エジソンが創業し、世界の製造業の雄とみなされていたアメリカのゼネラル・エレクトリック(GE)が苦境に陥っています。なぜGEはここまで追い詰められてしまったのでしょうか。ジャーナリストで数々のメディアでも活躍中の嶌信彦さんが、自身の無料メルマガ『ジャーナリスト嶌信彦「時代を読む」』でその理由を探っています。
GEとGAFA
世界の製造業の雄とみなされていた米ゼネラル・エレクトリック(GE)の凋落が目立っている。エジソンが創業し、長年にわたりアメリカの電機、重電、重工業の見本とされてきたGEは2000年代に入ってから不振が続き、18年には唯一残存していたダウ工業銘柄株30種からも遂に除外されてしまった。
GEはこれまでも何度か苦境に陥ったことがあった。1980年代にはジャック・ウェルチ氏がトップになり金融業で甦るという離れ技を行なって世界を驚かせた。しかし、ウェルチ氏が去り08年のリーマンショックで巨額の赤字を出してからは、負の遺産処理に追われ続けた。09年にメディア大手NBCユニバーサルを売却。一時は救世主となったGEキャピタルも15年に大部分を売却し、16年には家電事業を中国のハイアールに譲渡した。
さらに主力の電力事業で生産設備を3割削減し、15%にあたる1万人のリストラを実施。また、ヘルスケア事業の分離や石油大手の売却にも追い込まれた。
この間、上場以来トリプルAだったS&PのレーティングはAA+から18年には遂にBBB+まで下落。かつてのGEの栄光を知る人々にとっては信じられない低落振りで、負債総額は1,100億ドル、年間約30億ドルの金利払いという状況にまで業績が悪化した。結局、中心的な7つの事業のうち電力と航空機エンジン、再生可能エネルギーを残すだけになってしまった。売上高は最盛期の半分以下に落ち込む結果となっている。
GEは次々と新しい製造業を成功させ、一時は製造業を変革させるモデルといわれてきた。2000年代に入ると製造業からデジタルサービス業の技術によって次の産業革命をリードしようと試みたが、成長への展望を見出せないまま虚しく時は過ぎていった。リストラが先行しデジタル分野でも大規模な縮小が行なわれ、巨大企業化したGEは器用な転換ができなかったのである。
しかしこの間にヨーロッパのシーメンスをはじめ日本企業などは、IOTこそ次の産業の主役とみてこの分野に力を注ぎ、延命を図っている。またGAFAと呼ばれる設備を持たないソフトの企業が次々と現れ、株式の時価総額ではベストテンを占めるようになってきた。
むろん、GAFAがいつまでも現在の位置を占められるとは限らず、国境を越えて稼ぐGAFAに課税するなど新たな規制案も浮上している。
ただ重厚長大の時代は過ぎ、世界で最強・最大の複合企業として長い間産業界に君臨してきたGEの時代は去りつつあるようだ。かつての名門GEがどんな形で再生してくるか、多くの企業は固唾をのんで見守っているのではなかろうか。
(財界 2019年3月26日号 第491回)
※参考情報
9日のブルームバーグによると8日の米株式市場で、米ゼネラル・エレクトリック(GE)の株価が急落。同社の低迷予想を的中させたことで知られるJPモルガン・チェースのアナリスト、スティーブ・トゥサ氏が「売り」の投資判断を再開したことが背景にある。同氏はリポートで、「市場はGEが直面する課題や潜在リスクの深刻さを過小評価する一方、細かな明るい要素を過大評価している」と指摘。GEのフリーキャッシュフローは極めて抑制されており、収益力が限定されるとの見方を示した。と報じています。
8日のロイターによると欧州連合(EU)欧州委員会は8日、米複合企業ゼネラル・エレクトリック(GE)に対し、2年前にデンマークの風力発電機メーカー・LMウィンドを買収する際に誤解を招く情報を提出したとして、制裁金5,200万ユーロ(約5,840万ドル)を科したと報じています。
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