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日本で「人食いバクテリア」感染が過去最多。致死率30%超の恐怖

近年、「人食いバクテリア」による死者が増加していることをご存知でしょうか? しかも、その被害は日本でも増えているというのです。今回のメルマガ『池田清彦のやせ我慢日記』では、著者で早稲田大学教授・生物学者の池田先生が、注意すべき2種類の「人食いバクテリア」を紹介。特に日本での感染患者が過去最多を記録するほど増加している、致死率30%超のバクテリア「溶連菌」について、意外な「仮説」を明かしています。

恐怖の人食いバクテリア

 人食いバクテリアの被害が増えているという。原因となるバクテリアは主として、Vibrio vulnificus と溶連菌である。まれに黄色ブドウ球菌や大腸菌が発症原因となることもあるようだ。正式には「壊死性筋膜炎」と呼ばれ、主に四肢の筋膜にバクテリアが取りついて、急速に壊死が進行する。速やかに壊死を起こした部位を切断して、大量の抗生物質で細菌を撃退しないと死に至る、極めて重篤な感染症である。

Vibrio vulnificus は主に汽水域に棲息するバクテリアで、1970年に人への感染例が報告され、日本では1978年に初めての症例が報告された。発症時期はほとんど夏季で、日本では有明海や八代海、東京湾の沿岸からの報告例が多い。菌に汚染された魚介類を食べて感染したり、傷口から感染したりする。報告されている患者数は年間平均20人程度と多くないが、この病気と同定されない場合も多いだろうから、実際にはもっと多いかもしれない。

発症すると患部は極めて痛いようで、致死率は70%。肝臓病や糖尿病などの基礎疾患のある人に好発し、健康な人はほとんど発症しない。幸いなことに、予防策は簡単で、基礎疾患のある人は、夏季には生の魚介類を食べない、体に傷があるときには海水浴を控える、怪我をし易い岩場に近づかない、といったことを守れば、まず、発症することはない。しかし、外国では釣り針が刺さった小さな傷から感染して死亡した例もあるので、夏季の釣りには注意が必要だ。

 Vibrio菌よりずっと恐ろしいのは、近年激増している溶連菌によるものだ。このタイプの人食いバクテリアは正式には「劇症型溶血性レンサ球菌感染症」と呼ばれ、日本ではここしばらく、年間100人から200人くらいの患者数であったものが、2015年には431人、去年はさらに増えて11月半ばまでにすでに442人に上り、この勢いだと、年間500人を超えそうである。この感染症は1987年にアメリカで報告され、日本では1992年に初めて報告された。

この病気を引き起こす溶連菌は、主としてA群溶血性レンサ球菌で、ごくありふれた細菌である。一般的には咽頭炎を引き起こす病原菌としてよく知られている。普段は咽頭や表皮などに棲みついていて、病気を引き起こしたりしない常在菌の一種であるが、時に咽頭炎を引き起こしたり、さらに致命的な人食いバクテリアに変身したりする。おとなしく平和に暮らしていた人が、何かの加減で強盗や人殺しに変身するようなものだ。問題は何かの加減とは何かということだ。

劇症型を発症すると、四肢に激痛を覚え、1時間に2~3センチの速度で壊死が進行していき、早ければ24時間で患者は死亡する。死亡率は約30%。命が助かっても脚や腕を失うことも多い。なぜ、ありふれた溶連菌がかくも恐ろしい菌に変身するのか。大阪大や北里大の研究によれば、溶連菌に組み込まれたファージ(細菌に寄生するウイルス)の部分に突然変異が起こり、強い病原性が現れるのではないかという。突然変異した遺伝子がどんな悪さをしているかはまだわかっていないようだ。

2011年以降に患者数が急増していることから(2009年約100人、10年約120人、11年約200人、12年約240人、13年約200人、14年約260人)、福島原発の放射能漏れによって溶連菌が突然変異を起こしたのではないかという人もいる。30代以上の人の発症率が高く、高齢者は死亡率が高くなるが、普段、健康な壮年の人でも発症して死亡することもある。のどから感染するほか、傷口や火傷からも侵入するようで、手洗い、うがい、傷口の消毒といった日常のケア以外に、予防法はなさそうである。気休めかもしれないけどね。

もしかしたら、遺伝的になりやすい人とか、免疫的な問題などがあるのかもしれないが、詳しいことは何もわかっていない

image by: Wikimedia Commons

 

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