トランプ候補が、また過激な発言で注目を集めています。その内容は「北朝鮮が韓国や日本と戦争を起こしてもアメリカは一切かかわらない」というショッキングなもの。無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者・北野幸伯さんは、この発言を受けて、日本はいつ米国に見捨てられても対処できるよう備えを進めるべきだと警告しています。
トランプ、朝鮮戦争に【かかわらない!】宣言
「米軍を日本から撤退させる!」
「日本の核保有を認める!」
発言で、日本と世界を驚愕させたドナルド・トランプ。またまた、仰天発言をして、世界を混乱させています。「朝鮮戦争が起こっても、アメリカは関わらない」というのです。朝鮮日報日本語版4月4日付から。
オバマ大統領が非難しているのにもかかわらず、トランプ氏は2日、ウィスコンシン州内で支持者数千人を集めて行われた遊説で、「北朝鮮が隣国と戦争を起こしても、その地域の国の出来事に過ぎない」と言った。
そして、特に日本の防衛に関して「紛争が起きたら本当に恐ろしいことだが、(戦争は彼らが)やる時はやるものだろう(If they do、they do)」「(韓国や日本の)幸運を祈る。勝手にやって(Good luck, folks. Enjoy yourself)」と言った。また、「(北朝鮮と戦争をするなら、日本などが)かなり速く(北朝鮮を)消し去ることもありえる」「自分を自分で守る方が、米国の保護を受けるよりもはるかにましだ」とも言った。
う~む。先日私は、「トランプが大統領になったら、アメリカは覇権国家から没落する」という記事を、ダイヤモンドオンラインさんに書きました。まだの方は、是非ご一読ください。
今回の発言を聞いて、私は、「トランプさんが大統領になったら、やはりアメリカは覇権国家でなくなる」と確信を強めました。あるいは、「トランプさんは、わざと過激な発言をして、『負けたいのかな?』」とすら思いました。
朝鮮半島の現状
1991年末まで、世界は「資本主義陣営」と「共産主義陣営」に分かれ戦っていました。資本主義陣営のトップはアメリカで、共産主義陣営のトップはソ連。
両陣営の「最前線」は2つありました。。1つは、ドイツです。資本主義陣営の西ドイツと共産主義陣営の東ドイツに分裂していた。しかし、ドイツは、1990年に再統一されています。
もう1つは、朝鮮半島です。資本主義陣営の韓国と、共産主義陣営の北朝鮮にわかれた。1991年12月、ソ連は崩壊しましたが、朝鮮半島はドイツのように統一されず、いまだに分裂したままです。現状を見ると、北朝鮮は、「金正恩がわがままで、中国も怒っている」といわれています。しかし、事実として、中国の支援によって北朝鮮は存続している。
なぜ中国は、北朝鮮を支援しつづけるのでしょうか? 韓国を中心に朝鮮半島が統一されると、アメリカの支配下に入ってしまうからです。すると、北朝鮮と中国の国境にアメリカ軍基地ができたり、ミサイルを設置されるかもしれない。そうなると、アメリカは、「いつでも北京を火の海にすることができる状態」になります。
韓国の現状はどうでしょうか? アメリカと同盟関係にある韓国。しかし、08年の「100年に1度の大不況」でアメリカは沈み、中国は浮上した。それで、アメリカと中国を天秤にかける「二股外交」を展開しはじめました。
去年まで、「韓国は中国の属国になりつつある」といわれていましたところが、今年になって、かなり変わってきているようです。1月6日に北朝鮮は、「水爆(?)実験」をした。その後も暴れつづけている。しかし、中国は、まったく韓国を守る気がなさそうだ。それで、韓国は、「やっぱりアメリカに守ってもらうしかない」となっている。
3月7日、米軍と韓国軍の合同演習がはじまりました。北朝鮮の動きをけん制するために、「過去最大規模」だそうです。アメリカは確かに衰退し、影響力は減っています。しかし、韓国の後ろには、世界最強の米軍が控えている。それで北朝鮮も、その後ろにいる中国も動けない。ちゃんと「抑止力」が働き、平和が維持されているわけです。
アメリカ不干渉で、朝鮮半島は中国の支配下に
トランプさんが大統領になり、あらためて、「アメリカは、決して朝鮮半島の戦争にはかかわらない!」と宣言したとしましょう。北朝鮮は中国と相談し、南進を開始することでしょう。
中国は、国際的に非難されるのが嫌で、「人民解放軍」の正規軍は出さないかもしれません。しかし、ロシアがウクライナ東部でやっているように、「義勇兵」を送るかもしれません。それも、「何百万人」という単位で。
国際社会が非難したら、「彼らが勝手にやっていることで、私たちにはどうすることもできない」などということでしょう。いずれにしても韓国軍は北朝鮮軍に負け、事実上中国の支配下に入ります。
南シナ海も中国の支配下に
「アメリカは動かない」ことを第2次朝鮮戦争で知った中国。次は、南シナ海を全部奪い、「中国の海」にすることでしょう。東シナ海は? 日本も、米軍抜きで尖閣を守りきれるかかなり難しそうです。
ここまで書いたことは、「突飛」でも「非常識」でもなく、きわめて「普通」の見通しです。トランプさんが、「朝鮮戦争は、勝手にやってくれ! アメリカは関係ない!」というのは、要するに「覇権国家引退宣言」です。
ところで、アメリカが実際「朝鮮戦争にかかわらない」ということはありえるのでしょうか? もちろんありえます。前々から書いていますが、「シェール革命」で世界一の産油、産ガス国になったアメリカは、(資源たっぷり)中東への関心を失っている。結果、アメリカは、イスラエルやサウジアラビアを見捨てている。
今年1月、サウジアラビアとイランの対立が激化し、両国は「国交断絶状態」になりました。そのとき、アメリカ政府は、はっきりと「アメリカは仲介をしない!」と宣言しました。アメリカは、「もう利益がない」と思えば、伝統的な親米国家でも遠慮なく切る。中東で起こったことがアジアで起こらないといえるでしょうか?
いずれにしても、共和党最有力候補の言葉です。日本は、トランプさんが大統領になり、
- 在日米軍を日本から撤退させる
- 日本の核保有を認める
- 朝鮮戦争が起こってもアメリカは関わらない
と言われたとき「どうするのか?」、今からシミレーションしておくべきでしょう。
image by: Andrew Cline / Shutterstock.com
『ロシア政治経済ジャーナル』
著者/北野幸伯
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