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【書評】西郷隆盛は品性・美学に欠けてた? 明治維新の裏を読む

日本に近代化をもたらしたと言われる明治維新ですが、この「革命」を考え直す書籍なども数多く見られます。今回の無料メルマガ『クリエイターへ【日刊デジタルクリエイターズ】』の編集長・柴田忠男さんが紹介しているのもそんな一冊。果たして私達が教科書で学んだ明治維新は「正しいもの」だったのでしょうか。

明治維新という幻想
森田健司・著 洋泉社

原田伊織の『明治維新という過ち』シリーズ以来、明治維新を考え直す本がいくつも出てきたようだと思っていたら、この分野は従来から学者や作家やマニアによる甲論乙駁の戦場だったようだ。森田健司『明治維新という幻想 暴虐の限りを尽くした新政府軍の実像』を興味深く読んだ。

この本の核心は「平和で豊かな江戸文化・道徳を否定した明治新政府は、非道な方法で戊辰戦争を勝ち抜いた。開明的で希望あふれる『明治の世』を目指したという彼らの正体を、民衆が作った『風刺錦絵』や旧幕府軍側の視点を通して検証する」というものだ。思想史学を専門にする筆者らしい展開である。

歴史観に正解はない。明治新政府の歴史観も、著者の歴史観もひとつの例でしかない。しかし、後者にあって前者にないのが「先人への敬意」であるという。新政府は自らの政権が正当なものであり、戊辰戦争は避けがたいものだったということを、さまざまな理屈を駆使して発信し、維新史を構築していく。

それは「旧き悪しき近世=徳川幕府」を「自由・平等・博愛を旨とする近代=明治新政府」が圧倒する物語を創作し正史とすることだった。戊辰戦争の終結からわず3年後には、自らの正当性を裏付ける史料の収集と編纂を始めた。新政府が「正史」としてまとめた「復古記」は、やがて「事実」に転化する。

その後、文部省維新史料編纂会によるさらに大規模な「正史」編纂プロジェクトが始まり「大日本維新史料綱要」などにまとめられ、今も日本近代史の基礎となっている。一方で、ペリー来航時の幕府の高い外交能力を記した「墨夷応接録」を隠蔽し、幕府が混乱状態であったなどとの虚偽を広めている。

「維新」という言葉自体、微妙にポジティブであり(僭称している政党が現存するが)、この言葉を用いて歴史を眺めるのは既に価値的に偏向している。だから、維新の三傑なる勇ましい呼称の西郷隆盛、大久保利通、木戸孝充は充分に怪しい。この時代を描いた司馬遼太郎ものに親しんできたから戸惑うけれど。

維新の三傑の共通項は、下級士族の出であるということ。新政府の要人の多くは、知識や語学力はあっても品性や美学が甚だしく欠如していた。「その代表が伊藤博文だが、木戸も大久保も、道徳的に高い評価を下すことは困難である。彼らは皆、政治の手腕はあったとしても、哲学がなかった。西郷に至っては、悪い意味で『一時代前の人物』だろう」と手厳しい。

日本史上もっとも人気のある「偉人」は西郷隆盛である。同時にもっとも実像がわからない人物でもある。著者は、「葉隠的思想を持った破壊の専門家、と表現している。明治に描かれた錦絵の西郷は立派な髭をたくわえた荒々しい軍人である。そちらが実像で、肖像画や銅像は虚像だろう。筆者は戊辰戦争ほど無意味な戦争はなかったと断言する。「日本史の最暗部」とさえいう。

そういえば、40年以上前に買いそろえた司馬遼太郎『翔ぶが如く』全7巻、何度も何度も挑戦するものの、なぜか途中で放棄してきた。もう読まずに終わりそうだ。だが、あとがきに面白いことが書かれていた。

日本における野党が、政府攻撃において外交問題をかかげるときに昂揚するという性癖はこのときから出発したのかもしれず、また激しく倒閣を叫びながら政権交替のための統治能力を本気で持とうとしないという性癖も、この時期の薩摩勢力をもってあるいは始祖とするかもしれない。

……西郷さんのせいだったのか。

編集長 柴田忠男

image by: Shutterstock.com

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