地元への予算獲得を実績として誇り、選挙での支持につなげてきた自民党の「利益誘導政治」。本来批判されるべきそんな政治手法が、未だまかり通っているのが現実のようです。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では元全国紙社会部記者の新 恭さんが、対立候補を支援した自治体への道路予算を「大幅にカットした」と語った簗和生農水相の発言と、その後の釈明を検証。さらに実際の予算配分を巡る疑惑や簗氏と高市首相との関係を取り上げ、閣僚人事における任命責任を厳しく問うています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:「私の大事なやなちゃん」の報復—道路予算カットと首相の任命責任
高市首相に問われる任命責任。「大事なやなちゃん」が自ら語った報復
情けない政治家がいるものだ。予算をつけてもらいたいなら票を入れろと自らの権力を誇示し、選挙で落選に追い込まれると、自分を必要としないのだから予算を削ってやったと支持者たちに得意げに言う。
そして、その音声が週刊誌に暴露されるや、説明を求められた記者会見で「回答を差し控えたい」の一手で押し通し、それでは騒ぎがおさまらないと党幹部にさとされ、2回目の会見ではやや軟化。臨時国会初日になってようやく観念したのか音声を自分のものと認め、「発言の撤回」と「お詫び」におよんだ。これで何とか国会を乗り切れると思っているのだろうか。
高市首相はさきの内閣改造で、旧安倍派のいわゆる“裏金議員”二人を入閣させた。そのうちの一人、簗和生・農林水産大臣が、自らあくどい利益誘導の手口をさらけ出していたことが、週刊誌報道の音声データで明らかになった。
衆院選で自分を支持しなかった選挙区内の市長や町長の自治体を名指しし「道路予算を大幅にカットした」と数字を示して発言しているのだ。予算をつけたければ俺に投票しろと言わんばかりの傲慢な姿勢。メディアの総攻撃を浴びるのは当然だ。
簗氏は今年2月の衆院選に栃木3区から自民党公認で出馬した。この選挙区には、自民党籍を持つ無所属新人の渡辺真太朗氏も立候補し、保守分裂選挙となっていた。その選挙における簗氏の街頭演説。
政権与党の議席がなくなった地域の予算は、ごっそり削られます。だってそうですよね、民意が、もう与党の議員いらないと言っているんですから。役所も遠慮なしに予算を削れるんです。政権与党の簗和生のパイプを使わない理由はないじゃないですか。
自分を選ばなければ、この地域の予算が大幅にカットされるぞと凄んだわけである。だが結果として、渡辺氏が勝利し、簗氏は比例復活に甘んじた。那須烏山市の川俣市長、那珂川町の益子町長、大田原市の相馬市長が、渡辺氏の支援にまわり、そのうち那須烏山市と那珂川町における簗氏の票が伸び悩んだ。
保守分裂選挙はよくあることだが、簗氏はよほど川俣市長と益子町長が許せなかったとみえ、今年5月、予算配分に介入して“報復”におよんだかのごとく地元の自民党員との懇親会の場で言い募った。以下はその際に録音された音声データの中身である。
那須烏山市と那珂川町の令和8年度の道路予算については、大幅にカットしました。これはもう当たり前なんですね。那須烏山市については、前年度の64%減、3分の1にしました。そして、那珂川町は54%減にしています。
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「パワハラ気質」の持ち主でもあるらしい簗和生という人物
減額させた理由について、こう説明した。
2つの要件がありますので言っておきます。1つは、首長が「自民党の国会議員はいらない」という行動をとった。2つ目の要件は、票数。多くの市民・町民が、そういう判断をしたということですから。そうであれば「自民党は必要だ」というところに、多く回すのが当たり前の話ですから、それをやりました。
那須烏山市長と那珂川町長が自民党公認の自分を支持せず、他陣営の応援に回った。市民や町民も選挙区で勝てるだけの票を投じてくれなかった。それなら、予算は支持してくれた自治体に回すのが当たり前だと、平気な顔で言う。
