高市早苗首相が、食料品にかかる消費税率を来年4月から2年間限定で1%に引き下げると表明しました。物価高に苦しむ国民には朗報に聞こえますが、2年後には大増税が待ち受け、外食産業や農家への深刻な副作用も懸念されています。そもそも年5兆円の財源すら不明のままです。メルマガ『小林よしのりライジング』では、漫画家・小林よしのりさん主宰の「ゴー宣道場」参加者としても知られる作家の泉美木蘭さんが、支持率をつなぎ止めるためだけの「左派ポピュリズム」政策が、いかに日本の未来を犠牲にするかを徹底的に検証します。
※本記事のタイトルはMAG2NEWS編集部によるものです
高市早苗は、支持率のために日本を壊す
7月30日、高市早苗が、食料品にかかる消費税率を来年4月に2年間限定で1%に下げると表明した。 残り1%分は中低所得者へ現金給付して「実質ゼロ」にすると言うが、そのために必要な年5兆円ほどのカネをどこから捻出するのか、この原稿を書いている時点では不明である。
高市が自分で設けた国民会議では、これまで5か月間、計21回も消費減税について議論したらしいが、結局、財源的にもシステム的にもどうやら無理があるという堂々巡りをくり返すばかり、自民党内や政府内でも慎重論が噴出していると報じられてきた。
つまり、「この消費減税、問題が山積みすぎて結論が出せません」という結果が出たわけだ。
ところがそれを、「問題が山積み? 知るか! やるって言っちゃったんだからやるんだよ!」と言わんばかりに押し切ってしまうのだから、無責任も甚だしい。
財政運営は気合いと根性で乗り切るものではないだろう。
高市が強気になれるのは、自民党の支持率よりも内閣支持率のほうが高いからだ。 つまり、無党派層の支持が大きい。 野党がばらばらの小粒状態で、はっきりとした対抗勢力になっていないことも、暴走を後押ししている。
高市の魂胆は見え透いている。
マスコミの世論調査で、全社の内閣支持率が10ポイント前後急落し、政権発足以来最低となったからだ。
それでもまだ40~60%程度の支持率があり、支えているのは20代30代の若者世代だとも分析されているが、日経新聞の世論調査では、内閣を支持する理由として「政策がよい」と答えた人が、政権発足時の36%から19%へと半減した。
国民が優先して取り組んでほしいと考えている政策のトップは、ここ2年近く一貫して「物価高対策」である。 だから、いかにも国民ウケしそうな「食料品の消費税1%」でアピールしているのだ。
将来の国の財政、国民の負担がどうなるかということよりも、「目先の生活費」をチラつかせて人気をつなぎ止めようとする。 こういう経済政策は、「左派ポピュリズム」と言えるだろう。
一方で、皇統問題では、現在の女性皇族を追い出して、養子の一般国民と入れ替え、天皇というものを根本から違う制度に作り替えようとしているのだから、もはや共産党より振り切れた「革命思想」と言える。
高市政権を「保守」と分類するのは、本当に、やめたほうがいい。
もちろん、食料品が安く買えるなら、私も嬉しい。 貧困家庭が増えて、助かる人がいることだってわかる。 だが、首相が国民と一緒になって「安ければいい」と言うことに、「国家を運営する責任」の視点があるとは思えない。
無責任な消費減税は、将来の国民生活をますます悪化させる可能性のほうが高いからだ。
泉美木蘭さんも寄稿する『小林よしのりライジング』
2年後、大増税の痛みがやってくる
第1に、税率8%を1%まで引き下げても、2年後に戻すなら、家計は逆回転して大幅増税となってしまう。
消費税は、1989年に3%からはじまり、5%(1997年)、8%(2014年)と、25年かけて段階的に引き上げ、直近2019年の10%への増税時には、わざわざ軽減税率というややこしい仕組みまで持ち込んで、「食料品は8%に留め置く」という経緯をたどってきた。
それをいきなり逆回転させる上に、2年後にはドカンと元に戻すのだ。
しかも、戻す位置は「減税を開始する2027年の現在地」ではないということを、よく考えておかなければならない。
高市は、減税という快感だけを見せて国民を誘惑しているが、そこには、増税という苦痛が必ずセットになっている。
残念ながら、日本の2年後は、今よりもさらに物価が上昇しているだろうし、住宅ローンをはじめとする家計の借入金利も上昇しているだろう。
現在の物価高は、円安による輸入物価の上昇や、戦争による一時的な燃料・原材料高騰だけが原因ではない。 そもそも日本が人手不足に陥っていて、物やサービスの単価を引き上げなければ、収益を賄うことも事業を継続することもできなくなっているのだ。
2029年には、今よりもさらに生活費の重い世界になっている。 その時に、8%もの大増税を国民が受け入れるのだろうか?
