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米中覇権戦争のさなかに両国の顔色を窺う日本を待つ暗すぎる未来

ファーウェイCFOの逮捕など、強硬な対中姿勢を見せるアメリカと、日本経済にとって「頼みの綱」とも言える中国。覇権争いを繰り広げる両国の間で、立ち位置を固められない日本。米中二国の顔色を窺いながらの外交は、早晩無理が出てくることは明白です。はたして日本はどの道を選択すべきなのでしょうか。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では、元全国紙社会部記者の新 恭さんが日本の現状を分析するとともに、「中国の成長に期待して儲けを考える習わしから卒業すべし」と結んでいます。

本気モードの米中覇権戦争…それでも中国頼みを卒業できない経済界

今年の12月1日は、特別な日となった。G20が開催されたアルゼンチンのブエノスアイレスで、日米、日中、米中と、首脳が個別に会談を重ねていたころ、中国の通信最大手、ファーウエイの孟晩舟副会長が米国の要請によりカナダ司法当局に逮捕されていたのだ。

習近平国家主席に、通貨スワップ協定の約束までして恩を売ろうとしていた安倍首相は、世界最大級の通信企業に急成長したファーウエイの最高幹部逮捕のニュースに衝撃を受けたに違いない。世界の覇権を中国に奪われまいとするトランプ政権の本気度”がひしと伝わってきただろう。

2017年の中国向け輸出が20.5%増と急伸し、ますます中国依存度を高める日本の経済界は、トランプ大統領ならではの対中強硬姿勢に戸惑っている。

トランプ政権が対米貿易黒字を2年間で2,000億ドル削減せよと中国に求め、高関税をかけようとするなか、経団連の中西宏明会長ら財界の訪中団は9月12日、10月10日の2回にわたり李克強首相を訪ねた。「自由貿易の堅持が必要」と、低姿勢で米国との対中姿勢の違いを強調し、一部マスコミに「朝貢外交」と揶揄されるほどだった。

こうした財界の動きを受けて10月26日に訪中した安倍首相は習近平国家主席や李克強首相との会談で、「私の訪問を契機に競争から協調へ日中関係を新しい時代へと押し上げていきたい」と述べ、訪日中国人に対するビザ発給要件の緩和や通貨スワップ協定の締結を明らかにした。

中央銀行同士が通貨を交換し合うのが通貨スワップ協定だが、この場合はあくまで、人民元暴落の不安に怯える中国側の外貨獲得手段を確保したい事情を汲んだ措置と言えよう。円をスワップで得れば、すぐにドルに替えられる。

表向き、財務省や日銀は、中国に進出している銀行、企業が緊急時に人民元を調達できると説明をしている。そうではなく、米国の経済的締めつけに苦しむ習近平政権が、巨大マーケットの強みを背景に助太刀を求め日本が応じたということだろう。

こうした日本の動きは、アメリカによる中国共産党弱体化の狙いに逆行するものだった。

ペンス副大統領は、安倍首相訪中の少し前、10月4日に、ハドソン研究所における講演で、きわめて明快に対中国政策の全貌を語っていた。1時間近くにわたる講演のなかから、要点をまとめてみる。

中国はかつてないほど、わが国の国内政策や政治活動に干渉し、トウ小平氏の有名な「改革開放」はむなしいものとなっている。この17年間で中国のGDPは9倍に成長し、世界2位の経済大国になった。その成功の多くをもたらしたアメリカの昨年の対中貿易赤字は3,750億ドルだ。

 

中国共産党は「Made in China2025」計画を策定し、ロボット、バイオテクノロジー、人工知能など世界の最先端技術の90%を支配することをめざしている。官僚や企業に対し、米国の知的財産を、あらゆる手段を用いて取得するよう指示する一方で、多くの米国企業に対し、中国で事業を行う対価として、企業秘密を提供するよう要求している。最悪なのは、中国の安全保障機関が、米国の最先端技術の大がかりな窃盗の黒幕であることだ。

 

中国は米国より軍事的優位に立つことを第一目標とし、米国を西太平洋から追い出そうとしている。今日、中国は他に類を見ない監視国家を築き、侵略的になっている。アジア、アフリカ、ヨーロッパ、ラテンアメリカでのインフラ整備に何十億ドルもの資金を提供し、いわゆる「借金漬け外交」でがんじがらめにし影響を拡大している。米国の企業、映画会社、大学、シンクタンク、ジャーナリストなどにカネを流し、その見返りを得ようとしている。

 

我々は、強制的な技術移転を中国政府がやめるまで、断固とした態度をとり、米国企業の知的財産権を保護する。そして、自由で開かれたインド太平洋地域全体のビジョンを前進させるために、諸国との絆を強める。

まなじりを決して中国の膨張政策に立ち向かう米首脳の意思が伝わってくる。中国との取引で巨利を得ている米企業も多いに違いないが、このまま中国の勢力が拡大すると、世界を主導してきた米国の立場が危うくなるのだ。

日米同盟にしがみつく日本としても、長年にわたり経済援助をし、技術移転もされてきた中国のこれ以上の増長を許したくないのが本音ではないか。

しかし、日本の消費市場は中国人観光客の爆買いをあてにし、企業は中国の巨大マーケットで稼がなければ黒字決算を維持できないのが実情だ。米中両国の機嫌を損なわないよう、言動に気を配りつつ、のらりくらりと、変化に対応していくことぐらいしか、目下の策はなさそうだ。

一方、アメリカはペンス副大統領の指摘した知的財産権の保護、技術の移転や窃盗の防止、貿易赤字の解消など対中政策を着々と進めている。

8月に成立した外国投資リスク審査近代化法(FIRRMA)により、大量破壊兵器などに転用できる機微技術を保有する企業が外国に投資を行う場合、あらゆる取引について事前申告することが義務づけられた。

