かつては日本でも多くの方が解禁時間を待ち焦がれていたボジョレー・ヌーボーですが、近年その人気はすっかり冷え込んでしまったように見受けられます。今回の無料メルマガ『繁盛戦略企画塾・『心のマーケティング』講座』では繁盛戦略コンサルタントの佐藤きよあきさんが、そのブーム衰退の原因を探っています。
「ボジョレー・ヌーヴォー」が廃れたのは、嘘臭いキャッチコピーが原因!?
今年の「ボジョレー・ヌーヴォー」の解禁は、日本時間で11月21日午前0時。と言ったところで、すでにブームは過ぎ去り、まったくもって盛り上がりに欠けます。今年も百貨店やワインショップに、少人数のワイン愛好家が集まり、淋しいまでの静けさの中で、新酒の誕生を祝うのでしょう。
あれほど騒がれたブームが、なぜここまで廃れてしまったのでしょうか。ワインの魅力がなくなったのでしょうか。
ワインの世界は奥深く、その味わいに魅了された人間は、生涯ワインを愛し続けるものだと思います。ならば、「ボジョレー・ヌーヴォー」が騒がれなくなったのはなぜでしょうか。
理由のひとつは、「ボジョレー・ヌーヴォー」がワイン本来の味ではないからです。その年できた新酒の“出来”をテイスティングするとともに、“蔵出し”のお祝いをすることが目的です。本物のワインは、ここから熟成させることで完成するので、まだ未熟な味だと言えます。私も何度か飲んでいますが、飲みやすいだけで、美味しいとは言えません。
本来なら、ワイナリーで静かに祝っていたものなのです。冷蔵設備のない時代、人びとは近くの醸造所へ行き、ワインを量り売りで買っていました。そして、新酒の頃になると、周辺の限られた地域の人たちだけが、その味を楽しんでいたのです。美味しさを味わうというより、新酒を静かに祝う意味合いが強かったのです。しかし、冷蔵や輸送技術の発達により、もっと広めようという動きが醸造家によって始まったのです。
そこから世界へ。そして、日本に。
世界にも“ヌーボー“の愛好家はいますが、ワインの世界にどっぷりと浸かった人たちが、あくまで新酒を祝うために飲んでいるだけです。日本のように、“ヌーボー”だけで盛り上がることはありません。日本では異常なまでに盛り上がってしまったのです。
「ワイン=お洒落」にかぶれた人たちが、味など関係なく群がった結果、「ボジョレー・ヌーヴォー」が“有り難い存在”と化したのです。しかし、やがて人びとは気づきます。「それほどでもないのかも……」と。結局は、商社や百貨店が仕掛けたブームに過ぎなかったのです。
また、ブームを作り出すために、人びとが熱くなるようなアピールもしています。解禁前に、その年の「ボジョレー・ヌーヴォー」の評価をキャッチコピーとして発表するのです。「10年に1度の出来で、芳醇な味わい」など。これを聞いて、人びとの期待はますます高まり、解禁日に向けてそわそわし始めるのです。実に上手い演出です。
ところが、毎年発表されるキャッチコピーに、疑問を感じる人が出てきました。毎年代わり映えせず、「10年に1度」という言葉が度々登場したりしているのです。これでは、嘘臭いと感じても仕方がありません。信頼できる評価だとは思えないのです。
これまでのキャッチコピーを見てください。
- 1995年:ここ数年で一番出来が良い
- 1996年:10年に1度の逸品
- 1997年:1976年以来の品質
- 1998年:10年に1度の当たり年
- 1999年:品質は昨年より良い
- 2000年:出来は上々で申し分の無い仕上がり
- 2001年:ここ10年で最高
- 2002年:過去10年で最高と言われた01年を上回る出来栄え
- 2003年:100年に1度の出来、近年にない良い出来
- 2004年:香りが強く中々の出来栄え
- 2005年:ここ数年で最高
- 2006年:昨年同様良い出来栄え
- 2007年:柔らかく果実味が豊かで上質な味わい
- 2008年:豊かな果実味と程よい酸味が調和した味
- 2009年:50年に1度の出来栄え
- 2010年:1950年以降最高の出来と言われた2009年と同等の出来
- 2011年:2009年より果実味に富んだリッチなワイン。近年の当たり年である2009年に匹敵する出来
- 2012年:史上最悪の不作だが品質は良く健全。糖度と酸度のバランスが良く軽やか
- 2013年:ブドウの収穫量は少ないが、みずみずしさが感じられる素晴らしい品質
- 2014年:近年の当たり年である2009年と肩を並べるクォリティ
- 2015年:記憶に残る素晴らしい出来栄え
- 2016年:エレガントで酸味と果実味のバランスがとれた上品な味わい
- 2017年:豊満で朗らか、絹のようにしなやか。しかもフレッシュで輝かしい
- 2018年:理想的な条件の元、素晴らしいヴィンテージへの期待高まる
これだけ似たような言葉が並ぶと、誰も信用しなくなるのではないでしょうか。あまりにも“下手”なキャッチコピーです。「化けの皮がはがれた」「ボロが出た」と言ったところでしょうか。
ブームの終焉は、こんなところにも原因があるのではないかと思います。
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