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311以降、徹底的に脱原発に舵を切ったドイツと当事国・日本の違い

Windows95の設計に携わり、「右クリック」「ダブルクリック」などを開発した世界的エンジニアである中島聡さんのメルマガ『週刊 Life is beautiful』。今回は、「日本で脱原発がなかなか進まない裏事情」について、厳しく追及しています。ドイツやアメリカは「再生可能エネルギー」の活用で、脱原発の未来へと着実に歩みを進めていますが、「福島第一原発事故」の当事国である日本の脱原発がいつまで経っても進まない理由とは…?

脱原発に舵を切ったドイツと、原発事業というババを自ら引いた日本

福島第一での過酷事故を教訓に、脱原発に踏み切ったドイツですが、風力・太陽光などの再生可能エネルギーへのシフトが順調に進み、今や(問題の多い)火力と原発への依存度は合計でわずか15%しかない状況にまでなったそうです(参照:Germany breaks renewables record with coal and nuclear power responsible for only 15% of country’s total energy)。

あの事故からわずか6年しか経っていないのに、これだけのシフトを実現したのは高く評価できるし、これであれば、目標の2030年までの脱原発も十分に達成できるのではないかと思います。

それにしても、過酷事故を起こした当事者である日本の状況はとても情けないものになっています。

高速増殖炉の開発は順調とは程遠いし、放射性廃棄物の最終処分場の目処も全く経っていません。「核のリサイクルは絵に描いた餅でしかなく(プルサーマルは単なる詭弁です)、このままでは、せっかく備蓄したプルトニウムを処分せざるを得なくなります。

福島第一の廃炉作業も全く思うようには進んでおらず、(公式には言いたがらないものの)地下水を介して、大量の放射性物質で海を汚染し続けています

あの事故の被害総額は、住民への(十分とは言えない)補償、今後何十年も(ひょっとすると100年以上も)続く廃炉費用を合わせると20兆円を超えることは明らかで、経産省が事故リスクを含めた原発コストの試算に使った4兆円がいかにデタラメなものだったかが分かります。

それでもエネルギー政策の抜本的な見直しが出来ないのは、失敗を潔く認めることが出来ず、かつ、大量の関連団体(=天下り先)を作ってしまった霞が関にあり、(長年の交渉により、ようやく手に入れた)準核保有国の地位を失いたくない政治家にあるのです。

本来であれば、事故があった年に、菅総理が宣言した通りの「脱原発に舵を大きく切るべきだったし、東電はあの時点で破綻させて、発送電分離を一気に加速すべきだったのです。

核のリサイクル」に関しても、「もんじゅ」があの状態になった時点で、政策の根本的な誤り失敗を認め、再処理から地層処理へと、大きな政策変更をすべきだったのです。

この6年間で、脱原発に踏み切ったドイツと、問題の先送りをした日本との間には大きな差が開いてしまいました。米国も、再生可能エネルギーへのシフトを順調に進めています。

その結果、ドイツのシーメンスと米国のGEは、政府に先んじて脱原発を果たして再生可能エネルギーで順調に業績を伸ばしています(参照:独シーメンスと米GE、「脱原発」業績けん引)。

ウェスティングハウスというババを自ら高値で引いた結果、虎の子の医療機器ビジネスと半導体ビジネスを切り売りしなければならなくなってしまった東芝とは対照的です。

そして、これほどの政策の失敗の責任を誰も取らないのが日本の異常なところです。

2009年の時点で津波の危険を指摘されながら、なんの対処もしなかった当時の東電の経営者の刑事責任が追求されていないのは、あまりにも異常です。

本来ならば破綻してしかるべき東電を救済したということは、税金と電気代を使って、株主や債権者たちの財産を守ったことになりますが、これは資本主義社会では、決してやってはならないことです。

また、債務超過になることを避けるために、東電が地下遮水壁の必要性を否定したことは、普通に考えれば、明らかな粉飾決済ですが、これに関しても、誰も罪に問われていません

もっとすごいのは、過去十数年間、霞が関で日本のエネルギー政策の中核を担ってきた今井尚哉氏が、その失敗の責任をとるどころか、今や安倍内閣の総理秘書官として、日本の政治そのものに最も大きな力を持つ「影の総理」の立場にあるという点です。

image by: Shutterstock

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マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。IT業界から日本の原発問題まで、感情論を排した冷静な筆致で綴られるメルマガは必読。

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