「筋トレ指導に際し根本的に押さえておくべきことを知りたい」という読者から、メルマガ『届け!ボディメイクのプロ「桑原塾」からの熱きメッセージ』の桑原弘樹塾長の元に質問が届きました。桑原塾長は、筋トレとは本能に逆らう不合理な行為であり、それゆえに苦痛でサボりやすいと解説。4つのポイントを伝えますが、まず最初に自主的であるということの大切さを強調しています。
筋トレ指導で押さえておきたいポイントは?
Question
筋トレを指導していく際に、根本的に押さえておくべきポイントって何かありますか。対象はまちまちですが、学生の野球やラグビーなどがメインです。(36歳、男性)
桑原塾長からの回答
ウエイトトレーニングの指導は本当に難しいと思います。それはテクニック的な側面もさることながら、気持ちの面でのお膳立てがしっかりとしていないと、どんどんと効果が漏れていってしまうからです。
筋トレをしたからすぐに競技のパフォーマンスがあがるわけでもなく、また筋肉自体がそれほど簡単についてくれませんから。どうしても選手は敬遠したくなるのも無理はありません。
至ってベーシックなアドバイスになってしまいますが、私が筋トレについてアドバイスさせてもらう際に必ず伝えるのは次の4点です。これが前提条件と言ってもいいかもしれません。
1.ウエイトトレーニングは自主的でなくてはならない
ウエイトトレーニングほど、上手にさぼれるトレーニングも無いと思います。挙がらないものは挙がりませんから、適当に苦しい顔をすればいいだけですから。また、目的がよほど明確でない限りは、単なる鉄の塊を挙げたり下げたりするのは、見ようによってはただの苦役でしかありません。
ウエイトトレーニングの極意は効かせることですから、ある意味人間の本能に逆らう行為でもあります。本来は、重いものをいかに軽く挙げるかというのが本能のはずですが、ウエイトトレーニングに関しては軽いものをいかに重く感じるかということを目指すわけです。
いわゆる力を不合理に使う行為ですから、そもそもが違和感を覚えて当然なのです。だからこそ人から強制されてやった場合は、ひたすら苦しく感じるでしょうし、必然的に手を抜こうと思うはずです。そうなるといつまで経っても効果があらわれませんから、まさに自主的に行わなくてはいけないのです。
2.エネルギーを使い切ることを目指す
これも本能とは逆行する行為かもしれません。生存してくためには、いかにエネルギーを温存するかが重要ですから、使い切るという行為にはある種の勇気が必要になります。
そもそも競技ではエネルギーを使い切らないのが鉄則です。むしろ、エネルギー配分をして臨むべきものです。ところが、ウエイトトレーニングに関しては、エネルギーを使い切らなくてはなりません。しかも短時間に、です。
これも相当意識をしておかなくては出来ない行為ですので、最初に意識を高めてもらい、都度都度おさらいのように伝えるようにしています。
3.あともう一回の精神
これは筋肥大が速筋に起こるという事を意識しなくてはいけないという事です。筋肉には大きく分けて速筋と遅筋があります。
それぞれ更に細分化されていますが、ざっくりと言えば、速筋は酸素を使わずに発揮する大きな力で、持久性には劣ります。逆に、遅筋は酸素を使う持久性のある筋肉ですが、瞬発的な大きな力は出せません。
もちろん、どちらも大切なのですが、ほぼ日常生活では遅筋が使われています。ところが、筋肥大は速筋が起こす作用ですので、日常生活とは違った刺激を与えなくてはならないのです。そして、大切なポイントは遅筋がギブアップしてから速筋への刺激となるという点です。
つまり、しんどいと思って止めていては、速筋に刺激が行っておらず、それまでの努力が水の泡となってしまいます。しんどいなと思ってからあと一回出来るのかどうか、ここが筋トレの成果をあげられるか否かの分かれ道とも言えるのです。
最初にくる「しんどい」は遅筋がギブアップしかけているのだと理解をして、そこからのあと1回2回が速筋への刺激というわけです。つまり、その1、2回しか意味が無いという事になりますが、その1、2回を手に入れるためには手前の8、9回が必要になるという事です。
4.競技では力を合理的に、筋トレでは力を不合理に使うべし
筋トレの極意は「効かせる」事ですから、重い物を挙げるのが目的ではありません。ただ一般的には重い物を挙げる方が効きやすいから高重量はお勧めですが、重さだけを追求していくとやがて効かせるという目的から外れて挙げる事が目的になっていってしまいます。つまり、力を合理的に使おうとするようになってしまうのです。
例えば、パワーリフティングやベンチプレスといった競技は、トレーニングではなく競技が故に重い物を挙げた方が勝ちとなります。その場合には効かせてはいけないのです。ましてや、野球やラグビーの場合は、如何に力を合理的に発揮するかが重要であって、より合理的な動きをしなくてはなりません。
これは効かせる事を目的とした筋トレとは真逆の行為ですので、筋トレによって筋肥大をさせっぱなしという状況では競技のパフォーマンスはあがっていかない事も理解しておく必要があると思います。
最後に筋トレや筋肉の誤解についても、機会を見つけては説明をしておく事をお勧めします。
例えば、筋トレをして筋肥大を目指した選手が怪我をしたとします。特に野球などの場合には、筋肉をつけたからだとか、筋肉のつけすぎとか、体が硬くなったからだとか、とくにかく筋肉を原因にしたがる傾向があります。では、筋トレをしていない選手が怪我をした時には、筋トレをしていないからだ、筋肉がないからだと言いますか?という反論をします。
筋肉はすぐにつく、筋肉がつくと怪我をしやすくなる、こんな漠然とした根拠もないイメージを多くの人が持っています。マスコミの影響もあるのでしょうが、もしかすると選手の父兄などもその類の誤解をしているケースがありますから、そこを解消しておくとやりやすくなると思います。
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