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安藤忠雄は普通に被害者。そもそも基本設計はザハでも安藤でもない

税金の無駄遣いとの国民の大合唱を受け、先日安倍首相より白紙撤回が発表された新国立競技場のキールアーチデザイン。そのデザインコンペの審査委員長を務めた建築家の安藤忠雄さんと食事をしたという辛坊治郎さんがメルマガ『辛坊治郎メールマガジン』の中で、安藤さんが今まさに被っている被害と、何が今回の混乱を招いたかについて記しています。

新国立競技場、基本設計をしたのはザハ事務所でも安藤事務所でもない

先週金曜日、阪急インターナショナルで安藤忠雄さんご夫妻とご飯を食べました。安藤設計事務所にはここ数週間、夜になると必ず酔っぱらいから「いったいいくら儲けたんや?」といういやがらせの電話がひっきりなしにかかって来るそうです。電話の主は決まって、2520億円に膨れ上がったのは、新国立競技場を安藤事務所が設計したからだと思っているようで、スタッフがいくら丁寧に説明しても嫌がらせの主は全く聞く耳持たないそうです。

私くらいマスコミ業界で飯を食っている年数が多いと、こんなことは日常茶飯事ですから、そんなに気になりません。むしろ近年は、「頭の悪いやつはどんなことを考えるのだろうか?」とクレームを待ち望む境地になってますが、今までこんな経験をしたことのなかった安藤さんには気の毒な事態ですね。日本を代表する新聞の社説ですら、「デザインを決めた安藤事務所が諸悪の根源」というような論評を掲げたり、建築評論家の中にも、「この構造が高くつくことに気付いていなかった安藤忠雄が悪い」なんてことを言う人は少なくありませんからね。

でもねえ、基本設計の時に出てきた建築費が1625億円ですから、この批判は当たらないと思いますよ。だって、基本設計をしたのはザハ事務所でも安藤事務所でも無く、日建設計や梓設計という内外の巨大名門設計事務所で、建築費の概算を出したのもこの組織ですからね。それとも建築評論家や新聞社の論説委員は、日建設計よりも正確に建築費が分かるって言うんでしょうか。

>>次ページ なぜ建設費は跳ね上がったのか?

ちなみに、私が長年勤めた大阪読売テレビの社屋設計は日建設計です。私が入社した時の読売テレビの社屋は、東本願寺天満別院に間借りしていて、建て増しに次ぐ建て増しで、ほとんど迷路のような構造でした。全国のテレビ局で、お寺に間借りしている局なんて他にないでしょう。「照明が落ちても火の玉で照らせば大丈夫」なんて冗談が日常的に交わされてましたからね。ある時など、報道局脇の「共用応接」と看板のかかる部屋を開けたら、丸坊主で袈裟をまとった僧侶が集団で会議してましたしね。新入社員の頃は、ホントびっくりしました。そんなわけで、今の社屋に移った時には結構嬉しかったです。デザインも奇をてらわず、シンプルな美しい構造で好感持てます。さすが日本を代表する日建設計です。これだけ褒めたんだから、何か下さい。って、設計事務所から貰えるものはあんまり想像できませんね。自宅の設計を無料にしてもらっても、建てるお金がありませんしね。

その日建設計、梓設計などが出した建築費の概算が1650億円だったのに、いろんな人がごちゃごちゃデザインに文句を付けているうちに1年が過ぎ、気が付いたら2520億円に建築費が跳ね上がっていたという訳です。背景にあるのは、こんな巨大建築物を手掛けたことのない文部科学省という組織の無能と無責任です。もし事業主体が文科省でなく国交省なら、ゼネコンとの交渉はもうちょっとうまくやっていたと思います。もっとも、将来の日本に禍根を残す東北東海岸に建設中の巨大防潮堤に、「兆」の単位の金を投じる国交省は別の意味で「悪の総本山」ですけどね。

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image by: Wikipedia

『辛坊治郎メールマガジン』より一部抜粋

著者/辛坊治郎
「FACT FACT FACT」をキーワードに、テレビや新聞では様々な事情によりお伝えしきれなかった「真実」を皆様にお伝えします。その「真実」を元に、辛坊治郎独自の切り口で様々な物の見方を提示していきたいと考えています。
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