作家・中村うさぎさんが綴るメルマガ『中村うさぎの死ぬまでに伝えたい話』。今回は、高橋ジョージさん・三船美佳さん夫妻の離婚で話題となった、夫婦間のモラハラについて。最近では「夫(妻)源病」などと呼ばれ、身体の不調の原因がパートナーからのモラハラであると気付く人も多いとか。しかし、うさぎさんは、一方的な精神的・肉体的DVでない限り、夫婦間の問題は「お互い様」の部分も多く、自分が被害者だと先に言い出した方が「何でもあり状態」で騒ぐのはおかしい、と主張しています。
日本中の夫婦が「夫源病」「妻源病」にかかっている!?
ツイッターでタレントの高橋ジョージの離婚を知った。
いや、じつのところ高橋ジョージという人の事もよく知らなかったし、他人の結婚や離婚にそもそも関心がないので私にはどうでもいい話題だったのだが、その離婚の原因が「夫源病」だと聞いて「ほう」と思ったのである。
「夫源病」「妻源病」は、近年俄かに耳にするようになった病名である。
夫(妻)のセクハラやモラハラに精神的に追い詰められて、鬱病やパニック障害などの症状が現れ、離婚はもちろん下手すると自殺などにも繋がりかねない。
が、もちろんこれは今に始まった事ではなく、倦怠期以降の夫婦の多くが長年抱えてきた問題であった。
そこに「夫(妻)源病」という病名がラベリングされただけのこと。
今まで夫婦間のプライベートな問題として特に名づけられることもなく見過ごされてきた問題が、新たな「病名」を得て、水面下から浮かび上がり、世間の耳目を集めることになったのだ。
この病名がなかった頃、世間の夫婦はこの問題にどのように対処してきたのだろうか。
夫婦なんてこんなもの、と諦めて、互いにストレスを抱えつつも何とかやり過ごして来たのだろう。
結婚してしまったのだから仕方ない、子どももいるから仕方ない、と、自分に言い聞かせて。
そして、そこから発生する鬱病やパニック障害は、夫婦問題とは無関係の精神症状(たとえば中年鬱とか更年期障害とか)として認知され、心療内科で処方される薬を飲むことで表面上の解決をみる。
だが、二人が夫婦である限り、根源的な解決は望めないのだ。
そうやって考えると、おそらく日本中の夫婦が「夫源病」「妻源病」の患者だと言っても過言ではなかろう。
いや、それは過言か(笑)。
でもまぁ、圧倒的多数の人に心当たりのある現象であることは間違いない。
この病名を聞いて「そうか! 私は夫(妻)源病だったのか!」と気づいた人も多かろう。
私がちょっと懸念しているのは、そこなのだ。
自分の精神症状が「夫(妻)源病」であるとして、夫(妻)相手に「あなたのせいで自分の人生は滅茶苦茶になった。悪いのは私ではない。あなたこそが諸悪の根源なのだ」と責め立てることは、自己正当化と他罰傾向を後押しするだけである。
人は自分が被害者だと思うと、大変に強気になるものだ。
だって、被害者は悪くない。
悪いのは加害者に決まってるもん!
しかし、だ。
夫婦の力関係に差があって片方が一方的な精神的・肉体的DVを受けているケースを除けば、夫婦間の問題なんてある程度「お互い様」ではないのか。
年中ネチネチと嫌味を言う妻と、逆ギレして怒鳴り散らす夫。
こんなの、どちらが加害者でどちらが被害者かわからない。
おそらく双方が加害者であると同時に被害者なのだ。
ところがどちらか片方が「夫(妻)源病」を掲げた途端に、「相手が悪者。こちらは被害者」という構図が本人の脳内で出来上がってしまう。
すると被害者は己の「正義」を主張し、他罰傾向に拍車がかかると思うのだ。
そう、この「正義」が私を不安にするのだ。
「正義」は人を罰するばかりで誰も救わない。
自らを「正義」と信じた人ほど始末に負えない存在はない。独善的に他者を攻撃するモンスターとなるからだ。
我々に今もっとも必要なのは「寛容」であると私は思う。
他者を攻撃するのではなく、他者を許すメンタリティを養うことだ。
「人を裁くな。自分が裁かれないために」(マタイによる福音書7章1ー29)
自戒も込めて、この言葉を胸に刻もうと思う私である。
source: 中村うさぎの死ぬまでに伝えたい話
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著者:中村うさぎ
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