韓国・ソウルは、K-POPや韓国ドラマ、ファッション、コスメなどを通じて、世界に向けて華やかなイメージを発信しています。一方で、実際に街を歩いてみると、観光客が集まる繁華街や高層マンションの陰に、昔ながらの住宅街や商店街、地域の人々が行き交う庶民的な風景が残されていることに気づきます。今回のメルマガ『ジャーナリスティックなやさしい未来』ではジャーナリストの引地達也さんが、ソウルの街歩きを通して見えてくる新旧の街並みや、人々のコミュニケーションのあり方を描きながら、世界に発信される「華やかな韓国」と、そこから少し距離を置いた「庶民の韓国」の現在を考えます。
ソウルの陰影はくっきり、アジュンマは表から離れて
カンヌ国際映画祭でパルム・ドールを受賞し、アカデミー賞では作品賞、監督賞、脚本賞、国際長編映画賞の最多4部門を受賞した2019年の韓国映画「パラサイト─半地下の家族」はソウルの貧富の差を描いた作品で丘の上に立つ豪邸の家と関わっていく貧しい家族の物語だ。
半地下とは家族の住む家で大雨になると水浸しになる水の管理の行き届かない場所の半地下の家のこと。
小さな起伏があるソウルでは窪んだ場所とせり上がった土地が多く、ぞっとするような坂道があり、意外な場所のくぼ地に昔ながらの家が軒先を並べる風景もある。
今、私が学生とともに滞在している「民泊」も起伏のある土地に建てられた住宅が並ぶ庶民の地域で、窓の外の道端ではランニング姿でタバコをふかすおじさんが買い物帰りのおばあさんと立ち話をしている。
メディアで伝えられる華やかなソウルのすぐそばで、半地下の世界、住環境もまだソウルの各地に点在している。
このあたりは韓国の鉄道の中心地であるソウル駅から徒歩圏内にある地域だ。
ソウル駅の東側に南大門市場、明洞が広がり絶え間なく観光客が押し寄せ、ソウルの観光地の中心の場所とは対照的に開発が遅れてはいるが、高層マンションは確実に増え、静かに都市化している。
それでも、前の時代の面影そのままの街角は私にはほっとするような安心感を与えてくれる。
学生の求めに応じて昨年も今年もソウル市南部にある聖水(ソンス)を訪問するが、そこは今やトレンドの中心。
駅を降りると、シャネルの巨大高校が建物の壁一面に何か所にも設置され、ハイブランドやモードなファッション専門店、ビンテージの古着店やカフェ、日本のアニメにまつわる展示やグッズの店が並ぶ。
この日はアニメ「呪術廻戦」の展示イベントを開催していた。しきりに日本アニメの紹介をアナウンスする声が街にこだまする。
かつては、中小の工場がひしめき合っていた場所は、その倉庫をリノベーションしておしゃれな店舗に変えた。
レンガ造りの自動車工場には最先端の洋服を並べ、トタン張りの板金工場では、ラテアートに声をあげる若者が会話を弾ませている。
そんな店舗もありながら、路地裏にはいまだに工場として機能している場所もある。
この記事の著者・引地達也さんのメルマガ
華やかなトレンドの中心地は数ブロックで構成されているが、片道1車線のバス通りを隔てると、別の世界が広がっている。
旧来のソウル中の商店の街並みだ。
人しか通れないアーケードには小さな店が肩を並べ、向かい側の店の人どうしが談笑する間を通り抜ける。
かつての喫茶店(タバン)のようなコーヒーショップには近所のおばさんたちが集う。
パーマやではパーマ液の定着を待つおばさんたちが同じテルテル坊主の格好をして、しきりに口を動かす。
これら水平型のコミュニケーションには笑いが絶えない。
ここは同じソンスではあるが、世界に最新のトレンドを発信するソンスとは別世界である。
韓国の韓国人による韓国人のための空間、その空気感は庶民的なドラマの一場面で紹介されることはあっても積極的に外国に示し出されることはない。
道を隔てたこのコントラストは、年々、クリアになってくような気がする。
華やかなソウルは今後もますます眩しくなっていくのであろう。
アイドル、ダンス、イケメン、美肌・・・。
キラキラとしたキーワードは人々に購買欲を掻き立てる。
今や韓国経済を支える大きな柱。
今までのキムチ、アジュンマ(おばさん)、おせっかい、というキーワードは韓国固有の豊かさを示すものとして私は理解していたが、やはりこれは内需型だから、国の繁栄は限定的との判断で、だんだんと表世界からは離れていくことになるのであろう。
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