高市は、2年後について、「私が責任を持ち、確実に税率を戻す」と言っているが、2年後も首相をしている保証などない。 たとえ首相だったとしても、目先の人気に依存した政権が、その時の国民を納得させられるとは思えない。
これのどこが「物価高対策」なのだろうか。
この先に待っているのは、政治も社会も大混乱である。
政策がフランケンシュタイン
第2に、この減税策は、発案された瞬間から各業界への副作用が懸念されており、そのための支援策が次々と浮上している。
外食産業が代表例だ。
スーパーやコンビニ、テイクアウトなどは税率1%だが、レストランや定食屋、居酒屋など店内飲食は10%。 これでは「外食はやめてスーパーの総菜を買って帰ろう」「店で食べるのはコスパが悪い」と考える人が増えても不思議ではない。 当然、飲食店には家賃や光熱費など維持費がかかり、売り上げが減るなら人も雇えなくなる。
農家への副作用も大きい。
日本の農家は、年間売上1000万円以下の免税事業者が多く、消費税率の引き下げがかえって打撃になってしまうという逆転現象が予想されているのだ。
共同通信の報じた記事によれば、食料品のみの減税が行われた場合、全国80万近い中小農家の手取りが、年間3千億円以上減る恐れがあるという。
外食産業から客足が遠のけば、それもまた農家に直接影響するだろう。
そもそも高齢者が細々と経営しているケースも多く、これを機に離農が進む可能性もあるのだ。
外食産業や農業者からの反発を受けて、高市は「資金繰りなどのための予算措置を検討する」「今後の予算編成プロセスで支援策を具体化していく」など発言している。 コロナの時の「Go To Eatキャンペーン」を打つのか、直接補助金を投入するのか、それは不明なままだが、いずれにしろ、それは「減税政策をやるために税金を投入する」という話である。
無理のある政策を強行した結果、次々と新たな問題が生まれる。 その問題に対処するために、また新たな予算や制度をつぎ足す……。
高市の政治は、その場しのぎの連続で、つぎはぎだらけのフランケンシュタインである。
泉美木蘭さんも寄稿する『小林よしのりライジング』
「生活支援」の発想が、古い
第3に、この問題は外食関連業界への影響だけではない。
現代の生活様式は大きく変化している。 「外食しないで、自炊すればいいじゃないか」という発想だけでは、もはや現実に対応できないのだ。
例えば、子供のいる共働き世帯は、残業を終わらせてから、保育園へ迎えに行ったり、塾や病院へ連れて行ったりして、帰宅時にはヘトヘトだ。
スーパーへ食材を買いに行ったり、料理したりする時間も体力も削られていて、ファミレスや牛丼、うどん、ファストフードなどのチェーン店を利用することが、家事の負担を減らす手段の1つになっているというケースは少なくない。
介護に追われている人も同じだ。 「今日はもう食事が作れないから外食」「疲れた日はファミレスが命綱」という声は珍しくもない。
外食は、もう「贅沢」「特別なこと」だけではなくなっているのだ。
だが、「裁縫」や「アイロン」を政治家としてのアピール材料にしてしまう高市の頭のなかは、いまだに「専業主婦の妻が夕食を作って待っている」という昭和の家族像があるのだろう。 共働きが当たり前になった社会の現実も、外食が生活を支えるインフラになった現実もわかっていないのだ。
スーパーの食料品さえ安くしておけば生活支援になる、という発想そのものが、時代遅れなのである。
で、財源は?
