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好き勝手物作りを楽しめる。「エンジニア天国」な会社を考える

日本のベンチャー企業の経営者にとって、大きな課題となっているのが優秀なエンジニアの採用だと、メルマガ『週刊 Life is beautiful』の著者で世界的エンジニアの中島聡さんは語ります。そして、中島さんが考えるエンジニアが働きたいと思える会社、仕事がしやすい環境やビジネスモデルは、そのままエンジニア採用のヒントになっているのではないでしょうか。

エンジニア天国な会社

今年に入って、何回かFirebaseのハッカソン(エンジニアを集めて、プログラミングをその場でするイベント)に主催者側として参加して強く感じたのは、これが優秀なエンジニアを発掘するのにとても有効な方法であることです。

ベンチャー企業を経営していて、もっとも重要で、かつ、難しいと感じたのが、優秀なエンジニアの採用です。そもそも優秀なエンジニアが少ない上に、面接でその実力を知ることは簡単ではありません。また、そもそも優秀なエンジニアは仕事に困ってもいないので、あちらからわざわざ応募してくることも少ないので、それもエンジニアの採用を難しくしています。

当然、これまでの人的ネットワークを活用して、過去に一緒に働いた人とか、その人が信頼する人に声をかけたりしますが、それも限られています。その意味では、ハッカソンは、そんなネットワークを広げるのに最適で、すでに3人ほど「この人とは一緒に働きたい」と思えるようなエンジニアとの出会いがありました。

そんな話を、ある会社の人に話をしたところ、とても興味を持ってくれて、次に会った時には「ハッカソンを利用したビジネスモデル」の提案をされてしまいました。ハッカソンを利用して集めた人材を企業に紹介するというビジネスモデルです。

発想として悪くはないのですが、ハッカソンに来るようなエンジニアたちが、そんなサービスを必要としているとは思えないし、私自身が関わりたいようなビジネスでもないので、その時は一旦、お断りをしました。

すると、次に会った時には、少しビジネスモデルに変更を加え、ハッカソンで集めた優秀なエンジニアたちが、大企業に対して製品づくりのお手伝いをするコンサルティング・サービス、というビジネスモデルを提案されました。

最初のものよりは、ずっと良いのですが、結局はコンサルティング・サービスだし、好きなものは作らせてもらえないので、超一流のエンジニアが集まるとは思えません。

そこで、私なりにどんな会社だったら、そこで働きたいかを、思いっきりわがままに考えてみました。

まず第一に、そこには超一流のエンジニアだけを集めます。100人のエンジニアがいれば、上位3%ぐらいです。それも、0から物作りをするのが大好きで、マネージメントや会社経営には興味のない人たちです。ベンチャー企業の創業メンバーとして働いていたけれど、会社が大きくなって、CTOとして人を使うのが嫌で辞めてし待ったような人たちです。

彼らには、会社に来ても在宅でも良いのですが、日々好き勝手なものを作ってもらいます。必要な機材やツールは会社が提供し、とにかく、「目に見える形」のプロトタイプをどんどんと作ってもらいます。一人で作っても良いし、チームを組んでも結構です。Slackなどを活用して、出来るだけ全てオープンな形で進めます。

「見た目」を良くするための、デザイナーも会社側が用意します。パテントも必要に応じて、取得してもらいます(弁理士は常駐で雇った方が良いかも)。

そこには、様々な市場に詳しいビジエス側(営業、マーケティング、オペレーションなど)の人もいて、「こんなものは売れるかな?」「こんなニーズはあるかな?」「儲かるビジネスが作れるかな?」などの相談に乗ってくれます。大企業のいわゆる「研究所」は、間に開発部門が入るために、どうしても市場との距離が生まれてしまうので、この機能はとても重要です。

月一ぐらいのペースで、プロトタイプの発表会があり、作っているものを他の人たち(エンジニア+ビジネス)に見せ、そこでもフィードバックをもらいます。

そんな中で、「これならば売れそう」というものが出てきた段階で、商品化へのプロセスが始まります。外部のエンジニアを活用して商品化を進めるケースもあれば、プロトタイプの段階で、(商品化のパートナー探しの)営業に回るケースもあります。ここで外部のエンジニアを使うのは、会社を必要以上に大きくしたくないし、エンジニアの質だけは絶対に下げたくないからです。

プロトタイプを作ったエンジニアは、製品化が完成するまで関わっても良いし、全く別のプロトタイプ作りを初めても良いので、とにかく自分のクリエイティビティを最高に保った状態で、物作りを楽しんでもらいます。

ビジネスモデルは、色々とあっても良いと思います。会社として直接世の中に出しても良いですが、イノベーションを必要としている大企業と組んで、彼らのブランドで売ってもらったり、ジョイントベンチャーを作るのもアリだと思います。作った(もしくは作りかけの)製品やサービスを、個別に事業売却しても良いと思います。

こんな会社であれば、私は是非とも働いてみたいし、他のエンジニアたちにも声がかけやすいと思います。ある意味、私が学生時代に働いていたアスキー出版に似ています。

ハッカソンで発表された製品の中には、「これはちゃんと育てれば成功するに違いない!」と思えるものがいくつかありました。しかし、だからと言って、そんな製品ごとに小粒な会社を作るのは賢くありません。また、それを作ったエンジニアたちも、必ずしも会社を経営したいとは考えていないと思います。そんな良いものを作っている人を、製品ごとこの会社で引き取るのです。

大企業ではイノベーションが起こらず、だからと言って、シリコンバレーのような土壌や文化もない日本には、こんなビジネスモデルこそが適しているのではないかと考えています。

image by: Shutterstock.com

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マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。IT業界から日本の原発問題まで、感情論を排した冷静な筆致で綴られるメルマガは必読。

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