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アメリカで止まらない「日本化」現象…何が起きてるのか?

作家の冷泉彰彦さんによると、この10年ほどでアメリカがじわじわと日本化しているとのことなんですが、その背景には何があるのでしょうか。メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』で詳しく考察されています。

日本化するアメリカ

ここ10年ぐらい「じわじわ」と感じて来ているのですが、アメリカが「日本化する」、つまり日本と比較すると「全くの異文化」だった要素が緩和されて、アメリカで起きていることが日本に似てくるという現象が散見されるようになってきています。

1.チップ制の廃止

例えば、最新の動きとしてはレストランにおける「チップ制の廃止」という問題があります。ニューヨーク市内で「ユニオン・スクエア・カフェ」をフラッグシップとして人気レストランを13軒運営しているダニー・メイヤー氏という「名物経営者」がいるのですが、この10月15日に声明を発表し、メイヤー氏の会社の傘下レストランでは、1年をかけてチップ制を廃止すると宣言、市内に波紋が広がっています。

メイヤー氏の説明はシンプルで、厨房内に勤務する固定給の調理スタッフと、チップ制を取っているホールのサーバー(テーブル係)の間の不公平が限度を越えているからというのです。確かにNY市内などではチップの率は高騰しており、ミニバブル的な世相の中で、お客が1本200ドルのワインを頼むと、そのたびにサーバーには40ドルが自動的に入る一方で、厨房にはその恩恵は行かない、これでは全体のマネジメントが難しくなるというのも分かります。

ですが、チップ制というのは、アメリカのサービス業の根本に根ざした文化であるわけです。つまりサービス労働というのは「組織から強制される」ものではなく、パーソナルで自発的なものという「個人主義のタテマエ」があるわけで、お客もその「フレキシブルなパーソナルタッチ」を「個人」として楽しむという、その全体が1つのカルチャーになっているわけです。

仮にチップ制廃止が全米に普及したとして(ボストンでは絶対にチップ制は死守するという声もあるようですが)、そのカルチャーはどこへ行くのか、気になるところです。

2.受験地獄

日本のような「学部段階」で名門大学に入ることに必死になるという「受験地獄」は、アメリカの場合、90年代前半までは強くありませんでした。多くのアメリカの「お父さん」は、無理に学費の高い私立に行くのではなく、学部段階は公立で良いという方針でしたし、アイビーなどの名門は「代々がその学校の卒業生」という学生が多い「のんき」な雰囲気があったのです。

それが、90年代後半から「学部段階でも少しでも良い大学へ」という風潮が強まり、その結果として「SAT(統一テスト)対策塾」であるとか、家庭教師ビジネスなどが全米で乱立するようになりました。

その背景には、思春期の子どもを放任しないというカルチャーを持ったアジア系が多数流入して、そのカルチャーが拡大して行ったということもあるでしょう。またITバブル崩壊後の就職難が拍車をかけたということもあると思います。

その一方で、アメリカの入試は日本のように「一発勝負」ではなく、全人格選抜とでも言うような内容になっており、定形的な訓練で受かるような「甘い」ものではないことから、大学とその学生のクオリティに劣化はないという見方もできます。

特に、各大学は「入学が自己目的化している学生」は必死になって排除していますから、まだまだ教育機関としてのプラクティカルな健全性は残っていると考えられます。そうではあるのですが、少なくとも昔はなかった「受験地獄」が起きているということは、ある種の「日本化」だと言えます。

3.ビジュアルなコミュニケーション

例えばメールにおける「絵文字」は日本発ですが、徐々にアメリカでも流行し始めており、アップルのOSに付属している「純粋日本発の絵文字」はアメリカでも使う若者が増えているようです。

またフェイスブックやインスタグラムなど、写真を使ってメッセージを表現するSNSも大流行で、こちらはアメリカ発ではありますが、少なくとも「限りなく言葉の力、言葉のロジック」を信じ、抽象概念を言葉で操ることを大事にしてきたアメリカ社会で、こうした「目に見える」視覚化されたコミュニケーションが大流行するというのは、今後、長い目で見て何らかの社会的な影響が出てくるのではないでしょうか?

image by: Shutterstock

 

『冷泉彰彦のプリンストン通信』より一部抜粋

著者/冷泉彰彦
東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは毎月第1~第4火曜日配信。
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