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知らない間に進む国民包囲網!マスコミが報じない「企業担当制」の正体

皆さん、政府が計画している「企業担当制」って知ってますか?「海外から日本に重要な投資をする企業には、安倍内閣の副大臣や政務官を相談相手につける」というものなのですが…、これがけっこうトンデモなシロモノだと、無料メルマガ『三橋貴明の「新」日本経済新聞』内で九州大学大学院准教授の施光恒が解説してくださってます。

「企業担当制」という約束

少し前の話になりますが、3月17日に政府の審議会「対日直接投資推進会議」は、海外から日本への投資拡大のための「5つの約束」というものを発表しました。

海外からの投資を呼び込むため日本は下記の5点について努力しますと、外国政府や外国企業に対して約束したのです。

「海外企業の対日直接投資加速へ 政府が5つの約束を決定」(FNNニュース 2015年3月18日配信)

5つの約束とは、次のものです。(政府発表の文章、そのままです)。

  1. 百貨店・スーパーマーケット・コンビニエンスストア等で外国語で商品を選んで買い物をいただけるよう、病気になったときも外国語で安心して病院で診療いただけるよう、車や電車・バスで移動する際も外国語表記で移動いただけるようにします。
  2. 訪日外国人が、街中のいろいろな場所で、我が国通信キャリアとの契約無しに、無料公衆無線LANを簡単に利用することができるようにします。
  3. 外国企業のビジネス拠点や研究開発拠点の日本への立地を容易にするため、すべての地方空港において、短期間の事前連絡の下、ビジネスジェットを受け入れる環境を整備します。
  4. 海外から来た子弟の充実した教育環境の整備を図るとともに、日本で教育を受けた者が英語で円滑にコミュニケーションが取れるようにします。
  5. 日本に大きな投資を実施した企業が政府と相談しやすい体制を整えます。また、日本政府と全国の地方自治体が一体となって、対日投資誘致を行うネットワークを形成します。

(上記の「5つの約束」の詳細については下記のサイトをご覧ください)。
「内閣府 対日直接投資推進会議」HP

いかがでしょうか。

まあ、なんか情けないですよね。最初の(1)の「買い物をいただけるよう…」とか「外国語表記で移動できるよう…」なんて日本語の文章自体がどこかヘンになっていますし…。
(・_・;)

それに、こういう「国際公約」を作る最近の政治のやりかた、私は、気に入りません。

日本国民に周知する前に、「5つの約束」を外国や外国企業に対して発表し、既成事実を作っていくというのは、言うまでもなく、民主政治に反しています。

「5つの約束」について問題にしたい点は多々あるのですが、今回は、「企業担当制」の創設についてです。上記の約束(5)の一環として作られる制度です

(「企業担当制」については、先月、産経新聞の九州・山口版の拙コラムでも扱いました。そちらもご覧ください。)
「企業担当制 自国民保護へ十分な監視を」『産経新聞』(九州・山口版)(平成27年3月12日付)

この「企業担当制」とは、「海外から日本に重要な投資をする企業には、安倍内閣の副大臣や政務官を相談相手につける」という構想です。外国企業からさまざまな要望を直接聞き、進出しやすいように各種の便宜をはかるというのです。

この構想、ちょっとヘンだと思いませんか。

あからさまに、日本の政権の高級幹部と海外の大企業が結託し、企業に様々な便宜をはかるよう御用聞きしますよ、ということですので。

普通、政治と企業とが近い関係にあれば、注意が必要です。一般国民の利益ではなく企業の利益が優先されるのではないかと、マスコミなどは警戒します。

また、外国勢力が、日本の政治に影響を及ぼすことにも、通常は注意が促されます。

実際、日本の政治が、外国の政府、企業、個人からの影響のため、国民本位でなくなってしまうことを恐れ、そうならないように各種の規制がかけられています。

外国人の政治献金が禁じられているのも、放送局に外資規制がかけられているのも、また、外国人の参政権を認めるべきでないのも、政策が外国の影響を受け、国民本位でなくなってしまう事態を避けるためにほかなりません。

「政府と企業の癒着の恐れ」、「外国勢力から影響を受ける恐れ」という二つの懸念があるのに、「企業担当制」については、マスコミは、ほとんど批判していないように思います。なんか不思議です。もうちょっと警戒心をもって報じてもいいのではないでしょうか。

「グローバル化」の一環だから、ということで、批判の矛先が鈍っているのではないかと懸念します。

確かに、海外からの投資は、株価を引き上げたり、雇用を生み出したりするプラスの効果もあります。

しかし、グローバル化の進む現代の経済においては、グローバルな投資家や企業の利益と日本の一般国民の利益が必ずしも一致するとは限りません。

周知の通り、現在の日本はデフレ継続中です。したがって、国内市場ではモノが売れません。日本企業でさえ、投資を手控えて、内部留保をため込んでいるのが現状です。

日本企業でさえ投資を手控えるほど日本市場は稼ぎにくい状況にあるのに、「海外企業を呼び込んできたい、そのための口利きを政府の高級幹部が直接行おう」ということですから、「企業担当制」では、おそらくいろいろな「サービス」が行われるはずです。

