カンフーアクションを駆使してハリウッド進出も果たした香港出身のジャッキー・チェンですが、度重なる「中国当局寄りの言動」で台湾はおろか出身地の香港でも大ブーイングを受けているのをご存知でしょうか。台湾出身の評論家・黄文雄さんは自身のメルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』で、ジャッキーがこれまで行なってきた言動を詳細に振り返るとともに、金の力で各国の芸能人を買収し、自由を排除した「官製の文化」のみを表に出す中国当局を批判しています。
※本記事は有料メルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』2018年4月17日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:黄文雄(こう・ぶんゆう)
1938年、台湾生まれ。1964年来日。早稲田大学商学部卒業、明治大学大学院修士課程修了。『中国の没落』(台湾・前衛出版社)が大反響を呼び、評論家活動へ。著書に17万部のベストセラーとなった『日本人はなぜ中国人、韓国人とこれほどまで違うのか』(徳間書店)など多数。
【中国】中国当局の代弁者となったジャッキー・チェンに対して広がる反感
かつてジャッキー・チェンは「香港映画というものはない。あるのは中国映画だけだ」と発言しました。ジャッキーはこうした中国当局におもねるような言動を繰り返し、しかも現在では政治協商会議の委員にもなっているのですから、香港人の自治や香港独立を求める人たちにとっては、許しがたい「裏切り」でしょう。
2012年にジャッキーは、香港における反中デモについて、「香港人はデモが大好き」「デモを規制すべきだ」と批判し、「中国の犬になったのか」と、香港人の怒りを買いました。
● ジャッキー・チェンまた失言!「デモ規制」でネット炎上=「ジャッキー規制法作れ」―香港
2009年にも、自身の映画が中国で上映禁止になったことについて、「自由があるのがいいことかどうか、僕にはわからない。自由が過ぎると、今の混沌とした香港のようになるし、台湾も無秩序だ」と述べたことで、香港のみならず、台湾からも批判が起こりました。
● ジャッキー・チェンの発言、波紋広がる…「中国人は制されるべき」
日本ではまだまだ人気が高いジャッキー・チェンですが、中国当局べったりの姿勢に、香港や台湾で大ブーイングが起きていることは、日本であまり知られていません。
とくに2004年の台湾総統選挙においては、再選を狙う民進党・陳水扁が狙撃されるという事件が起こりましたが、ジャッキーはこれを「同情集めの自作自演」だという論調に同調し、「宇宙規模の笑い話」だと皮肉りました。さらに、「中国と台湾の統一が、中国をさらに強大にする」などとも発言していました。
そして陳水扁が再選されると、「台湾には今後4年間は行かない」と宣言したのです。そのため、台湾ではジャッキー・チェンへの抗議行動が起こり、一気に嫌悪感が高まったのです。ちなみに、ジャッキーが再び台湾を訪れたのは、2008年に再び国民党政権に戻ってからのことでした。
●「台湾の敵」と憎まれる俳優ジャッキー・チェンの「黒心」/今度は台北で中国軍歌手を応援か
さらにジャッキーは、「中国人は統制されるべきだ」と発言したこともあり、中国の人権派や民主活動家からも批判されています。もっとも、中国人はバラバラの砂であり、独裁者が強権的に統率しないと、すぐに四分五裂してしまうというのは、孫文をはじめ、多くの中国指導者が口にしていたことではあります。
たしかに中国国内はそうであっても、民主的な政治を長らく続けてきた香港や台湾は違います。1997年に中国に返還された香港では、すでに選挙は中国の統制下でコントロールされるようになってしまいましたが、台湾はまったく別の国であり、現在では台湾独立を掲げてきた民進党が政権を担っています。
ジャッキーは馬英九総統時代の2015年、台湾の故宮博物院の分院に対して、北京円明園にあった十二支像のレプリカを寄贈しました。しかし、これを「中国の統一工作」と批判する一部の独立派がペンキをかけるなどの事件が起こり、蔡英文政権になってからは、多くの批判があったことから撤去されました。
● 故宮博物院からジャッキー・チェン寄贈の「十二支像」撤去、「中国の統一工作?」過去にはペンキかける騒動も―台湾
このように、中国に傾斜するに従って、ジャッキー・チェンのアジアでの人気には陰りが出てきています。
もっとも、中国で売れればいいという考えなのでしょうが、もともと「表現の自由」を重んじる映画・芸術の世界にありながら、中国当局による思想・言論統制に迎合する姿勢は、とても「表現者」と言えるものではありません。
日本では「芸能人」といいますが、中国語では「芸人」と呼びます。そして中国にとって、それは統制の対象です。ある芸人の話では、現在、中国でのギャランティは、他のアジアの100倍ほどまで大きいと述べていました。その財力を利用して、中国は香港、台湾、韓国、そして世界各国の芸人にまで触手を伸ばしているのです。
日本の芸能人が中国市場へあまり進出していないのは、文化の違いが最大の理由ではありますが、中国では「南京大虐殺」や「反日映画」が作られすぎて、荒唐無稽で現実離れした論が多すぎるためという理由もあります。日本の芸能界市場も基本的には左翼趣味が強く、中国で活躍するには中国当局と意見を合わせなくてはなりません。
しかし、中国の反日プロパガンダ自体に中国人自身が飽き飽きしていて、シンパシーがないのです。だから、中国当局の論調にあわせる日本の芸能人に対しては、一般中国人はほとんど興味がありません。
以前のメルマガで、現在の中国では日本大好きの「精日」(精神的には日本人)が急増し、旧日本軍の軍服を着て日中戦争の遺跡前で記念撮影をするような者たちの存在がクローズアップされていることをお伝えしましたが、ジャッキー・チェンは、こうした「精日」を罰するための「国家尊厳法」制定についての提案書を中国当局に提出しているそうです。
●「精神日本人」を罰する「国家尊厳法」の制定、ジャッキー・チェン氏らが提案書―中国メディア
ちなみにジャッキーにとって、尖閣諸島はもちろん中国のものだという主張ですが、北方領土の四島は日本のものだと発言しているとか。
● ジャッキー・チェン「尖閣は中国」発言 ただし「北方領土は日本のもの」
中国当局の代弁者となったジャッキー・チェンですが、同情的に解釈すれば、やはり中国には逆らえないということなのでしょう。THAAD問題で中国から嫌がらせを受けた韓国同様、逆らえば、何をされるかわかりません。いくら中国が文化大国を目指すと言っても、絶対に無理なのは、官製の文化しか表に出せないからです。
ジャッキーは神格化と権力集中が進む習近平政権において、ますます使い勝手のいい芸能人として利用されていくことでしょう。もしかすると彼自身、いずれ、「習近平物語」を製作し万民を率いる神の如き習近平を演じることを狙っているのかもしれません。
※記事本文内に一部事実とは異なる情報が記載されていたため、該当部分を削除・修正を行いました。訂正してお詫びを申し上げます(MAG2 NEWS編集部)。
image by: Josiah True / Shutterstock.com
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