 (7)先端技術協力 (8)人的交流の抜本的拡大
安倍さんは、「プーチンもこれで、領土問題解決に動いてくれるかな?」と期待した。プーチンは「8項目の協力プラン」を喜びましたが、領土問題は一向に進展しませんでした。
安倍さんは、「もっと領土問題を解決しやすいようにしよう」と考え、2018年に大きな決断をしました。これまでの「四島一括返還論」を捨て去り、「二島先行返還論」に移行したのです。
「二島返還」については、「平和条約を締結した後、歯舞群島と色丹島を引き渡す」と1956年の「日ソ共同宣言」に記されている。安倍さんは、「これなら解決に向かうだろう」と思いました。
これに対しプーチンは、なんといったか?
「2島を返して欲しければ、【日米安保を破棄しろ!】」
『朝日新聞』2019年3月16日。プーチンの言葉。
〈日本に米軍基地の設置を認めている日米安保条約などにも触れ、日米同盟を解消する必要があるとの考えも示した〉——
意味するところは、
「俺(プーチン)は、最初から4島も2島も返す気はない。『返還』をほのめかしていたのは、日本の金と技術が欲しかったからだ」
ということでしょう。日本人としては大変ムカつきますが、プーチンが【ロシア・ファースト】であることは間違いありません。(戦術脳ではあるが・・・。)
オルバンとプーチンの蜜月関係
さて、ハンガリーのオルバンさんは1998〜2002年まで首相を務めました。2010年に首相に返り咲き、2026年の選挙で大敗しました。
オルバンは、「ハンガリー・ファースト」の政治家として知られています。具体的にどういうことでしょうか?
わかりやすいのは、彼の「移民政策」です。2015年、いわゆる「欧州難民危機」が起こりました。内戦中のシリアなどから、100万人を超える難民が欧州に流れ込んできた。この時EUは、かわいそうな難民を受け入れる決定をくだしました。しかし、ハンガリーのオルバン首相は、セルビア、クロアチアとの国境を封鎖し、難民流入を阻止した。こんなところは、トランプさんとよく似ています。
そして、オルバンは、同じく「自国ファースト」のプーチン、トランプと極めて近い関係にあります。
(@ヴァンス副大統領は4月7日、ハンガリーを訪問し、オルバン支持を明言しました。しかし、トランプ政権は国際社会で極めて不人気。それで、「ヴァンスが来て、逆効果だった」といえるでしょう。)
というか、もっと率直にいえば、オルバンは【欧州におけるプーチンの代理人】のような男なのです。
『BBC NEWS JAPAN』2026年4月13日。
〈オルバン氏はかつてソヴィエト連邦による占領に反対の立場だったが、現在ではロシアのウラジーミル・プーチン大統領の親密なパートナーとなっている。欧州連合(EU)がロシアのエネルギーへの依存からの脱却を目指すなか、ハンガリーは安価なロシア産原油やガソリンの購入を継続。EUによるウクライナへの900億ユーロ(約16兆8000億円)の融資を阻止した。〉——
2022年2月24日、プーチンはウクライナ侵攻を開始。欧州は、ロシアに厳しい制裁を科し、ウクライナ支援をつづけています。
オルバンは常に、ロシアへの制裁強化と、ウクライナ支援増加に反対しつづけてきた。あたかも、【欧州におけるプーチンの代理人】のように・・・。
〈こうしたことから、オルバン氏はEUで極めて不人気な指導者となっていた。〉(同上)——
オルバン失脚が意味するもの
今回の選挙の結果、オルバンは失脚し、政党「ティサ」のマジャル・ペーテルが首相になるでしょう。
そして、マジャル・ペーテルは、オルバンが破壊したEUとの関係を改善すると断言しています。
このことは、何を意味しているのでしょうか?
オルバンという、EU加盟国の「反EU」リーダーが消える。それで、EUの一体感が増し、決断が速くなる。
では、EUは何を決断するのでしょうか?
・ロシアへのさらなる制裁強化 ・ウクライナへの支援継続と増加
です。
トランプは、2025年に大統領に返り咲くと、ウクライナ支援を止めました。ウクライナが2025年、ずっと戦場で劣勢だったのは、トランプがウクライナをサクッと見捨てたからです。
アメリカが支援を停止した分、欧州は支援を増やさなければならない。そして、欧州はそうしてきました。しかし、オルバンが常に邪魔をするので、なかなか話が進まなかった。
オルバンが失脚し、EUの決定プロセスは速まる。つまり、オルバン失脚は、
・プーチンにとって、【欧州の代理人失脚】を意味し、大打撃 ・ゼレンスキーにとっては、欧州の決定プロセスが速まり、大いにプラス
となります。
ちなみに、ウクライナ戦争がはじまって4年間で、プーチンの同志が失脚(あるいは死亡)するのは4人目です。
一人目は、2024年12月に失脚したシリアの独裁者アサド。彼はロシアに亡命しました。
二人目は、2026年1月、アメリカに誘拐されて失脚したベネズエラの独裁者マドゥロ。
三人目は、2026年2月、アメリカ・イスラエルに殺害された、イランの独裁者ハメネイ。(@プーチンにとって幸いなことに、同じ路線の息子が後を継ぎましたが。)
そして4人目が、2026年4月の選挙で大敗して失脚するハンガリーのオルバン首相です。
今年になって4カ月で、プーチンの盟友3人が権力を失ったのは、興味深い現象です。
(無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』2026年4月14日号より一部抜粋)
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