ロボティクス、人工知能(AI)、ビッグデータ、自動走行車、集積回路、3Dプリンタなど先端技術の海外移転の制限を強めるため、輸出管理改革法(ECRA)も成立させた。

ファーウェイ経営者の逮捕劇は、この文脈でとらえる必要がある。第5世代移動通信システム(5G)の開発で先頭を走っているとされるファーウェイは、民間企業ではあっても習近平氏とのつながりが強いとされる。創業者の軍歴から、人民解放軍との関係や中国のサイバー攻撃との関連を疑う見方もある。

次世代通信の覇権を中国に握られるようなことがあると、米国の重要情報が中国共産党に筒抜けになってしまうかもしれない。

エドワード・スノーデン氏のリークで明らかになったように、米NSA(国家安全保障局)は大手IT企業の協力で、電子メール、写真、チャット、動画、文書などから情報を収集している。世界中の同盟国にパラボラアンテナを立てて米国のNSA本部とつなぎ、「エシュロン」と呼ばれるシステムで世界中の通信を傍受してきたことも知られている。

経済、軍事力のみならずサイバー空間においても優位に立っているからこそ、アメリカは好き放題にできるのである。

その立場を脅かす象徴的な企業であるファーウェイを叩くため、米国は同盟国に同社製品の閉め出しを求め、日本政府も政府調達からファーウェイを排除する方針を決めた。

中国のGDPは2017年には米国の63.2%に達している。このペースでいくと遅くとも10年後の2027年には米国を追い抜いてしまうことになる。

しかし中国経済は必ずしも盤石とは言えない。

米国が2017年実績で3,750億ドルに達した膨大な貿易赤字をトランプ大統領の圧力で解消することに成功したら、中国の外貨準備高は一気に減少し、積もり積もった負債が財政を圧迫するだろう。いうまでもなく、軍事力増強のスピードは衰え、米国との国力の差は開く一方となって、世界の覇権などはうたかたの夢と消える。

2008年9月のリーマン・ショック以降、米連邦準備制度理事会(FRB)の5年間にわたる異次元金融緩和で乱発されたドルが、盛んな輸出と外国からの投資によって中国に流入、中国人民銀行の外貨準備高が急増した。その外貨の裏付けに見合う人民元の発行により中国経済はなんとか成長軌道を保ち続けた。

しかし、どうやら習近平氏は先を急ぎ過ぎたようだ。14年にユーラシアから、中近東、アフリカまでの陸海を結ぶ現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」をぶち上げ、南沙諸島を占拠し、「Made in China2025」なる計画でアメリカに挑戦状をつきつけた

この計画は、次世代情報技術、高度なデジタル制御の工作機械とロボット、航空・宇宙設備などからなる10の分野を重点とし、2025年までに製造強国となり、新中国成立100周年の2049年には総合力で世界の製造強国のトップに立つ、というものだ。

これが米国を刺激しないはずはない。習近平氏と個人的に良好な関係を築いたと吹聴していたトランプ氏も、今年に入って、習近平体制の崩壊につながりかねないのを承知で高関税など強硬策に打って出たわけである。

このため中国では、株価下落、人民元安に歯止めがかからず、共産党内の空気も変化してきたらしい。

習近平国家主席の肖像画入りのポスターに墨汁や黒インクをかける運動が拡大し、北京や上海の街に掲げられた「中国の夢」「偉大なる復興」といった習語録の横断幕も外されはじめたという。

ファーウエイの孟晩舟副会長が逮捕された12月1日、習近平氏はトランプ大統領が宿泊したブエノスアイレスの最高級ホテル「パラシオドゥハウ・パークハイアット」を訪れ、夕食をともにしながら会談した。

時事通信によると、米国は年明けに予定した対中追加関税の25%への引き上げを当面凍結するかわりに、交渉期限を90日として知的財産権などについて協議を始めることにしたという。

向こうから会いに来た習近平氏にトランプ氏が配慮したかたちだが、中国側がよほど譲歩しないかぎり米国は一歩も引かないだろう。習近平の独裁体制にヒビが入りはじめた今が、中国の膨張を抑え込む最大かつギリギリのチャンスとみているからだ。

こうしたなか、12月1日の安倍・習近平会談で、習近平主席は「日本が引き続き中国の改革開放のプロセスに参加し、中国の発展の新たなチャンスを共有することを歓迎する」と呼びかけたが、安倍首相はトランプ大統領に気を使い「中国と多国間の問題で交流・協力を強化できるよう望んでいる」といつものお題目を唱えるしかなかった。

欧州で最も中国との取引の多いドイツ企業も米中との板挟みの中で苦悩している。ファーウエイをはじめとする中国企業の技術的進歩により、これまでのように中国の成長がドイツ経済の発展につながるという構図を描くことはできなくなっている。「ウィン・ウィンの新しい意味は、中国が二度勝つことだ」というドイツ企業関係者の嘆息も漏れる。

日本はどういう方向をめざすべきなのか。人権無視の中国共産党が世界の覇権を握るのは悪夢である。さりとて、米国の言いなりになる属国のごとき立場からいつまでも抜け出せないのも問題だ。安倍首相にいたっては、さして必要とは思えない米国製ステルス戦闘機F35を105機も購入することを決めてトランプ氏の機嫌をとる始末である。

米中覇権戦争の渦の中で迷っているのが日本の現状であろう。迷いは間違った判断を生みやすい。中国の成長に期待して儲けを考える習わしからもそろそろ卒業しなければ、大変なことになるかもしれない。

image by: AL hutluht / Shutterstock.com

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