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米国が抱える巨大な「3つのバブル」大崩壊なら、日本は「円安と債券安」に襲われる?

円安の進行に歯止めがかからず、家計や企業活動への影響がますます深刻化する日本経済。為替市場だけでなく、アメリカ経済や世界情勢の変化も絡む中、その先行きを見通すことは容易ではありません。今回のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』では作家で米国在住の冷泉彰彦さんが、円安の流れが止まらない背景と「円防衛」のあり方を分析。さらにAI株、不動産、政治というアメリカの「3つのバブル」の行方と、日本経済への影響について考察しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/メルマガ原題:混迷する世界と、円防衛の道筋

アメリカの「バブル崩壊」に日本も巻き込まれるのか。円防衛の道筋

ドル円が160円になったら必ず介入する、これは財務日銀が2026年5月の一ヶ月を通じて徹底した政策でした。この行動には目的がありました。それは介入して160円の水準を越えないようにするということ、そのものではありません。そうではなくて、160円を越えたら介入があるということを、世界の投機筋に痛感させて、これ以上の円売りを躊躇させる、これが目的でした。

しかしながら、この目的は既に5月が終わって1月も経たないうちに崩壊しつつあります。現時点(現地6月22日)では、円はズルズルと162円に接近しています。ちなみに、この日の相場は「スペースXの利益は確定させて、割安感のあるクリプト(暗号資産)を買う」という流れでしたが、「売られすぎた円を買う」というセンチメント(市場の雰囲気)はありません。

だったら、6月から7月もドンドン介入したら良いではないか、と思うのですが、恐らくそれはできない理由があるのだと思います。5月の介入時には、片山財務相は何度もアメリカのベッセント財務長官と調整をしていたようですが、その際には一つのクギを差されていたと考えられるからです。それは、「外為特会を使って円買いをするのはいいが、米国債の叩き売りはダメ」ということです。

この縛りが効いていて、財務日銀としては両手を縛られる中で、現状としては「160円ラインでの介入はしない」という方針転換、あるいは円防衛ラインの後退が進んでいるのでしょう。では、どこまで退くのかというと、当面は162円で、その次は165円ラインということになるのだと思われます。

ちなみに、今回も片山=ベッセントの電話会談があったようで、報道では介入の可能性が話し合われたとされていますが、本当に介入するのならそんなリークはしないはずです。解釈としては、米国債を売るのはダメと言われ、その代わりに両者で口先介入して効果を期待するという以上でも以下でもない、そんなところでしょうか。

それはともかく、今日現在はイラン情勢がやや落ち着いており、原油は1バレル77円前後というやや安値圏に来ていますので、「痛み」は軽減されています。ですが、他の資材、原料、食糧など日本が輸入に依存している資源については、例えば158円から165円に円が下がると、自動的に4.4%上がってしまいます。これは非常にキツい話であり、とにかく円防衛というのは切迫した課題だと思います。

では、具体的に円を防衛してゆくにはどうしたら良いのか、これはこのコラムの後半に議論するとして、その前に市場を中心に米国経済、世界経済の現状についてお話したいと思います。

ズバリ、現在のアメリカ経済は好況なのか、不況なのかということでは、過去の歴史上まったく例のないような「ギリギリの綱渡り」という状況であると考えられます。というのは、3つのバブルが膨張しており、それが「いつ崩壊してもおかしくない」からです。

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早晩「壁にブチ当たる」との見方もあるAI株のバブル

1つ目は、AI株のバブルです。現在地としては、既にスペースXは大型上場を成功させて、初値も初日終値も超バブル化しました。同時に、「クロード・ミュトス」で有名なアンソロピック、そして「ChatCPT」でおなじみのオープンAIも上場申請書を提出しました。

