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意味不明。消費増税で中小の小売店に「ポイント還元」という愚策

10月15日、予定通り2019年10月からの消費税10%の増税を表明した安倍総理。さらに対象を中小小売店に限りキャッシュレス決算を条件に、増税分の2%をポイント還元するとの案も発表されましたが、これに異を唱えるのは、米国在住の作家・冷泉彰彦さん。冷泉さんは自身のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』で、この政策について「意味不明であり効果は疑問」とし、そう判断する根拠を記しています。

中小小売店にポイント還元補助金、効果は疑問

安倍総理が2019年10月に「消費税率を10%にアップ」という発表を行いました。その直後に、麻生財務財務大臣は記者会見で、2%になる消費税増税分と同じ額を「ポイント還元する制度を発表。対象は、中小の小売店に限るとして「資本金1億円程度までの企業や小売店」が対象となるということです。

この政策ですが意味不明ですし、効果は疑問だと思います。

まず中小の小売店というのは、地元に根ざしています。どうして地元に根ざしているのかというと、高齢者の徒歩圏だからです。例えば、地方でも現役世代であれば、少しでも安い価格を求めて国道沿いのイオンとか、もっと安いトライアル、あるいはDIY店とかに行くでしょう。

首都圏でも少し郊外に出れば、軽四で国道16号線沿いの量販店に買い出しに行くような人は多いと思います。ですから、地元に根ざした中小の店というのは、高齢者が徒歩で買い物に来るというのがメインの商売だと思います。

そこに「キャッシュレスを導入したら、ポイント2%還元分を補助する」という政策を押し付けるというのは、まるで「キャッシュレスが進んでいないということを罰するかのようです。

どういうことかというと、高齢者をキャッシュレス支払いを誘導するには、シンプルな専用アプリとか、簡単に加入できる会員制度などが必要で、現状のままでは「2%で釣っても効果が限定的と思われるからです。

さらに言えば、ポイント還元分は補助があるにしても、クレジットカードの場合は3%前後の手数料は加盟店負担であり実質の減収になりますし、そもそも売上代金の回収までの期間をつなぐ資金繰りの問題も出て来ます。非接触式なども対応するとなると、端末コストもバカになりません。

一方で、前回の消費税アップの際には「還元セールを禁止」という措置が取られて、それが「消費の巨大な反動落ち込みの原因になったわけです。今回の「2%還元」は、その反省を踏まえているわけですが、では「中小には補助金を回して2%還元」をさせる分、大手にはどうするのかというと、特に禁止はしないと思います。反動消費減が怖いからです。

ということは、大手は自己資金で「2%還元」とか、それこそ「2%+アルファ」の還元もやる可能性があります。そうなると、消費の主力である現役世代は、大手の店へ行きますから、せっかく政府が中小商店を救済しようとしても効果は限定的と思われます。

もしかすると、財務省はそんなことは百も承知」の上なのかもしれません。大手小売チェーンのキャッシュレスは進むだろうし、インバウンド需要を多く抱えている店は、中小でもどんどん導入する中で、最もキャッシュレス導入が難しい「高齢者の徒歩圏を商圏にした」中小小売を、この「増税のタイミングでキャッシュレスに対応させようというのです。

アベノミクスの出口戦略でインフレが進む中で、年金支給抑制、医療費自己負担増という変化に直面して、実質の可処分所得の目減りに直面している高齢者市場は、難しさを抱えています。そんな中で、今回の施策が結果的に中小小売店の衰退を加速させるようでは本末転倒ではないかと思います。

高齢者徒歩圏市場など、中小の小売店におけるキャッシュレス導入を促進するのであれば、端末代や移行時の資金繰り、そしてそれ以前の手数料問題に関して、「零細な経営によりフレンドリーな決済ビジネス」を育成するという発想法が一番大切だと思います。

image by: 首相官邸

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東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは第1~第4火曜日配信。

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