これまでも多くの怪談系書籍をレビューしてきた無料メルマガ『クリエイターへ【日刊デジタルクリエイターズ】』の編集長・柴田忠男さん。今回は、図書館で偶然発見したという「埼玉で起きた不気味な現象」をまとめた一冊を紹介しています。
偏屈BOOK案内:桜井伸也『埼玉の怖い話』
『埼玉の怖い話』
桜井伸也 著・TOブックス
戸田市内の図書館で郷土関係の書棚を眺めていたら、こんなタイトルの真っ黒い本があった。「埼玉の」というと、わたし自身「どうせ埼玉」という地元民の歪んだ感情もほのかにあり、舐めていたのは本音である。「山怪」のヒットで、創作ではない怖い話を集めた本はたくさん出てきて、殆ど読んでいる。
真っ黒い不吉な装幀、見返しも扉も版面の周囲も真っ黒。前書き、後書きなし。16か所の怖いスポットがレポートされている。中でも浦山ダムの怪、八丁湖の怪、畑トンネルの怪などは2話、痴漢山の怪が3話。著者はゲーム開発者、イラストレーター、怪談家。幼少からの怪体験を経て、心霊現象に興味を持ち、怪談・心霊写真の蒐集を始めて25年以上、怪談DVDの企画制作に携わっている。
舐めていてすいません。じわっとくるいやな気分、では片付けられない本当に怖い話、不気味な話がある。著者はこの道のベテランだから、怪異に出会っても取り乱したりしない。きちんと観察できるし、映像記録も撮れる。他人の話コレクションではないからリアルだ。でも、文章はいまいちの出来である。
全部読んでから、さてどれが一番怖かったか、もう一度読み直した。若い女の子を怪異スポットに連れて行き、何かに怯えるオイシイ映像を撮るのが仕事だから、怪異に慣れた著者による観察は確かで、それはそれで読み応えがあり、うわーこりゃ女の子泣くよなと思う。だが、著者自身の恐怖体験を読みたい。
ありました。秩父市の浦山ダムの怪。美しい自然に囲まれた、観光客も多いダム。2010年11月、怪談系企画の撮影で、女性リポーターのAさんを伴いスタッフと一緒に訪れたのは23時、撮影開始は午前零時。撮影を開始すると、対岸からヒィー、ヒィーという声が聞こえる。Aさんは怯えて、なかなか撮影に入れない。
Aさんがベンチに座ってパネルで説明を始めた瞬間、石が転げ落ちるような音が辺りに響く。遠くから警報音のような音が小さく絶え間なく聞こえる。やがて、Aさんの背後、黒い湖面から明らかに女の悲鳴が聞こえだした。涙ぐむAさんを車に戻るよう促したとき、女の悲鳴が複数になり、やがて湖中からの悲鳴が10人、20人と聞こえるようになった。泳ぐ音もする。一同、車に逃げ戻る。
恐怖でその場にいることができない。車を出すと、路上に轢かれた猫、次は鳩、次は鼠を咥えた犬。そして、車内が焦げ臭い、焼却炉の臭いだ。コンビニでしばらく休んでから車に戻ると、線香の匂いになっているのに一同は言葉を失う。コンビニを出てからも3回、動物の死体を見る。真の恐怖はこれから始まる。
ダムでの体験など著者は慣れているが、家に帰ってから高価なカメラが壊れていたのに青ざめる。強烈な眠気が襲い、目がさめると右頬に二本の筋のような傷跡があり、血が滲み出している。その後も、目が覚めたとき腕、顔、肩に引っ掻き傷の痕が残る。顔にべっとり唾液のような跡があり、首に数本長い毛がまきついている。不穏な感覚の身の回りを撮った写真に、写っていたのは……。
霊感のある知り合いTさんに会いにいくと、なにも話していないのに、30代後半の執着心が強い女(の霊)を連れてきてしまったなという。Tさんがダムの女を根気よく説得し、1か月半でどうやら怪現象は収まった。懲りない著者は、3人の女性を連れて、またもや深夜のダム湖へ。いい加減にしろ!わりと近い「さいたま市秋ヶ瀬公園」に自転車で行ってみようかな。昼間に。
編集長 柴田忠男
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