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「未知の職業」に就く若者にとって今の大学教育は適切なのか?

近い将来、さまざまな職業がAIに取って代わられると言われています。また同時に、数年前、10数年前には存在しなかった職業も生まれています。結果、いまの中学2年生の65%は、現時点で存在しない職業に就くという予測があるそうです。メルマガ『8人ばなし』の著者の山崎勝義さんが、今回この問題を考察。「未知の職業」に就く若者たちにとって必要な大学教育や、未知なものを目指す若者を見守ることになる親世代や社会に必要なものについて結論を導き出しています。

将来の職業Xのこと

「2011年度に小学校に入学した児童の65%は、今は存在すらしていない未知の職業に就くだろう」。2011年、米国デューク大学の研究である。 これを日本に当てはめると、2011年組は今年で中学2年になる筈である。つまりあと10年もすれば、その65%の人が就くであろう未知の職業の答え合わせができる訳である。それだけでも少し楽しみである。

考えてみれば、この5年ほどの間でも「You Tuber」や「プロ・eスポーツ・プレイヤー」などの新しい職業(あるいは職業名)が生まれている。あながち単なる予想と捨て置くこともできまい。 さらに、この予想に少しばかり意地の悪い解釈を加えると、65%つまりは3人のうち2人までもが今後教育の現場で虚しい進路指導を受けるというふうにも言える。今仮にこの予想に従うなら3分の2の生徒にとっては「将来就きたい職業=不明」というのが合理的な答えでもあるからだ。

もっとも、「就きたい」職業と「実際に就く」職業との間には、昔も今もこれからも厳然たる乖離が存在し続けるであろうし、きっと子供たちもそれは十分に分かっているに違いない。しかし、先の予想は飽くまで「就きたい」職業ではなく「就くであろう」職業である。とすれば、将来の夢というレベルの浮ついた話としてではなく、現実の話として「将来就きたい職業=未知の何か」という職業選択を一つの答えのあり方として認めざるを得ないのではないだろうか。

それでも高校進学に関してはまだいい。普通科高校でいいのだから。 問題は大学である。「未知の何か学部」「未知の何か学科」など如何な特区と言えども存在しないからだ。 ここに来てかつての旧制高校式の教養学部の解体を推し進めてしまったことが実に悔まれるのである。解体ではなく寧ろ拡大すべきであった。学部の4年間はリベラル・アーツ・カレッジ式で良かったのである。

これは社会の要請にも適うものである。実際の就職活動において、出身大学はともかく出身学部で振り分けされることはまずない。採用する側からしてみれば、学士号の下に括弧付きでぶら下がっている学位の専門性などどうでもいいのである。おそらく意識するとしたら修士号以上の学位であろう。 またリベラル・アーツ式の学部なら前述の「未知の何か」にも対応できる。学際的であるということは学問的に偏りのない、ある意味ニュートラルな立場であるとも言えるからだ。

そもそも教養学部の解体が日本で進んだのは、大学側もっと言えば教授側(教える側)のエゴによるところが大きい。即ちこうである。かつての旧制高校が現在の教養学部に相当し、かつての帝国大学が現在の大学各学部に相当するなら当然、前者が下位で後者が上位である筈だ、といった馬鹿げた上下意識が残ってしまったために格下と見られがちな教養学部の教授たちがこれを不服に思ったからのことである。

結果、実際の社会のニーズとはかけ離れた大学編成となってしまったのである。その一方で大学側もリベラル・アーツの重要性を無視することはできないから、総合の前後に国際だの人間だの科学だのをくっ付けては、所謂教養学部(Liberal arts系学部またはArts and Sciences系学部)を新設しているという事実もある。

さて65%の話に戻る。よくよく考えれば医師や弁護士などの所謂師業や士業を除いてしまえば、残りのほとんどはこの65%に入ってしまうことになるのではないか。とすれば、大学入学時点で希望する職業が「(少なくても今現在の段階では)未知の職業」という学生が多数存在するということになる。
これを許容する社会は今とは比べものにならないくらいに寛容な社会である。改めて我々は、子供たちの将来に対して寛容であり続けることをここに誓わなければならないのである。

image by: Shutterstock.com

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ここにあるエッセイが『8人ばなし』である以上、時にその内容は、右にも寄れば、左にも寄る、またその表現は、上に昇ることもあれば、下に折れることもある。そんな覚束ない足下での危うい歩みの中に、何かしらの面白味を見つけて頂けたらと思う。

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【著者】 山崎勝義 【月額】 ¥220/月(税込) 初月無料! 【発行周期】 毎週 火曜日 発行予定

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