アンソロピックと、オープンAIの場合は、何だかんだ言って「目に見えないソフトウェアへの投資」を続けてきた企業ですから、「無形固定資産」があるといっても、それをどう評価するかは未知の世界。そこで、上場審査にはかなりの時間がかかると言われていますが、以前は2027年年初だろうと言われていた上場タイミングが、もしかすると2026年の秋口になるかもしれないという見方もあります。

では、スペースXだけでなく、2社も加わった「AI企業3社」が上場を成功させて、巨額の資金と市場価値を手に入れた場合、何が起きるのでしょうか。現在では、確かに大卒者の就職が厳しくなるなど、AI革命が各企業を席巻しているのは事実です。ですが、それが3社の上場によって、更に加速するのかというと、そう簡単ではありません。

まず、今どんどんAIに置き換わっているのは、知的労働の初級職です。というと、日本的な観点では事務員のリストラが加速しているというように見えますが、実際はそうではありません。消えつつあるのは、プログラマーといっても、世界観や事業観を持ちつつ開発をするエリートの「候補=エントリーレベル」です。また、金融や法務の仕事も消えつつありますが、どちらも大卒で専門職のスキルを叩き込まれたグループです。

それより下級の一般事務職までリストラの波が行っているのではありません。勿論、アメリカの場合、一般事務職は90年代からのDXでどんどん消滅しています。ですが、さすがに労働組合で守られていることもあり、工場、スーパーや公務員などの職がAI革命で脅かされているというわけではありません。

ですから、AIによる効率化といっても、そこには当面は限界があります。また、AI企業は「AIエージェント」がどんどん実用化されていると言っていますが、Aをやったら、その結果に応じてBをやり、その結果でCをやる的な「重層的な」タスク処理をする場合の「精度」は全く不十分です。AIとは結果のミスが前提であり、それが許容されるマーケティングや、デバッグ(プログラムのバグ探し)は得意ですが、あらゆる「ミスの許容されない」仕事は苦手です。

ということは、これだけ鳴り物入りで大型上場を成功させても、AI開発は必ずしも加速するわけでもないという考え方が出ています。加えて、コンピュータの脆弱性探知などの機能は「悪人の手に渡ったら大変」なレベルの過剰性能だということで、各国政府が狼狽するなど、販売の環境も整っていません。

ですから、早晩、AI株のバブルは壁にブチ当たるのではないか、そうした見方があります。AIについては、現時点で法人需要に対しては高額の課金に成功しています。ですから、しっかりマネタイズできている部分がある一方で、これが意外に早く限界に達するかもしれないのです。

スペースXの場合は、これに「有人火星探査」などという、かなり可能性の低い「夢物語バブル」まで乗せているので、相当に中身は不安定だと言えます。ですから、こうしたAI株の動向については、個人的には2つのシナリオを想定して行く必要を感じています。

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「スペースXがアンソロピックを買う」というシナリオも

それは巨大化した1社が残りの2社の双方もしくはどちらかを買って取り込むという可能性です。具体的にはアンソロピックの上場が、様々なイチャモンがついて先延ばしになる場合です。その場合に、アンソロピックの引っ張ってきているノンバンク融資の期限が来る場合には、スペースXがアンソロピックを買うというシナリオはあり得ます。

もう1つは、仮にアンソロピックもオープンAIも「無理やり上場」してしまった場合です。上場はしたが「マネタイズの加速は壁にブチ当たって」しまったとしたらどうなるでしょう。例えばハード特化に傾斜しているアップルを買うとか、現場が成熟しすぎたMSを買うとかいう形で、AI企業がクラシックなシリコンバレーの巨人を買ってしまうというシナリオはあり得ます。

こうした2つのシナリオが機動的に展開されて、はじめてAI3社の当面の延命ということは可能になる、そんなストーリーを感じています。ちょうど、本稿の時点、すなわち2026年6月22日の相場では、終値でスペースXが154ドル60まで売り込まれており、市場環境の難しさを示唆していると思われます。この日の市場センチメントが、悪いシナリオの予兆だとすると、仮に、AI株のバブルが急速に崩壊した場合は、マネー的にはゴールドではなく、今回はクリプト(暗号通貨)に資金が向かうかもしれません。

