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ロシア国営メディアが膝を打った「北方領土返還プランB」の中身

日本のメディアでは、難航が伝えられる日本とロシアの平和条約締結交渉。そんな中、軍事アナリストの小川和久さんは、ロシア国営メディアのインタビューで、独自の北方領土返還プランを提案し、特派員から賛同を得られたと、主宰するメルマガ『NEWSを疑え!』で伝えています。小川さんは、「面積等分論」と「ドイツ最終規定条約」を踏まえた返還プランの中身とともに、ロシアを説得する交渉材料について軍事的な知見から指南します。

北方領土返還「プランB」

北方領土交渉が大詰めに差し掛かっている印象があります。そこで今回は、ロシアの国営メディアのインタビューで私が提案し、「そんな名案があったのか」と評価された「北方領土返還プランB」についてお話をしておきたいと思います。

いずれも「面積等分論」と「ドイツ最終規定条約」を踏まえたものですが、日本にとって最もメリットがあるのは4島の返還です。と言っても、ロシア側がすんなりと受け入れるわけはないのですが、4島について日本の主権を認め、択捉島とウルップ島の間の択捉水道を国境線とし、そのうちの択捉島についてはロシア軍の駐留を認めるのです。このプランの基礎になっている考え方は、小渕恵三政権の当時、私が野中広務官房長官を通じて提案させてもらったものです。

北方領土問題を沖縄の問題と対置し、日本に返還された後も日米安保条約に基づいて沖縄に米軍基地が維持されていることと同様に、日露の平和条約の中に北方4島へのロシア軍の駐留を認めるという項目を設け、4島一括返還を円滑に実現しようというものでした。残念ながら、外務省をはじめとする反対の声の前に、いつしか消えてしまいました。

そこで新たな提案ですが、北方4島の返還についてはロシアが中国やノルウェーと行ったのと同じように面積等分論で臨み、その上でロシア国内の世論が受け入れやすいように、返還される択捉島の西側5分の1の地域にだけはロシア軍の駐留を認めようというものです。日本として、一定の譲歩をした形になります。

プランBの第2案は、歯舞、色丹、国後の3島の返還で決着させようというものです。面積等分論で言うと択捉島の西側5分の1ほどが日本に帰属する計算になりますが、そうなるとオホーツク海と太平洋を結ぶ潜水艦の通路として択捉水道を是が非でも守りたいロシアの軍部や世論を説得することが難しくなります。そこで日本側も大きく譲歩をして、国後島までの返還で決着を図るというものです。

以上の2通りのプランBでは、いずれもドイツ最終規定条約に準じた条約を日本、ロシア、米国の3カ国で締結し、日本に返還された北方の4島あるいは3島に米軍をはじめとする外国軍隊と核兵器の配備を行わないことを明記することになります。

さらに、プーチン大統領とロシアの世論を説得する材料として日米安保条約を有効に使う必要があります。北方領土の返還がいつまでも実現しない中では、ロシアに対する日本の世論が硬化していくことは避けがたいわけで、ロシアに向けた日米安保体制の強化が進むことは間違いありません。

しかし、上記のプランBのような形で北方領土の返還が実現し、日本の世論がロシアに対して友好的に変化していく中では、ロシアに対する日米安保体制の強化は一定の水準にとどまるでしょう。そうなれば、広大な国土を抱えたロシアは東の日米、西のウクライナやNATO諸国と対峙する二正面作戦を強いられることから解放されます。国土の東側において脅威の度合いが低減することは、ロシアの国益に適うことでもあるのです。この現実的な考え方をプーチン大統領に理解してほしいと、私はインタビューで述べました。

関連して、ロシアのラブロフ外相が2月16日の日露外相会談で、国連憲章の旧敵国条項を持ち出し、河野外相に対して「敵国条項の対象国とは交渉しない」として、北方領土に対するロシアの主権を認めるよう求めたとのニュースが飛び込んできました。ラブロフ外相は「国連憲章には(第2次大戦での)戦勝国による行為は交渉不可能と書かれている」と主張したとのことです。

旧敵国条項は、第二次世界大戦の敗戦国7カ国(日本、ドイツ、イタリア、ブルガリア、ハンガリー、ルーマニア、フィンランド)が対象とされ、事実上死文化していることもあって1995年の国連総会決議で削除に向けた国連憲章の改正が勧告されています。しかし、改正には国連安全保障理事会5常任理事国による批准が必要なこともあり、現在も残っているものです。ラブロフ外相はこれまでにも、この敵国条項を根拠として北方領土に対するロシアの主権を主張してきたのです。

これは、原則論としてはひとつの考え方ではあります。しかし、これに対して日本が北方領土問題はソ連が日ソ中立条約を破り、ソ連軍が占領地の千島列島を不法併合した結果だと反論すれば、そのような関係が続く限り、北方領土問題の決着は望めません。そうなると、ロシアにとって国土の東側における日米の脅威も、解決することなく残ることになります。

日本としては、ラブロフ外相の敵国条項発言に対して「ロシアは二正面作戦を続けるつもりなのか」と問いかけ、Win-Winの形で決着するのが望ましいのではないかと持ちかけることがポイントとなるでしょう。

ロシアの国営メディアの特派員は「そんな名案があったのか」と全面的に賛成してくれましたが、このメディアに私のインタビュー記事が載り、プーチン大統領の目に止まることで、北方領土交渉に大きな進展が見られるといいなと、勝手に頷いたりしています。(小川和久)

image by: ID1974, shutterstock.com

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地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

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