トレーニングのモチベーションが上がらないという読者から、メルマガ『届け!ボディメイクのプロ「桑原塾」からの熱きメッセージ』の桑原弘樹塾長の元に相談が届きました。桑原塾長は「どんなトレーニングをするか」ではなく、「どんな体になりたいのか」理想を描くところから始める「ブレークスルー思考」をアドバイスしています。
発想転換法
Question
忙しくてなかなかトレーニングが出来ません。自宅でやった方がいいのかとも思いますが、自宅ではいまひとつモチベーションも上がりません。
筋トレがいいのか、むしろランなどの方がいいのかも迷っています。特段、競技をするわけではないのですが、何か発想レベルでのヒントはありませんでしょうか。(26歳、男性)
桑原塾長からの回答
なかなか難しい課題ですね。でも発想の方法はとても大切だと思います。現状を把握して、それを改善するというやり方は正しいですし、本能的に行っているでしょう。
論理展開をするときに、帰納法というやり方と演繹法というやり方があります。帰納法は、ひとつひとつの事象を確認して結論に導くというやり方で、私たちも一般的にこの方法を取り入れています。
例えば、A君があるプロテインを飲んだらバルクアップしたとします。次にB君が飲んでもバルクアップして、今度はC君が飲んでもバルクアップしたとすると、恐らくD君が飲んでもバルクアップするであろうという推論の仕方です。
一方の演繹法とは、普遍的な法則や前提からより個別なものを推論していきます。
例えばホエイプロテインはアミノ酸スコアが100である。アミノ酸スコアが100のタンパク質は栄養価が高い。つまり、このホエイプロテインは栄養価が高い。といった具合に三段論法的に大前提から進めていきます。どちらの推論の仕方が正しいというのではなく、どちらも大切なやり方です。
忙しいとか、ジムの営業時間とか、自身の疲労度合いとか、様々な足元の事象をとりあげて、そこからどういった方法が現実的にいいのかを導きだすのもアリですし、筋肥大の仕組みやトレーニングの内容をもとに、どうしたら自身が筋肥大できるのかに展開していくのもいいでしょう。
もうひとつ面白い発想の仕方があります。ブレークスルー思考です。これは私も袋小路に入ったときにしばしば実践する方法です。まず、あるべき理想の姿を描くようにします。
自分がどうありたいのか。どんな体になりたいのか。どんな筋肉をつけたいのか。理想なので遠慮は不要です。そして、一方で、今の現実があります。この理想と今とを、理想の方から少しずつ降りてきて結びつけるやり方です。
今現在の方から理想へと結びつけていこうとすると、すぐに課題やハードルが出てきてうまく辿り着きませんから、あくまでも理想のあるべき姿から降りてくるのがポイントです。
よく例えに出てくるのがレコード針の世界です。より美しい音を再現しようとレコード針を改良していっても、その行きつく先にCDは生まれてこないという例です。
つまり、美しい音が聞きたいという理想の方から現実に降りてくることで、CDは生まれてきました。今ではCDよりもダウンロードで音楽を聴くことが当たり前になってきましたが、どれも同様のブレークスルーでしょう。CDの品質の向上を目指す先にダウンロードは生まれてきません。
このブレークスルー思考を、質問者の方のトレーニングに当てはめて展開していくと面白いかもしれません。その場合は、まずトレーニングから入ってはいけません。何故トレーニングをしたいのか?から入るのです。
筋肉をつけたいのか、リラックスしたいのか、スタミナアップなのか、はたまたモテたいからなのか、その理由はまちまちです。もしリラックスしたいとかモテたいであれば、トレーニング以外の選択肢も生まれてきます。
仮に筋肉をつけたいという理由であれば、これまた何故筋肉をつけたいのかを問うようにします。コンテストを目指しているとか、強くなりたいとか、見栄えをよくしたいとか、いろいろな理由があるはずです。
このようにどんどんと上位概念へとその目的をあげていって、そこで決まった理想の姿から少しずつ下に降ろしていく作業を行うのです。
先のレコード針の例ではありませんが、もしかしたら、ジムとかトレーニングという発想からはずれる可能性もあります。自宅でEMSで十分だという結論になるかもしれません。このように、現状から積み上げていくのとは異なって、当初予想もしていなかったような選択肢が生まれてくるのもブレークスルー思考の特徴のひとつです。
現状の積み上げの場合は、どうしても制約条件から入ってしまうために、あれもダメこれもダメという形になってしまう傾向にあります。辿り着いた結論も、いろんな我慢や妥協の産物だったりするので、どこか満足度が足りません。
しかし、どちらか一つが大切という事ではなく、あくまでもそういった発想法もあるという事です。そして、私たちの日常は足元で様々な出来事が起きていますから、現状の把握とその積み上げ方式での解決策が一般的なのです。
だからこそ、たまに思い切って理想の姿を描いてみて、そこから少しずつ現場に降りてくるといったパターンを試してみると、自分自身の生活スタイルや行動パターンも冷静に見ることに繋がって、とても参考になります。
実は、私自身はパワープロダクションの事業を立ち上げた際に、このブレークスルー思考をもってチャレンジしました。従来の江崎グリコにない事業であり、またクレアチンパウダーのように味のしない食品を出してもいいのかとか、様々な議論が社内でされましたが、積み上げ方式で進めていれば難しかったように思います。
image by: Shutterstock.com