2つ目のバブルは不動産です。東京など日本の都市圏の不動産バブルも難しい局面になっていますが、NYなどアメリカの都市、そしてアメリカ郊外の不動産バブルも似たような厳しい状況にあります。それは、どう考えても「買い手の購買力に余る」水準まで買い上げられたということです。

例えばNY市内のアパートメントの賃料は平均で4,000ドル(64万円)を越えています。郊外の一戸建て住宅は購入価格が1ミリオン(1億6,200万円)をオーバーしており、30年ローンを組むとローン元利と固定資産税、保険料をトータルすると月の支払いが6,000ドル(ほぼ100万円)という状況です。

それでもNY都市圏の人々は「どっこい生きている」のは事実ですが、閉塞感はかなりのものがあります。マンハッタンやブルックリンでは、単身者のルームシェアは当たり前ですが、時折、複数カップルがLDKを共用するルームシェアをせざるを得ないとか、単身者が3人でシェアするなどという話もあります。

また、郊外に「夫婦ともに書斎を備えて」どちらもテレワーク主体で仕事と家庭を回そうという投資をしたという家族も多いです。この場合に、現在は各企業が「オフィスへ戻れ」という圧力をかけている中で、「それでは自分たちの投資はどうなる」として、テレワーク継続を主張、トラブルが多くなっています。現時点での労使の力関係は、週5日のうち「出勤4、テレ1」ですが、雇用側は4.5ぐらい出勤させたいようで、各社で揉めています。

企業側としては、これで労働側が改めてテレワークの権利を押し返してくると、今度はオフィス物件の相場が崩れるとか、マンハッタンの昼間人口が逆戻りといった懸念も持っています。ということは、住居物件も、オフィス物件もどちらも、そろそろバブルの領域に突っ込んでおり、崩壊リスクは無視できないということになります。仮の話ですが、東京の不動産バブルがハードランディングしてしまうと、それがNYに連鎖するという可能性は(逆も含めて)十二分にあると思います。

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そろそろ賞味期限が来つつある「トランプ現象バブル」

3つ目は政治バブルです。2015年の初夏にトランプ氏が突如政界入りを表明して以来、足掛け12年目に突入したトランプ現象バブルも、そろそろ賞味期限が来つつあるようです。アンチエリート、アンチグローバル、極端な孤立主義、ランダムな軍事外交と経済財政というメニューを、右派ポピュリズムのステーキソースで食わせるというモデルも、飽きられています。

一方で、もはや見分けのつかなくなった共和党の穏健派ブッシュ路線と、民主党の穏健派オバマ路線というのも、グローバリズムの行き詰まり、過度の格差拡大によって、輝きを失っています。中でも、グローバリストとも言える、このグループは、明らかにトランプ派を「包摂できない」ということは明らかとなってしまいました。巨大な被害者意識の塊、しかも暴発を内包した不安定な塊である存在を、敵視しかできない中では、このグループの賞味期限も過去形だと思います。

そんな中で消去法的に浮かび上がるのが、成長を止めて強烈に再分配を行うという、民主党左派(プログレッシブ)であり、社会主義者を自称するグループです。小さいながら、よくも悪くも意気盛んなこのグループは、しかしながらトランプ派とグローバリストには押され気味です。シリコンバレーとウォール街の巨大なマネーが、トランプ派とグローバリストに注入されており、これにはプログレッシブは対抗できていません。

そんな中で、不思議な「脱政治」のムードがあります。建国250年が全く盛り上がらないのも、11月に迫った中間選挙が白け気味なのもこのためです。悪しきイデオロギー対立は国を分断してしまい、マイナスが大きいのです。ですから、政治が加熱するのはよくないのですが、現状にある不気味な静けさというのは、政治バブルの空気が抜けてしまったという、これはこれで空虚を感じます。あるいは、国としての活力が消えてしまったようにも思います。