グローバル企業に有利で、たいていの場合、日本の一般国民には不利な「サービス」です。

おなじみのものとしては、例えば、法人税の減税でしょう。

グローバル化時代の税制の基本原則は、「国境を超えて移動できる企業や投資家、富裕層には甘く、国境を移動できない一般庶民には厳しく」です。この基本原則に忠実な税制が「海外企業からの要望」、「投資を呼び込むために必要」という言い訳のもと、ますます整備されていきそうです。

他の「サービス」としては、「岩盤規制の打破」です。周知の通り、政府は、「エネルギー、医療、農業、雇用、教育」などを「規制産業」と称して、これらの分野の規制緩和を行うと繰り返し強調しています。

しかし、これ、日本の一般国民の生活という観点からすれば、結構恐ろしい話です。

これらの分野は、いうまでもなく国民生活の根幹です。「人々の生活の基盤となるので、あまり直接的に市場原理を導入してはならない」ということで、これまで政府や自治体が監督してきた部分が大きいわけです。

それなのに、そういう経緯をきれいさっぱり忘れ、最近は「既得権益」をぶっ壊して、市場原理にさらすぞ!それこそ前向きな改革なんだ!!と、安倍政権は、躍起になっています。

企業からすれば、国民生活の根幹に関わる「エネルギー、医療、農業、雇用、教育」などは、デフレでもとても「稼ぎやすい」領域です。

人々は生活が苦しいときでも、電気やガス、水道などのインフラは使いますし、医療も受けます。食品も買わなければなりません。教育についても、不況下でも、なるべくよい教育を子供に受けさせたいというのが人情です。

デフレの渦中にあっても、この領域であれば、企業は、安定したビジネスが期待できるわけです。

市場として国際的にみても非常に大きく、またデフレだろうがなんだろうが安定的に稼げる日本のこの種の領域に、グローバル企業は、参入したくてたまらなかったわけです。

「企業担当制」では、これらの領域のいっそうの規制緩和も海外企業から要望されるでしょうし、政府のほうも、「海外企業や投資家の皆様にご満足いただけるよう」それに応えていくのでしょう。

昨日(4月2日付)の日経新聞の第一面は、「裁量労働制の対象拡大──金融やIT、専門知識持つ法人営業職に」という労働規制緩和に関する記事でした。

これも、「岩盤規制の打破」の一環です。「雇用」分野の規制緩和です。

「企業担当制」ができた暁には、グローバル企業と日本政府高官との間にホットラインが敷かれるわけですから、この種の変革がさらにどんどん進められるようになるはずです。

日本人は、「外国人からこれこれの要望がある」という議論に大変弱いですからね。国内の議論ではなかなか進まなかった各種「改革」も、「企業担当制」という御用聞き制度からあがってきた要望と絡めることによって、結構簡単に実現するようになっていくのではないでしょうか。

また、「企業担当制」では、グローバル企業と政府高官や中央省庁とのホットラインだけではなく、事実上、各地の自治体とのホットラインも作られます。

政府は、各自治体間で、海外から投資や企業を引き込んでくるための競争をさせたいのでしょう。一種の「御用聞き競争」になりそうです。「法人税引き下げ競争」とか「規制緩和競争」、「補助金あげる競争」、「外国人向けの病院や学校などの施設を日本の税金で作る競争」など、グローバル企業やその従業員に便宜をはかる競争が行われそうです。
(+_+)

ホント、現在の日本では、「グローバル化」というのは、我々の通常の感覚を麻痺させる一種の「マジック・ワード」として機能しているように思います。

企業と政府が直結してしまう危険性がマスコミなどにほとんど指摘されず、スルーされてしまっているわけです。

「グローバル化」の名のもとに進められる各種「改革」提案に、もう少し警戒心をもってもいいのではないでしょうか。

ながながと暗い話題を失礼しますた…

施 光恒(せ・てるひさ)@九州大学

 

『三橋貴明の「新」日本経済新聞』より

経済評論家・三橋貴明が責任編集長を務める日刊メルマガ。三橋貴明、藤井聡(京都大学大学院教授)、柴山桂太(滋賀大学准教授)、施光恒(九州大学准教授)、などの執筆陣たちが、日本経済、世界経済の真相をメッタ斬り!日本と世界の「今」と「裏」を知り、明日をつかむスーパー日刊経済新聞!
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