第4に、冒頭にも書いたが、減税に充てるための財源が見えない。
高市は「赤字国債の増発には頼らない」と言う。 第387回「首相は日本国債の『信用保証人』である」で書いたが、今年1月、高市が衆院解散会見で「積極財政」と「食料品2年間消費税ゼロ」をダブルで打ち出したために、金融市場で日本の財政運営への不安が広がり、長期国債の価格が暴落、日本の信用を国際的に揺るがす事態に発展するという出来事があった。
巨額の財政赤字を抱える国の首相が、選挙を有利にするために「国債を増発して借金をさらに増やしつつ、税収は減らします」と宣言したのだから、警戒されたのは当然だった。
迂闊な高市も、さすがに慎重にならねばならず、同じことはもう言えない。 そうなると、別の税を引き上げるのか? 社会保険料を上げるのか? 医療や介護の自己負担を増やすのか?
あるいは新たな税を作るのか? それとも社会福祉をごっそり削るのか?
いずれにせよ、どこかで必ず国民が負担しなければ、減税の帳尻は合わないのだ。
「減税や現金給付で生活費をばらまく」という政策をとる以上、国民負担は消えない。 目立たない場所へ移されるだけなのである。
このことを「コスパ」にこだわる若者こそが見抜いてくれたらと考えてしまうが、SNSやヤフコメなどの反応を見ていると、やはり「減税してほしい」という感情のほうがはるかに強烈で、そうもいかないようだ。
マスコミによる高市批判も、「減税反対、増税しろ」ではなく、「無責任な減税は危険だからやめろ」という論調なのだが……。
私は毎年、自分で貸借対照表を作って確定申告し、時には税務署からの問い合わせに対応したりして、所得税も消費税も住民税も「うぅ~」と痛い思いをしながら現金で納付している身なので、「減税」と聞けば、「え、その減収分、何と相殺するの?」と考えてしまう。
だが、会社勤めだと、給料から源泉徴収され、給与明細の数字を見るだけになるので、納税者としての感覚があまり敏感にならないのかもしれないとも思う。
ほかにも専門的に洗い出せばまだまだ問題点が見つかるであろう今回の消費減税策だが、高市の打ち出す政策は、総じて「目の前の支持率」をつなぎ止めるためのものばかりで、そこに国家像も未来への希望もまったく感じられない。
皇統問題では、皇室を「女性は男子を産まなければならない」という男尊女卑の象徴にしてしまい、「これから日本に新しい時代がやってくる」というような気持ちにはなれないし、逆にこの先には不穏な暗雲が立ち込めているようにしか見えなくなった。
経済政策では、未来の負担を国民から隠して、「目の前の生活費」で釣ろうという姑息な悪政しかできず、これから人口減少に向かっていくこの国家をどう運営していくかという大きな視野を展開していくような議論はどこにもない。
これで、明るい展望など持てるはずがないだろう。
ポピュリズムは、国民を「今だけ」気分よくさせる政治で、麻薬のようなものだ。 効き目が切れれば、もっと薬が欲しくなる。 取り上げられそうになれば暴れたくなる。 そうして日本は、社会全体が副作用に苦しむ未来に突き落とされるのだ。
高市早苗は、明日の自分の支持率を買うために、日本の未来を犠牲にしている。 こんな人間を首相にしていてはいけない。
(メルマガ『小林よしのりライジング』2026年8月4日号より一部抜粋・敬称略。続きはメルマガ登録の上お楽しみください)
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