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オワコン国家日本。鳴り物入り「特区」も米中の一顧客という悲劇

「“世界で一番ビジネスをしやすい環境”を作ることを目的に、地域や分野を限定することで、大胆な規制・制度の緩和や税制面の優遇を行う規制改革制度(首相官邸HPより)」とされる国家戦略特区ですが、その運営については様々な意見が飛び交う状況となっています。そんな中、「特区はダメ」と一刀両断するのは、米国在住の作家・冷泉彰彦さん。なぜそのように判断するのでしょうか。冷泉さんは自身のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』で、「スーパーシティ」構想を例に上げ明らかにしています。

チャンチャラおかしい「国家戦略特区」

最初にお断りしておきますが、これから「国家戦略特区」のことを批判しますが、それは現在の政府を批判するのが意図ではありません。勿論、この問題について今の政府の対応は遅すぎるし、全く物足りない中で、日本の衰退はひたすら加速するばかりなのですが、それでも「特区をやろうとしているだけマシだとも言えます。

他の野党については、もっと特区をやれとか、これから述べるように「規制を特区に囲い込め」というような考え方とは正反対であり、遺伝子組み換えが怖いとか、新薬の副作用が怖いから治験はやるなとかいうダメダメな感情論があると、すぐに飛びついて票にしようとか既得権益を守ることで組織票を確保しようという勢力ですから、全くお話になりません。

また、現在の特区がダメなのは、それだけ岩盤規制にしがみついた既得権益とテコでも動かない旧世代の感情論があるからで、政府としてはようやくのことで、これだけの特区を通すことができているのも事実です。

そうではあるのですが、それでもダメなものはダメです。特区はダメなのです。「特区だけ規制廃止」というのは逆なのです。そうではなくて、日本経済の足を引っ張る規制はまず撤廃することが大事であって、「どうしても地域の特殊性がある」ので規制を外せないところに限って、「必要な規制をかけるというの発想の転換が必要だと思います。

例えば、スーパーシティの問題があります。

スーパーシティというのは、従来の規制を解除してAIなど先端技術を活用した未来型のまちづくりをする構想です。具体的には、内閣府のホームページによれば、

  1. キャッシュレス…ランチから買い物まですべてキャッシュレス。お得なポイントも顔認証などで一括処理。家計簿管理も、楽々
  2. 自動ごみ収集…曜日を問わずゴミ出し。センサーで満杯を感知し自動収集
  3. 自動走行・自動配送…いつでも、どこでも、自動走行車両がご案内。必要な時に必要なものを即時にお届け。宅配ボックスはもう不要
  4. 遠隔医療・介護…AIも活用し、症状の軽いうちからしっかりケア(「AIホスピタル」)。夜間の心配な急病もネットで簡単に受診。いつでも見守られ、安心を提供
  5. 行政手続ワンスオンリー…最初の手続を行えば、その後の全ての申請・手続は、個人端末からネットで簡単に処理
  6. 遠隔教育…一人ひとりに即したコンテンツを、子供から大人まで、いつでもどこでも誰にでも、ネットで必要な時に配信

といったサービスを提供するというものです。

何が問題なのかというと、まずこれは「スーパーでも何でもないということです。

携帯電話(移動体通信)が第五世代(5G)になったとして、その「遅延のほとんどない高速大容量通信」の使い道は、「スマホで動画を見る」ような次元のものではありません。そうではなくて、この技術を使って自動運転や遠隔地医療に使うというのはすでに人類共通のテーマになっています。

ですから、この「スーパーシティ」の目玉である、自動運転とか遠隔診療というのは、とにかく世界中の国と企業が実用化を目指して激しい競争をしているのです。

では、どうして「国家戦略特区」が必要なのかというと、自動運転は現在の法律では禁止されているし、遠隔診療もダメだからです。つまり、世界中が追いかけている新技術が日本の法律ではダメ」なのです。ということは、実験をして様々な使われ方の検証をしたりすることも、今は禁止されているのです。

特に自動運転ですが、2018年に数件の事故が起きたことで、アメリカや中国など先端を行っている国では、「人間並みのAIによる完全な自律走行というのは無理であり、5Gを使ってクルマだけでなく、自転車や歩行者まで含めた交通情報をリアルタイムで共有しながら安全な走行をする「コネクテッド」という考え方が主流になっています。ということは現時点では、自動運転イコール5G技術といっても過言ではありません。

医療もそうです。遠隔地診療の際に、特に手術を含めた措置において必要なのは、超高速低遅延によるリアルタイム画像伝送です。これも5Gの目玉です。

ということは、このまま放置しておけば、世界中が必死になって競争している開発について、日本の場合は「ダメですよ。危険なので禁止ですよ」ということにして、アメリカや中国がグローバルスタンダードを作るのを待つことになってしまいます。

もっとおかしいのはこれに、行政の効率化や教育のICT化といった、4G以前のテクノロジでも十分に実用化されている問題を一緒に扱っていることです。どうして行政の効率化が「スーパー」なのか、それは法律通りにやっていたら、膨大な紙を作ってハンコを押したり、多くの職員に20世紀のような事務作業をさせなくてはならないからで、おかしいのは法律なのですが、その法律を変えるのはエネルギーがいるので、特区でまずやってみようということになっているわけです。

教育などはもっとそうで、アメリカでもアジアでも、子供は一人一台のタブレットやコンピュータを貸与されて勉強するのが当たり前なのに、それをやるには日本の法律が邪魔をしています。例えば、義務教育の場合は、紙の教科書を無償で配ってそれで学ぶのは法律で義務付けられてしまっているのです。

もっともっとおかしいのは、そもそもこの「スーパーシティ」がうまくいって「5G」の実証実験として良い成果が出たとしても、日本経済にはそれほどのインパクトはないということです。

現在の日本の情報通信産業には、新しい5Gのプラットフォームを開発する力はありません。金もヒトも特許もないのです。ですから、スーパーシティが成功したとしても、せいぜいがファーウェイかシリコンバレーの顧客の一つになるだけです。それでも、それをやらなければ日本の経済社会は更に地盤沈下していくのでやろうとしているわけです。

要するに「スーパーシティ」などと言っていますが、それは「スーパー」でも何でもないわけです。21世紀の世界では当たり前のことを日本では禁止されているからできないそれをごく一部のテストケースだけ規制を解除するというトホホな話であり、全く「スーパー」ではありません。

そもそも、明治政府は維新から5年後の1872年の時点で、新橋=横浜の鉄道を開業させ、これを契機に日本全国の交通インフラを整備していったわけです。これは、同時に江戸時代にあった「通行手形を廃止し、日本人は日本のどこへ行くのも通行は自由という規制緩和をやった、それが前提となっていました。

今行われている「特区」とか「国家戦略特区」というのは、「通行手形は廃止しない」が、鉄道を作らないと世界に遅れるので「新橋=横浜の間だけ規制緩和する、そんなイメージです。いかに、これがトホホな話かということです。

とにかく、規制緩和というと野党や高齢者が怖いとか安全はどうなる」などと騒ぎ出すので、「規制改革」と言い換えるとかいうのもヤメていただきたいです。それから、こんなチャチな話は、サクッとやるのが当然であり、国家戦略とか、大げさなインフレスローガンも馬鹿丸出しなので、やめてほしいです。

いずれにしても、おかしいのは規制であって、全国で無駄な規制はやめさせて、どうしても必要な場所だけ特区として規制をかけるようにすべきです。

image by: 内閣府 地方創生推進事務局(国家戦略特区) - Home | Facebook

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東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは第1~第4火曜日配信。

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