ということで、既に3点目の政治バブルの空気は抜けつつあるわけですが、問題はAIバブルと不動産バブルで、こちらは、今日の時点では全くもって破裂していないばかりか、バブルは拡大中です。株については、とにかくAI3社の大型上場完了を目指して全体は動いています。不動産も、郊外の戸建て相場に関しては、この5月から6月の「季節的な販売ピーク」の時期には、更に実需が押して微妙に上がっています。

アメリカのバブルは明らかに膨張を続けており、破裂のリスク、そして破裂時のインパクトというのも、同時に拡大中と考えたほうが良いでしょう。さて、本論の円防衛ということで考えるのであれば、そこが最大のポイントになると思います。

「アメリカのバブル崩壊の余波に煽られて、円もより脆弱性を露呈し、さらなる円安と債権安に転落、国民の生活水準の切り下げを余儀なくされる」

のか、それとも、2008年のリーマン・ショック時のように、

「バブル崩壊と政治の混迷によって混乱するアメリカを横目に、日本は社会の安定、財政規律の確保、民間活力の維持をアピール、比較優位という評価から円の防衛を継続」

というシナリオになるのか、ということになると思います。

この前者のシナリオは、何が何でも回避しなくてはなりません。そうではなくて、何としても後者、つまりアメリカのバブルが崩壊しても、日本としては円の防衛ができるシナリオを求めてゆく必要があります。

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一人あたりGDPの崩壊を止めることなくしてできない円防衛

そのシナリオについてですが、字数がオーバーしつつあるので簡単にしますが、従来は、「財政規律」が大事だと思ってきました。積極財政などと政治がいうので、円が売られるし、財政危機で通貨防衛の瀬戸際でありながら、減税で生活支援というのは無理筋だと思ってきました。

ですが、問題はそれだけではないのです。問題は民間にもあり、空洞化を加速し、国内GDPを顧みない、そして人口減の確定した国内市場から逃亡しようとしている財界に大きな責任があると思います。この点について、しっかりGDP削減の動きを止めることができる、これも円防衛には必要だと思うのです。

そのうえで、問題がここまで来たのであれば、国内を空洞化させて、産業を外国に移転してきた財界が、真の意味では国際企業にはなっていない、そのことを考えるべきとも思います。どういうことかというと、結局財界は「円安ウハウハ」という体質になっているわけです。空洞化して外に持ち出した産業が稼いでくれる、ならばそれを日本に数字上持ち込む場合に「円安だと膨張する」からです。

勿論、さらに新しく外国の企業を買ったり、外国に工場を建てるなどの投資をするのであれば、円安は厳しいです。ですが、既に海外に「キャピタルフライト」させてある生産設備や子会社が、ジャンジャン外貨建で利益を生むのであれば、円安のほうが彼らには好都合です。この構造を見抜いて「行き過ぎを是正」すること、これは円防衛においてどうしても必要です。

日本ファーストなどというスローガンが流行しているようですが、この点を突くことなしに、今でも「日本の多国籍企業の連結決算が日本経済」などという大手町の経済新聞が垂れ流すファンタジーを信じるのは、そろそろ限界です。まして、移民ハンターイ、インバウンドもハンターイなどと叫ぶことが、GDPをより毀損することに気づかないというのは、本当に困りものです。

GDPをもっと重視し、一人あたりGDPの崩壊を止める、そうした民間の経済活動を、特に国内での経済活動を再建すること、これなくして円防衛はできません。

※本記事は有料メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』2026年6月23日号の抜粋です。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。今週の論点「日教組の5悪を改めて追及する」「ふざけるな文科省、主体的学び評価の迷走」、人気連載「フラッシュバック81」もすぐに読めます。

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東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは第1~第4火曜日配信。

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