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3.11震災時、気仙沼・本吉の障がい者たちが居場所をなくした理由

東日本大震災後に知的障がい者たちが居場所をなくしてしまった経験から、親たちが集まり問題解決するために生まれた「本吉絆つながりたい」というグループが気仙沼の本吉地区あります。メルマガ『ジャーナリスティックなやさしい未来』の著者でジャーナリストの引地達也さんは、このグループの成り立ちと目指す未来へ立ちふさがる課題には、現代日本の地域福祉が抱える問題が詰まっていると指摘しています。

本吉の「つながりたい」思いが目指すつながる未来

ここ数年は東日本大震災が発生した3月11日を前に被災地を訪れるのが恒例になっている。もう少し行き来したいと思いながらも、現状の仕事量ではなかなか難しいが、その仕事にも少し絡んでの訪問になりつつあるのも少し嬉しい。

そして、震災以降、1人の市民としてかかわってきた被災地とのつながりは、最近は福祉事業を実践し、福祉領域が研究のテーマになっている私にとって、それは確実に新しい目線での新しい発見があることに驚いている。今まで見落としてきた地域福祉の課題が、福祉を知れば浮かび上がってくるのだ。

宮城県気仙沼市本吉地区の知的障がい者の母親のグループ「本吉絆つながりたい」との震災後からのコミュニケーションは、だんだんと深いところでシンクロしてくるような感覚であり、それは福祉の課題や地域課題を照射するメッセージとなって私の中に響いてくる。

気仙沼市本吉地区は気仙沼市南部の沿岸部から内陸にかけての地域で、平成の市町村合併で気仙沼市に編入されるまでは、本吉町として機能しており、現在も住民は「気仙沼市」にしっくりきていない様子だ。

本吉絆つながりたいは、震災によって発生したグループで、震災によって生じた障がい者の親たちの悩みを集まって話しながら問題を解決しようというところから始まった。その問題は、障がい者らが地域コミュニティとは断絶された存在だったことに起因する。

この地区には特別支援学校(旧養護学校)はない。地区の障がい者が通うのはバスで1時間かけての南三陸町(旧志津川町)にある特別支援学校。「特別支援教育を受けるため」という自治体からの案内により通った彼らだが、これにより地域とのつながりがなくなってしまったという。

地元の学校に行かなかったことで、なじみの友達もいないし、地域住民も朝と夕方にバスに乗り降りするだけの生徒の存在すら気づかず、「特別支援学校」という偏見もあり、地域での居場所が確保できなかったという。その結果として、震災が発生して地域の小学校が避難所になっても、自閉症傾向が強い障がい者の場合は、「知らない学校」には入っていけず、結局自家用車の中で生活し続けることになったのである。

だから、「つながりたい」なのである。彼女たちの願いは当初から今も変わらず、親と子が一緒に住めるグループホームの建設だ。首都圏で就労移行事業を行っている立場から見れば、この方たちの障がいは重度であり、福祉サービスでいえば生活介護が必要である。そして現在も生活介護を利用しているが、親の高齢化もあり、ますます地域で支えあう必要を感じている。

つながらなかった障がい者と地域が母親の問題意識を媒介につながり、それが世代でも受け継がれていく─。本吉つながりたい、を結成したことで、その理念は伝わったが、実際の福祉サービスに結び付けるかは、地域課題が横たわる。福祉サービスを担える人材不足である。

地域福祉サービスを提供する際に必要最低限の要件を満たす人が確保できたとしても、福祉への深い理解のもとで仕事をし、そのコミュニティに新しい考えを取り入れつつ、地域で信頼される施設を作れるかは、人口の少ない地域では特に深刻な課題だ。

福祉施設がない場所には福祉の人材は育たないし、特別支援学校が存在しない地域では教員OBも少なく、首都圏で巨大勢力になりつつある「活躍したいシニア世代」もいない。ならば、外から障がい者とともに人材を呼び込もうと、現在熱い議論を展開している最中である。

image by: 本吉絆つながりたいホームページ

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特別支援教育が必要な方への学びの場である「法定外シャローム大学」や就労移行支援事業所を舞台にしながら、社会にケアの概念を広めるメディアの再定義を目指す思いで、世の中をやさしい視点で描きます。誰もが気持よくなれるやさしいジャーナリスムを模索します。

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