前回の「時間制限なし、日本酒100種飲み比べし放題の商売が成立する理由」では、お酒と人とのマッチングビジネスで急成長中の「クランドサケマーケット」の戦術・戦略分を分析した、MBAホルダーの青山烈士さん。今回、自身の無料メルマガ『MBAが教える企業分析』で取り上げるのは、同じく日本酒を扱う超有名店「日本酒原価酒蔵」。その人気を不動のものとした「戦略と戦術の整合」のさせ方とは?
自分たちの提供する価値は何か
原価で提供することで人気の日本酒専門店を分析します。
● クリエイティブプレイスが展開する日本酒専門居酒屋「日本酒原価酒蔵」
戦略ショートストーリー
日本酒初心者をターゲットに「多くの方に美味しい日本酒を知ってもらい、楽しんでもらいたいという思い」に支えられた「名酒が低価格で飲める」等の強みで差別化しています。
値段が高いことを理由に敬遠していた日本酒初心者に、名酒と呼ばれるようなお酒を気軽に楽しめる価格帯で提供することで、顧客から支持を得ています。
■分析のポイント
自分たちの提供する価値は何か
価格の高さで日本酒を敬遠している方もいるようです。その理由としてあげられるのが、
- その価格を払うほどの価値を感じていない
- 日本酒の良さを知らない
ということです。そして、価値を知ってもらうには、試してもらうことが重要です。
国内の日本酒の出荷量は縮小傾向で他のお酒との競争も激しいため、危機感を持っている関係者も多いと思いますが、「日本酒原価酒蔵」は名酒と呼ばれる日本酒を含めて原価で提供することで、試してもらい、日本酒の良さを知ってもらおうとしているわけですね。
この取り組みをとおして、日本酒好きを増やすことで、ビジョンとも言える「日本酒って“楽しい”を世界へと発信し続ける」ことを実現しようとしているのだと思います。日本酒が楽しまれていなければ、発信もできないですから、楽しんでもらうことを重視しているということでしょう。
日本酒を楽しんでもらうために、名酒など日本酒そのものも品揃えも重要ですが、「日本酒原価酒蔵」は日本酒に合う食事を提供することにも力を入れています。食事も日本酒を楽しんでもらうために必要な重要な要素だと考えているのでしょう。
ここが大事なポイントですが、日本酒の楽しさとは何かをしっかりと定義づけられているからこそ、打ち手も具体的になるのだと思います。自分たちの提供する価値が何か、どんな嬉しさや楽しさを提供するのかが、明確であるからこそ、何をやるべきか、という打ち手(戦術)が具体化され、戦略とかみ合うようになるわけです。
戦略と戦術を整合させることは、企業が競争に勝ち抜くうえで非常に重要な要素になるということを示してくれている事例だと思います。
今後の「日本酒原価酒蔵」の取り組みに注目していきたいです。
◆戦略分析
■戦場・競合
- 戦場(顧客視点での自社の事業領域):日本酒専門店
- 競合(お客様の選択肢):日本酒専門店、居酒屋 など
- 状況:国内の日本酒の出荷量は縮小傾向のようです。
■強み
1.名酒が低価格で飲める
- 厳選された日本酒を全て原価で飲める
- 価格を気にせず、たくさん飲める
- 名酒、高級酒を手軽に楽しめる
2.初心者にもやさしい
- 日本酒が分からない人は店員が一から教えてくれる
- 日本酒を知らない、わからない方向けに「日本酒ガイドブック」を用意
★上記の強みを支えるコア・コンピタンス
- 多くの方に、美味しい日本酒を知ってもらいたい、楽しんでもらいたいという思い
- オリジナル一合瓶に移し替えて一度に多種類の酒を運べるようにし、各自手酌で飲んでもらうシステム
上記のような、思いや仕組みが強みを支えています。
■顧客ターゲット
- 日本酒が好きな方
- 高品質な日本酒を手軽に飲みたい方
- 日本酒初心者の方
- 価格が高いという理由で日本酒を敬遠していた方
◆戦術分析
■売り物、売り値
「高品質の日本酒を原価(相場の3分の1程度)で提供」
- 常時50種類超の日本酒を取り揃え
- すべて特注の1合(180ml)瓶で鮮度がよい
- 入館料として790円が必要(現金特価490円)
<メニュー>
- 獺祭(だっさい)磨き50:一合 395円
- 八海山 越後で候(はっかいさん えちごでそうろう): 一合 356円
- 醸し人九平次(かもしびとくへいじ):一合 519円
- 十四代(じゅうよんだい):一合 348円~(毎月の「第1月・第4月曜日」に入荷予定)
- 而今(じこん):一合 402円~(毎月の「第2火・第3火曜日」に入荷予定)
他、様々な日本酒を品揃え
- 日本酒に合うつまみも約50種類揃えている(コース料理も用意)
※食事の持ち込みは不可
■売り方
- 業界初の日本酒の「原価売り」を実現した居酒屋
- クラウドファンディングサイト「Makuake(マクアケ)」を活用
■売り場
- 首都圏を中心に15店舗
- 香りを楽しむため「全席禁煙」
※ 売り値や売り物などは調査時の情報です。最新の情報を知りたい場合は、企業HPなどをご確認ください。
image by: 日本酒原価酒蔵 - Home | Facebook