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英語教育に罪なし。日本語力のない日本人に英語が身につかない訳

「中学・高校で6年間教育を受けているのに話せない」という点のみがクローズアップされ、改革の対象となっている日本の英語教育。文法・訳読方式の「偏重」が元凶と槍玉に上がっていますが、果たしてその批判は的を得ているのでしょうか。健康社会学者の河合薫さんは今回、自身のメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』で、英語力が低いそもそもの問題は日本語力の低下にあると断言した上で、現在の日本に本当に必要な教育について持論を展開しています。

※本記事は有料メルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』2019年11月13日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:河合薫(かわい・かおる)
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。

日本語の価値を忘れたニッポン人

大学入学共通テストへの英語民間試験導入のすったもんだが問題になっている中、またもや日本人の英語力に関する残念な結果が明らかになりました。国際語学教育機関が、英語を母語としない100カ国・地域を対象に行った調査で、日本の英語力は53位。去年より4つ順位を下げ、4年連続で5段階のうち下から2番目の「低い」に認定されてしまったのです。

トップはオランダで、スウェーデン2位、ノルウェー3位。日本の順位は2011年には44カ国・地域で14位でしたが、参加国が増えるにつれて年々下落。また、アジアの25カ国・地域で比べても、韓国37位)、中国40位などに次ぐ11番目でした。

同様の結果はその他の調査でも明かされていて、グローバル化が進み多くの国々が「話せる英語教育」を進める中、日本が取り残されている状況が続いています。

確かに日本の英語教育は文法と訳読方式をとってきたので、当然といえば当然の結果です。こういった結果が出るたびに、「日本の英語教育はダメだ!もっと話せる英語教育にしなくちゃダメだ!」という議論が繰り返されてきました。そこで小学校から英語教育を始めることになったり、「大学入学共通テストで民間の英語試験を取り入れよう!」といった流れになっているわけです。

でも、これって理にかなっているようでかなっていない。つまり、日本人がコミュニケーションツールとしての英語力が低いからといって、これまでの文法と訳読方式を否定するのはちょっと違うんじゃないか、と。そもそもの問題はそこじゃないだろ!と。問題のすり替えをするのではなく、それぞれのいい面をきちんと考えた上で、英語教育のあり方を議論しないと英語力の向上は無理です。

一方で、大学生の日本語力の低下は近年著しく、大きな問題になっています。

学校の成績は国語力が9割」とも言われるように、日本語の読解力、記述力は国語だけでなく全ての教科で必要な基礎知識です。ところが「英語が話せないと経済成長できない!」と英語教育に過剰に力をいれるあまり、国語教育の比重が相対的に軽くなっているのです。

日本語の読解・記述力が不十分だと、数学の文章問題は理解できません。理論構成が支離滅裂な回答しかできないのです。極論ではありますが、英語力の低さも実際には母語である日本語力の低下、具体的には語彙力が低下していることが英語力が低いそもそもの問題なのです。

もう少しわかりやすく説明しましょう。

前述したとおり文法・訳読方式の英語教育は、テキストや例文を母語に訳して読みながら文法や言葉の意味を教える教授法です。このアプローチは18世紀のヨーロッパで広まりました。当時から文法・訳読方式は「コミュニケーションの役に立たない」といった今の日本社会に流布してるような批判が存在しました。

しかしながら、母語をしっかりと身につけた上で文法・訳読方式で英語を学ぶと、学習者の精神的世界観が広がり、母語の意味がさらに進化し、個人の言語能力だけではなく、さまざまなことを論理的に考える思考力を向上させるプラス面が認められているのです。

例えば「夏至」「冬至」は英語では「summer solstice」「winter solstice」です。私たちは夏至や冬至という言葉は普通に使いますが「至」が何を意味するかを考えることは滅多にありません。でも、英語では「solstice」という単語がつくので、solsticeを英英辞典で調べると、

「the time when the sun is furthest north or south of the equator」

とある。これを直訳すると、「太陽が赤道の最も北または南にある時間」となります。

要するに、昼の時間の長短としてしか理解されていなかった「夏至・冬至」が英語に翻訳し、単語を調べることで「太陽と赤道の距離」を意味し、その距離によって昼の時間が長くなったり、短くなったりしていることが意識できる。語学の問題が理科の問題の理解にまで拡大するのです。

母語ではない英語(外国語)を文法・訳読方式で学ぶことで、無意識に使っている母語の語彙の意味を意識化できる。母語で形成されている精神世界が英語を学ぶことで、自分の言葉として習得できる。それはその国の文化や価値観を学ぶことにもつながっていきます

「おもてなし」が「OMOTENASHI」と訳されるのも、これが日本独特の文化だからだし、日本では青空は「晴れ」ですが、英語だとclear、sunny、fear、bright、summeryなど、さまざまな表現がある。その理由を調べていくと、目の色の違いによっての感じ方が変わることがわかります。

言語にはコミュニケーションの手段だけにとどまらない価値がある。つまるところ、今の日本に必要なのはきちんとした日本語教育を行い語彙力を高めること。そのうえで従来どおりの文法訳読方式を行えばその他の教科の能力の向上が期待できます。

では、コミュニケーションとしての英語の力はどう高めるか?それについては長くなりますので、改めて取り上げたいと思います。

みなさんのご意見もお聞かせください。

image by: Shutterstock.com

※本記事は有料メルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』2019年11月13日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

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米国育ち、ANA国際線CA、「ニュースステーション」初代気象予報士、その後一念発起し、東大大学院に進学し博士号を取得(健康社会学者 Ph.D)という異色のキャリアを重ねたから書ける“とっておきの情報”をアナタだけにお教えします。
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