帰宅困難者、なお多数 タワマン増、高齢化で課題―首都直下想定
東京都が25日に公表した首都直下地震の新たな被害想定で、2012年公表の従来想定と同様に、東日本大震災時を上回る規模の帰宅困難者が見込まれるとの推計を示した。タワーマンションが増え、高齢化が一層進んだことによる防災上の課題も浮き彫りにしており、専門家は「自分にどんな被害が起きるか想定してほしい」と都民に対策を促している。
◇滞在施設確保は途上
東日本大震災では、主要鉄道駅周辺など都内で約352万人(内閣府推計)の帰宅困難者が発生した。都はこれを教訓に、一斉帰宅による混雑を避けるため、まず都民や事業者に対し、発生後3日間は職場や学校にとどまるよう要請。同時に、買い物客ら行き場のない被災者を受け入れる一時滞在施設の確保を進め、オフィスビルや商業施設など民間企業にも協力を呼び掛けてきた。
新たな想定による帰宅困難者数は約453万人で、12年に公表した従来想定(約517万人)よりは減った。ただ、一時滞在施設を必要とする人約66万人のうち、確保済みは約44万人分にとどまっており、対策は途上だ。
都は22年度、企業内で担当者を決め、一斉帰宅を控えるよう従業員らに呼び掛けてもらう「事業所防災リーダー」制度を創設。また、混雑のピークをつくらないため、国や周辺県と連携して、分散帰宅の在り方も検討している。
◇「陸の孤島」に
今回の被害想定では、避難所や自宅、職場でどのような事態が起きるか、時系列に沿ったシナリオを提示。近年の社会の変化で浮かび上がる課題を整理した。
例えば、地震でエレベーターが停止し、高層階の住民が長期間にわたって地上と往復するのが困難になる可能性を挙げた。都内では、マンションなどの6階以上に住む世帯数は20年までの10年間で33.3%増加しており、震災時に影響が広がりそうだ。都の担当者は「十分に備蓄しておかないと、自宅は無事でも『陸の孤島』となる恐れがある」と警戒を促す。
また、地震が夏に発生した場合、停電で避難所の冷房が使えなくなれば、体調不良となる人が増加。体力のない高齢者が犠牲となる「災害関連死」のリスクを示した。
取りまとめに当たった都防災会議の平田直部会長(東京大名誉教授)は、被害軽減のためには都民一人ひとりの意識向上が重要だと強調。「自分が置かれている環境でどんなことが起こるか、想像して備えてほしい」と呼び掛けている。(2022/05/26-07:10)