現状のまま継続すれば確実に生活が立ち行かなくなる我が国のナフサ不足。そんな危機のさなかにあるにもかかわらず、自民党内では複雑な権力闘争が静かに進行しているようです。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では元全国紙社会部記者の新 恭さんが、このタイミングで麻生太郎氏を中心に発足すると報じられた「国力研究会」が持つ意味を考察。さらに高市首相を支えるはずの新議連が、実際には「麻生支配」を強める装置になりかねない危うさを指摘しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:国力研究会という名の檻。麻生太郎の老獪な救済が高市首相を飲み込む
麻生太郎の老獪。高市首相を飲み込む「国力研究会」という名の檻
高市首相が自民党内で孤立しているという趣旨の報道が相次ぐなか、産経新聞が「そんなことはない」といわんばかりのスクープ記事を出した。
高市首相を支える自民党議員グループ「国力研究会」が麻生太郎副総裁を中心に発足するというのだ。麻生氏はもちろん、茂木敏充外相、小泉進次郎防衛相、小林鷹之政調会長といった次期総裁候補、さらには萩生田光一氏、加藤勝信氏、西村康稔氏ら名だたる実力者が発起人として名を連ねた。
実に壮観、これなら高市総理も安泰。と言いたいところだが、どうにも腑に落ちない。
第一、麻生氏が自らこんなことを発案したのだろうか。昨年の総裁選で高市氏を支援したのは確かだが、自分が音頭を取って派手派手しく党内に呼びかけるようなことをする人だろうか。所詮は殿様だ。誰か別に、“原作者”なり“推進役”がいるはずである。
ヒントになるのは、この記事の書き手が、自民党を担当する「平河クラブ」所属の若手・中堅記者ではなく、産経新聞特別記者、有元隆志氏であるということだ。
政治部長を経て月刊「正論」の発行人兼調査室長をつとめた60歳の大ベテラン。当然のことながら、政界人脈は広く、深い。昨年の総裁選では麻生氏の動向を正確にキャッチし、麻生氏が進次郎支持に傾いているという一部識者の見方を否定、一貫して「麻生は高市支持」と報じ続けた。それだけ、麻生氏、あるいはその周辺に食い込んでいるといえよう。
有元氏は記事の中で「複数の党関係者が明らかにした」と取材源に言及している。だが、筆者は、有元氏自身もまたこの議連結成計画を練ったメンバーの一人ではないか、と勝手に想像している。「複数の党関係者」はあくまで、この“くわだて”に関わった“仲間”に違いない。読売新聞の後追い記事が参考になる。
新グループの結成は、首相に近い山田宏参院議員が中心となり、萩生田光一幹事長代行らとともに準備を進めている。
おそらく有元氏の言う「党関係者」とは、山田氏と萩生田氏のことであろう。高市首相を支援する3人が、その党内基盤を強くする方策を話し合うなかで、この計画が持ち上がり、旗振り役に麻生氏を担ぎだしたと考えるのが自然だと筆者は思う。
山田氏は「高市早苗は日本のサッチャーだ」と褒めたたえ、総裁選の推薦人として高市政権誕生に奔走した保守政治家で、今年1月、麻生派へ入会したばかり。
萩生田氏は、麻生氏をして「あいつは腹が据わっている」と言わしめる存在。義弟、鈴木俊一幹事長を支える幹事長代行に麻生氏が推したことからも、二人のいわば“盟友関係”が浮かび上がる。
では、麻生氏はなぜ、この話に乗ったのだろうか。先の衆院選の圧倒的な勝利に自信を深めた高市首相が、麻生氏の影響力をそぐため、衆院議長という名誉職への就任を打診し、断られた。そのさいの“わだかまり”が尾を引いていたはずである。
その点、麻生氏は老獪だ。誇りが傷つけられたからといって、怒りなどおくびにも出さす、高市首相の求めに応じて昼食会に出席し、趣味には合わない焼き魚定食をぺろりと平らげて見せた。麻生氏にはかなわないと高市首相に思わせた瞬間だったのではないだろうか。
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来年の総裁選に向け羅針盤なき航海が続く「高市丸」
総選挙の後、麻生派は新人11人を含む18人の新入会員を迎え、所属議員が計60人に急増した。他派閥が政治資金問題で解散し、党内勢力図が混とんとするなか、唯一存続する派閥として存在感を増している。さらに勢力を拡大し、ポスト高市をにらみながら、政権を実質支配していくのが麻生氏のハラだ。その意味でも、この議員グループには利用価値がある。
なにしろ、茂木、小泉、小林といった面々を束ねて動けるのである。彼らは高市首相を支えるという大義名分、そして麻生氏が中心になっているという重い事実には逆らえない。なにより、麻生氏の呼びかけを断れば「反高市」の旗を鮮明にすることになり、政権内での立場を失う恐れがある。仕方なく、「高市支持」という檻の中に閉じ込められる道を選んでしまったといえるだろう。
だが、高市首相にとっても、有利な展開と言えるのかどうか。麻生氏の意向に背いたら、何が起こるかわからなくなってしまったのだ。
麻生氏は、この議連を単なる「応援団」ではなく、総裁レースをキングメーカーとして取り仕切っていく「装置」として捉えているように思える。総裁候補の一人である林芳正総務相を外しているのが何よりの証拠だ。
昨年の総裁選では、麻生氏が投票前夜、麻生派所属の議員に出した“指令”が決め手となって高市氏が選出された。麻生氏が高市氏を選んだ背景には、総裁選終盤、急速に支持を伸ばしてきた林氏の当選を阻止する狙いもあった。
林氏には、かつて「宏池会」のドンといわれた古賀誠氏がついている。福岡政界における麻生氏の政敵だ。その人が「林政権」を実現させるため水面下で動いていた。
麻生氏は今回も、同じ構図で林氏を排除した。その一方、議連の発起人という形で、お気に入りの3人の総裁候補を掌中におさめた。つまり、麻生氏にとってこの議員グループは、どちらに転んでも自らの権勢を維持できる魔法の迷宮になっていく可能性を持っているのだ。
では、高市首相自身はこの議連をどう思っているのだろうか。自らを支えてくれる党内組織が誕生するのは歓迎すべきことであるに違いない。いぜんとして少数与党の参院で、思い通りに動いてくれない石井準一参院幹事長らをけん制するためにも、麻生氏のバックアップが必要だ。
しかし、それは結局のところ、麻生支配の自民党に戻るということにほかならず、衆院選後に高市首相が描いた「一強」体制とは逆行してしまうことになる。喜んでばかりはいられないはずだ。
高市首相の強みは、ネット上の熱狂的な支持層にある。しかし、麻生氏が用意したこの「国力研究会」という装置は、そうした制御不能なエネルギーを、伝統的な数と序列の「論理」で上書きしようとするものに違いない。
「高市支援」と銘打った大芝居。その幕が上がった今、高市首相は自分自身の言葉である「国力」という名の下で、皮肉にも自らの政治的生命線を麻生氏に委ねることになった。来年の総裁選に向け、高市丸の羅針盤なき航海は続く。
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