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ポニョの舞台を住民が死守。何をどう争っていたのか弁護士が解説

2008年に公開され大ヒットとなったスタジオジブリ作品「崖の上のポニョ」。実は、この映画の舞台になった「鞆(とも)の浦」では長年、埋め立てをめぐって賛成派と反対派が対立していました。無料メルマガ『知らなきゃ損する面白法律講座』では、先日決着したこの訴訟を取り上げ、法律家の観点から分析しています。

「崖の上のポニョ」の舞台をめぐる訴訟に決着

瀬戸内海の景勝地「の浦」(広島県福山市の埋め立てと架橋建設計画に対し、地元住民らが埋め立て免許を県と福山市へ交付しないよう県知事に求めた訴訟の進行協議が2月15日、広島高裁で開かれました。この「鞆の浦」は風光明媚な港町で、宮崎駿監督の映画崖の上のポニョの舞台としても知られ、訴訟の行方が全国から注目されていました。

県側は免許申請を取り下げる方針を住民側に伝え、これを受けて住民側は訴訟を取り下げました。1983年に計画が策定されて以降、「景観保護利便性」をめぐって激しく争われてきましたが、ようやく終止符が打たれました。

今回はこの「鞆の浦」をめぐってどのような訴訟が行われてきたのかを、見てみたいと思います。

「鞆の浦」は江戸時代の面影を残す港町ですが、道路の幅が狭く自動車の通行に困難な箇所が多数存在していました。また、少子高齢化も進んでいることもあり、利便性を向上し、地域の活性化を図る目的で、広島県と福山市が埋め立て・架橋計画を立案しました。

しかし、景観の保護という観点などからこの計画を反対する住民もいて、事業をめぐって賛成派と反対派が激しく対立しました。そのような中、平成19年(2007年)に反対派住民が広島地方裁判所に埋め立て免許差し止め訴訟を提起しました。

訴訟では主に、

  1. 鞆の浦の良好な景観の恩恵を受ける住民の利益が損なわれるか
  2. 交通が便利になったりする等の事業によって得られる利益が、景観を損なう利益を大きく上回るか
  3. 埋め立て免許が出されると回復不可能な重大な損害が生じるおそれがあるか

について争われました。

広島地裁は、鞆の浦の景観について、瀬戸内海における美的景観をなすもので、文化的歴史的価値を有する景観としていわば「国民の財産ともいうべき公益」としています。そして、景観の恵沢を享受する利益は、私法上の法律関係において、法律上保護に値する、と判断し、景観を侵害する判断は慎重に行われるべきと述べています。

得られる利益についても、調査不足のものが多いと指摘し、項目によっては得られる利益が認められないこともないが格段に効果が増すとはいえない、としています。そして、この事業が一旦完成してしまったら、復元することはまず不可能である、と判断しました。

上記の認定に基づき、県知事が埋立免許を出すことは、法が認めた裁量権の範囲を超えるとして、差し止めを認めました(広島地裁平成21年10月1日判決)。

その後、裁判は控訴され、広島高等裁判所に係属していましたが、県側の方針転換により、計画をめぐる訴訟は終わりました。平成21年(2009年)の住民側勝訴により、各地の開発と景観をめぐる紛争に大きな影響を与えてきましたが、今回景観保護という形で完全に決着がついたことによりさらなる影響を与えることも考えられます。

景観を保護しつつ日常利便性の向上をどう両立していくか、広島県や福山市の手腕に今後も注目が集まりそうです。

 

 

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