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Borislav Toskov/Shutterstock

汚染水漏洩を招いた、東電・規制庁の呆れるほど危機意識のない姿勢

東京電力福島第1原発において、汚染水が耐圧ホースから漏れだしてしまった問題。原発事故問題に鋭く切り込むジャーナリスト・木野龍逸さんは、自らのメルマガにて、今回の問題の遠因となった「規制庁のチェックの甘さ」について、以下のように厳しく指摘しています。

規制庁に連絡しない東電、チェックの甘い規制庁

6月3日の原子力規制委員会では漏洩問題が議題に上がった。会議で規制委の田中知委員は、「古い耐圧ホースは大きなリスクとして認識していた、なんのチェックもせず使ったのは理解しにくい」と東電の対応を批判すると同時に、「規制庁としても問題が起きる前に十分な敏感性を持ってチェック監視すべき」と、規制庁にも苦言を呈した。

これに対し、規制庁事故対策室の金城慎司室長は、実にビックリする説明をした。こんな感じだ。

「我々、汚染水の管理状況について1週間に1度報告を受けていて1000トンノッチタンクの使用状況も聞いていた。ただそのときには雨水処理設備の濃縮側の水を入れて3号タービンに送るということは聞いていたが、残念ながら、地下貯水槽の水を送ることは事前には説明がなく、まさに事故が起こった直後に面談があった時に初めて知らされた」

要するに、東電が教えてくれないからわからなかった。ということのようだった。なんてこった。。。と、Youtubeで会議を見て思った。

なんてこったポイントのひとつめは、「1週間に1度報告うけていて1000トンノッチタンクの使用状況も聞いていた」という部分。規制庁は東電に対し、毎週、汚染水の貯蔵状況を報告するよう義務づけている。これは原子力安全。保安院時代から続いている報告だ。

福島第一原子力発電所における高濃度の放射性物質を含むたまり水の貯蔵及び処理の状況について(第203報)

ところがこの報告内容には、ノッチタンクの状況は含まれていない。とはいえノッチタンクは、タンク周辺の堰内雨水を貯めてはタービン建屋地下に流し込むためのバッファになっているから、タービン建屋にどのくらいの量を移送しているか含めて、汚染水の全体量を把握するには必要なデータだと考えられる。

タービン建屋への移送量や、中の汚染水の性状については、何度か会見で聞いたことがあるけども、東電は情報を出してくれなかった。水の性状が知りたかったのは、堰内雨水の汚染状況がわかれば、タンク周辺の作業環境や過去の漏洩の一端が見えるかもと思ったからだった。でも、規制庁にも報告してないのではしょうがない。

というのでは済まなくて、そもそも規制庁がノッチタンクの中の水の性状について関心を持ってなかったことに驚いた。これが、なんてこったポイントの2つめだ。

ノッチタンクに関心を払っていなかったということはつまり、規制庁は、敷地内のすべての汚染水の状況を把握できてないし、そうした指示も出していないことを意味する。田中俊一委員長は会議で、「東京電力は汚染水のマネジメントがまったくできてない」と述べたけども、規制庁も同じ穴の狢じゃないのか?! って思った。

>>次ページ 重要な調査をスルーし続ける規制庁

規制庁および規制委の対応に関してはもう一点、大きな問題がある。港湾外への流出を確認するための詳細な調査を、今回もスルーしたことだ。

会議では田中知委員から、港湾外のサンプリング回数が事故後も増えていないことなどの指摘があったほか、石渡明委員は「少なくとも外に出たかも知れないと言うことがあった場合は、もう少し増やして概要への影響がないということを確認すべきではないか」と提言した。

これに対して金城室長は「いろいろ考えていきたい」と述べたが、問題なのは次に続いた中村佳代子委員の姿勢だった。中村委員は、「これまで2年近くデータを見ている」と述べ、なにをいいたいのか論点が定まらない話をした後で、次のように発言した。

「そのうえで確認させていただきたいが、東電では港湾外、外洋への影響はないと判断しているが、私が見た限りでも、やはり外への物質の流れはないと考えてよろしい、ですよね?」

え……「ですよね」???

いやいやいや、「私が見た限り」でいいので流出はあるのかどうか、そこを言わないで、規制庁担当者に逆質問っておかしいでしょ。。。港湾外への流出の有無は、規制庁の資料に書いてあるし。

中村委員のフリに回答したのは事故対処室の米山弘光室長で、「影響はないと考えている」と、配付資料通りに発言。結局、中村委員がなにを言いたいのか、さっぱりわからなかった

港湾外の状況に関しては、規制庁は1年半近く、「海洋モニタリングに関する検討会」を開催していない問題がある。この検討会では外洋への影響評価をしていたのだが、どういうわけか、2014年1月27日を最後にやらなくなってしまった。

なぜやらないのかと会見で田中委員長に聞いたこともあったが、規制庁は「必要があればやる」(米谷課長 2月23日)、田中委員長は「異常が出た時にはやる」(2月25日)と回答。流出の「可能性」に対処するという考え方を排除しているようだった。

今回の会議での規制庁の説明と併せて考えると、異常の有無は規制庁で判断し、異常がないと思えば開催しないということになる。この考え方は、そもそも異常の有無を海洋モニタリングの検討会で評価、判断するという検討会の主旨と矛盾する。規制庁で状況判断ができるなら、一切の検討会は不要になってしまう。

こんな状況なので、汚染水に関する限り、適切な対応ができていると胸をはっていえるような状況にあるわけもなく、今後もやっぱり汚染水流出事故は続くんじゃないかなあと思うしかないのでした。。。

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『木野龍逸の「ニッポン・リークス」』第32号より一部抜粋

【第32号の目次】
1.東電福島第一原発事故トピック
東電のずさんな管理と規制庁の緩いチェック──汚染水問題は改善するの?
<凍土壁などを優先したので工事できなかったという東電>
<ホースの漏えいリスクは、3年前に深刻化していた>
<東電のいう「汚染水」って、なんだろう??>
<規制庁に連絡しない東電、チェックの甘い規制庁>
2.気になる原発事故ニュース
(1)「原発避難指示2区域、16年度には解除」 自民提言へ
(2)甲状腺「検査の継続を」
3.編集後記

著者/木野龍逸
自身のブログ「キノリュウが行く」で東電原発事故を中心に情報を発信中。「ハイブリッド」(文春新書)など著書多数。メルマガには福島第一原発事故の現状について、また原発以外の話題についてもブログやツイッターでは読めない話題が。
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