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ここにも地方と中央の差。地方新聞にはびこる「大阪ジャーナリズム」

軍事アナリストの小川和久さんが配信するメルマガ『NEWSを疑え!』では、元毎日新聞大阪本社編集局長の朝野富三さんが語った「大阪ジャーナリズム」という地方紙の問題点を定義した言葉を紹介しています。なぜ大阪などの地方紙は人間に興味を絞った情緒的な記事が多いのか? 小川さんは、これを大阪のみならず地方紙全般に見られる問題点だと語り「東京本社版と同じ紙面で全国を統一してもらいたい」と持論を述べています。

大阪ジャーナリズム

耳慣れないかもしれませんが、「大阪ジャーナリズム」という言葉があります。

これを教えてくれたのは元毎日新聞大阪本社編集局長の朝野富三さんですが、次のようなことを意味しているようです。

朝野さんは、「あえて東京ジャーナリズムと大阪ジャーナリズムという分け方をします」と断ったうえで、「主要各紙は大阪に社会部しかおいていません。だから、たとえば安全保障や軍事の問題を伝えるにも、反戦や平和などきわめて情緒的な報道になってしまうのです」と話してくれました。これは、以前から私が感じていたことと同じで、まさに我が意を得たりの思いでした。

朝野さんがいうように、新聞の大阪ジャーナリズムは、もっぱら社会部だけが突出して、独自の記事をつくっていきます。もちろん、それが当たる場合も少なくありません。一方、大阪に対して東京ジャーナリズムは、社会部のほかに政治部、経済部、外信部、文化部などがありますから、それらの社内競争や緊張関係のなかで記事がつくられていきます。

東京の場合、政治・経済・国際問題などにも目配りした、よりバランスの取れた記事になりますが、大阪では、どうしても読者の心情に訴え、人間に興味を絞った情緒的な記事が多くなります。その結果、大阪ジャーナリズムは公害、交通戦争、差別、青少年といった社会ネタでは真価を発揮できても、安全保障、外交、軍事といった分野では、扱いが小さく舌足らずで、しかも誤りや曖昧な部分を含む記事が目立ってしまいます。大阪の経済界などに見られる情緒的平和主義の元凶は大阪ジャーナリズムにある、といっても過言ではないでしょう。

そんなところから、朝日新聞の社長退任にまで発展した慰安婦問題をめぐる「吉田証言」問題も生まれたのは間違いないところです。要するに情緒的で、派手な見出しが躍るような事象にのみ飛びつく傾向が否めないのです。

そういう問題は、専門的学識を育まなければならない研究者の世界にも影を落とす結果になっています。

若手研究者でも知っている基礎知識を知らない”有識者”

全国紙を例にとれば、特に外交・安全保障に関する記事で、東京本社版に比べて、大阪本社版、西部本社版の扱いが小さく、記事も短く、簡単に要点のみを述べたものになりがちなのです。これも社会部中心から生まれた悪弊です。

私がこれに気づいたのは、九州大学の教授に就任するよう打診され、大学側と話し合ったときのことです。

なんと、九州では著名人である法学部の教授が、東京なら若手の研究者でも知っているような外交・安全保障の基礎知識を備えていないではありませんか。

話を聞いていて、その原因がわかりました。時々刻々と変化する国際政治や軍事情勢について、新聞記事を重要な情報ソースとすることは東京でも同じですが、福岡で読まれる西部本社版では、記事が十分な情報を載せていないか、場合によっては掲載もされていないのです。

これでは研究者としてまずいだろうということで、1日遅れでもよいから東京本社版を購読するよう提案したのですが、このようにして地方の「有識者」の知見が形成され、時代後れの見解が振り回されたりすることは、3月31日号の編集後記「沖縄の『有識者』の言葉」でも述べたとおりです。

沖縄の場合は、全国紙が夕方にならないと届かないこともあり、「有識者」も一般読者も琉球新報と沖縄タイムズという地元紙を読むしかなく、共同通信の配信記事ならまだしも、地元紙の独自取材による記事は情緒的かつバイアスがかかったものが少なくありません。それで沖縄の世論が形成されるとすれば、バランスを欠くことになるのも避けられないかもしれません。

それでも全国紙には、政治・外交・安全保障・危機管理について、東京本社版と同じ紙面で全国を統一してもらいたいものです。

毎日新聞の「メディア批評」なども、東京本社版をもとにすべきではないでしょうか。

image by: Chris McGinley / Shutterstock.com

 

NEWSを疑え!』より一部抜粋

著者/小川和久
地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。
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