6月15日未明に成立した「組織犯罪処罰法改正法」。日本の大手マスコミは、以前からこの法案に関して大々的に報じていたものの、プライバシーや表現の自由が脅かされるという報道に終始していました。これに対して、国際ジャーナリストの蟹瀬誠一さんは、自身のメルマガ『蟹瀬誠一の「ニュースを笑え」』で、「そもそも日本の警察は今以上に強くなる必要が本当にあるのか」とシンプルな疑問を呈し、日本よりもテロの脅威が身近にある欧米諸国のメディアの報道を例に挙げ、この法案の本質的な問題点を指摘しています。
テロ対策法は祖父の夢?
21世紀の世界に広がる恐怖はずばりテロである。そこで日本では犯罪を計画段階で処罰する「共謀罪」の構成要件を改め「テロ等準備罪」を新設する組織犯罪処罰法改正法が15日未明に成立した。政府によれば目的は2020年の東京オリンピックに向けてのテロ対策の強化だそうだ。
安倍総理の胸中にあるのは昭和の妖怪と呼ばれ、両親以上に慕っていた祖父の故岸信介総理のことだけだというのはすでにバレバレである。
A級戦犯となり公職追放され、その後、公職追放の解除に伴い政界復帰し、わずか4年で首相になり米国の「手先」として日米安保条約改定などにひた走ったのが岸総理だった。しかし、彼が夢見た警察権力の強化と自主憲法制定は実現できなかった。それを孫である安倍総理がやろうとしているのだ。
明快な欧米の視点
しかし、そもそも日本の警察は今以上に強くなる必要が本当にあるのか。
日本の大マスコミは国会内の政治的な駆け引きや抽象的なプライバシーや表現の自由が脅かされるという報道に終始していて、そんな単純な疑問に答えていない。
それに比べて欧米メディアの視点は明快だ。英経済紙「エコノミスト」は、だいたい犯罪件数がピークから比べて半減している日本でなぜ今になってこんな法律を制定する必要があるのかと疑問を投げかけている。
2015年に発砲事件で死者が出たのはわずか1件だったし、大掛かりなテロ攻撃が起きたのは20年以上の前だからだ。日本の安倍政権は「想像上でしか存在しないテロリストを捕まえようとしている」と皮肉たっぷりのコメントを加えて、安倍政権のむき出しの権力主義に警鐘を鳴らしている。
米・ワシントン・ポスト紙に至っては国会で野党の攻撃の矢面に立たされてひたすらとんでも答弁をする金田法務大臣のアホさ加減に注目していた。極めつけは「保安林でキノコを採ることも、これテロの資金源ですか」と国会で野党議員に追及されたときだった。金田法務大臣は、なんと「はい、そうです」と答弁したのだ。テロ集団が資金源として山でキノコ泥棒をする姿を思い浮かべただけで笑いが止まらない。あまりにも国民の常識とかけ離れた答えだ。
その理由は、改正法には277の対象犯罪の中には処罰対象として「文化財保護法」「種苗法」「絶滅の恐れのある野生動物の種の保存に関する法律」などおよそテロとは無関係なものまで含まれているからだ。
つまりこの法律の目的は、政府に対して批判的な言動を封じるために他ならないということだ。そのことを指摘するためにワシントン・ポストは、このでたらめ答弁のエピソードを紹介したのである。
テレビ朝日の報道ステーションは、フランスの新聞ル・モンド紙のフィリップ・メスメール特派員の話を取り上げていた。
「日本に今以上の監視行為が必要だとは思えない。テロの脅威を完全に取り除くことはできないが、日本にはすでに、その脅威と戦う法律や規制がすべてそろっている」
テロ攻撃の対象となっているフランス人記者の目から見てもこの法律は理不尽なのだ。
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