私は、いま、筆頭副幹事長という立場になって、「幹事長室にちょっときてくれ」って言えば、こんなことはできるんですね。
当時、簗氏は自民党の筆頭副幹事長だった。役人を幹事長室に呼びつければ、言うことを聞くと豪語する。参加者が仲間内とはいえ、品位のかけらもない。人徳、識見があり、選挙にも強い政治家なら、こんなあからさまな言い方で支持者をつなぎ止める必要もない。
その衆院選で、高市首相は簗氏の応援に駆けつけていた。
もうとにかく私の大事なやなちゃん。私の知恵袋のやなちゃん、いなかったら大変、本当に大変です。日本列島を強く豊かに。挑戦しない国に未来はない。
私の大事なやなちゃん。だから、投票を。気持ち悪くないか。
21年衆院選で4選を果たした簗氏は党農林部会長に就任した。直属の上司に当たる政調会長を務めたのが、高市氏だった。その縁もあって、昨年の総裁選では高市氏に農政をレクチャーし、信頼を得た。首相が今回の内閣改造で一本釣りしたお気に入り入閣組の一人だ。
だが、往々にして上司への忠誠心の強い政治家は、下の者に厳しい。「人格を否定するような言葉で人を責める」と元秘書が語るパワハラ気質の持ち主でもあるらしい。
それにしても、記者会見での簗氏の説明はひどいものだった。
国土交通省に問い合わせをし、その内容について、地元の自民党支部の会合で報告をしたのが事実です。問い合わせをしたということで、そういった趣旨の考え方、意図的なものを伝えたということはありません。
国交省が決めた個所付けの数字を問い合わせ、それを報告しただけで、予算カットをするよう働きかけたことはないという。それなら、あの発言は自分の力を大きく見せるためのハッタリなのか。
誤解を招くような部分については、真摯に受けとめ、今後、こういった誤解を招くようなことがないように、しっかりと職務に臨んでまいりたい。
誰がどう誤解したというのだろう。言っていることを、素直に受け取っているだけではないか。「誤解」は失言をごまかすための政治家の常套句のようなものだが、これはあまりに馬鹿げた釈明だ。
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深まるばかりの簗和生農水相が「予算カット」に関与した疑い
報道によると、衆院選後の今年2月中旬、まだ予算調整中の国交省幹部を簗氏が議員会館に呼び出し、予算について問い合わせていた。そのさいのやり取りについて、担当者は「働きかけや圧力はなかったと思う」と曖昧な発言をしている。しかし、栃木3区のうち、首長が簗氏を支持した那須塩原市と那須町は道路予算が増額され、支持しなかった那須烏山市、那珂川町、大田原市は減額されている。どういうことなのか。
臨時国会初日の10月5日、閣議後に高市首相と面談し、記者たちの前に姿を現した簗大臣は神妙な面持ちでこう語った。
過去に私が道路予算を大幅にカットした。また、首長が自民党の国会議員はいらないという行動をとった。多くの市民町民がそのような判断をしたといった発言について撤回をし、お詫びをいたします。私が担当省庁に予算削減の働きかけをしたという事実はございません。
国会審議が始まる前に火消しをはかったつもりなのだろうが、予算カットに関与した疑いは深まるばかりだ。
自民党では、地元に多くの予算をもたらすことが国会議員の実績として高く評価されてきた。与党議員を選出すれば道路や橋が整備され、野党系だと予算がつきにくいという歪な行政実態が、自民党の集票を支えてきた。
時代とともに透明性や公正な行政配分が求められるようになったが、それでもなお、霞が関を巻き込んだ利益誘導政治がまかり通っていることが今回の発言で露呈したといえる。
本来、国民の血税で賄われる予算の配分は、特定の政治家の利害や感情に左右されるべきではない。住民の生活向上や利便性、公益性に基づいて公平に行われるものだ。それをあたかも私財をばらまくがごとく、「自分を支持しなかったから削った」と誇らしげに語る姿は醜悪というほかない。このような政治家を大臣に登用した高市首相が任命責任を問われるのは当然のことだろう。
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image by: やな 和生 - Home | Facebook