就任以来、アメリカ合衆国大統領とは思えぬ前例のない言動を繰り返してきたトランプ氏。そんな彼が新たに打ったのは、「アメリカの歴史そのもの」を変えるかのような一手でした。今回の『きっこのメルマガ』では人気ブロガーのきっこさんが、トランプ氏が設置した「歴代大統領の説明板」の異常とも言える内容を詳しく紹介。その上で、事実や歴史を歪めてまで自己正当化に走るトランプ政治の危うさを強く批判しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:王様の耳はロバの耳
「オスのロバ」は「バカ」のスラング。トランプの耳はロバの耳
米カリフォルニア州ハリウッドのハリウッド大通りとヴァイン通り沿いの歩道には、約5キロにわたってエンターテインメント界で活躍した人物の名前が刻まれた星型プレートが埋め込まれた「ハリウッド・ウォーク・オブ・フェーム(ハリウッドの名声の歩道)」があり、観光名所となっています。星の数は毎年増え続けており、これまでに2,000を超えるプレートが埋め込まれましたが、その中には実在の人物だけでなく、ミッキー・マウスやドナルド・ダック、バックス・バニーやくまのプーさんなど、コミックスやアニメなどの人気キャラも含まれています。
一方、ドナルド・ダックならぬドラルド・トランプが末席を汚(けが)しているのが、ホワイトハウスのウエストウイング(西棟)にある「プレジデンシャル・ウォーク・オブ・フェーム(大統領の名声の歩道)」です。ホワイトハウス公邸からオーバルオフィス(大統領執務室)へと続く通路には、第1代のジョージ・ワシントンから第47代のドナルド・トランプまで、計45人の歴代大統領の肖像画が展示されています。この歴代大統領の肖像画は、アメリカ合衆国の歴史そのものなのです。
それなのに、嗚呼それなのに、それなのに…というわけで、今年1月20日の就任以来、ホワイトハウスの内装などを好き勝手に変えまくって来たトランプは、とうとう、この歴史ある「ウォーク・オブ・フェーム」まで勝手に変えてしまったのです。どういうことかと言うと、歴代大統領の肖像画のパネルの下に、自分で文面を考えた「説明板」を設置したのです。
もちろん、それがマトモなものなら何も問題などありません。しかし、ふだんの発言やSNSの投稿などを見る限り、トランプの発言は、その大半がデマや誹謗中傷なのです。そして、今回公開された歴代大統領の説明板も、自分の嫌いな大統領のことはボロクソにこき下ろし、自分の好きな大統領のことは称賛し、そして自分自身を最大限に称賛するという、恥も外聞もない代物だったのです。
たとえば、トランプが最も憎んでいるジョー・バイデン前大統領に関しては、肖像画を外してしまい、その代わりに「オートペン」の写真を掛けたのです。トランプはことあるごとに「バイデンは認知症で自分の名前も書けないので、大統領令に署名する時には署名を複製するオートペンを使っている」などとデマを垂れ流して来ましたが、そのオートペンの写真を肖像画と入れ替えたのです。
これだけでも大変な侮辱ですが、その下に掛けられたトランプ作の説明板が凄まじい内容なのです。まずトランプはバイデン前大統領のことを「Sleepy Joe」と記したのです。以前からトランプは「スリーピー・ジョー(眠そうなジョー)」や「クルックド・ジョー(歪んだジョー)」などと呼んでバイデン前大統領を侮辱し続けて来ましたが、トランプはそれをホワイトハウスの説明板にまで書き込んだのです。
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「トランプのSNS投稿そのもの」の厚顔無恥ぶりな内容
以下、トランプが書いた説明板の内容です。
眠そうなジョー・バイデンは、アメリカ史上ダントツで最悪の大統領だった。アメリカ史上最も腐敗したイカサマ選挙の結果として大統領に就任したバイデンは、我が国を破滅の瀬戸際にまで追い込むという未だかつて前例のない最悪の政治を主導した。彼の政策は史上最悪のインフレを引き起こし、米ドルはわずか4年間で20%以上も下落した。
バイデンが国境警備を手抜きしたため、多くの凶悪犯罪者がアメリカに不法入国した。彼が行なった2021年のアフガニスタン撤退というアメリカ史上最も屈辱的な大惨事によって、13人もの米軍兵士が犠牲となった。こうしたバイデンの壊滅的な弱腰ぶりを見て、2022年2月24日、ロシアはウクライナに侵攻し、2023年10月7日、テロリストのハマスはイスラエルに対して凶悪な攻撃を行なった。
眠そうなジョー、歪んだジョーとアダ名されたジョー・バイデンは、急進左派の側近たちの言いなりになっていた。フェイクニュースを垂れ流すメディアの仲間たちは、バイデンの深刻な認知能力の衰えを隠すために、オートペンの使用を隠蔽しようとした。
バイデンが大統領選で再選を目指した2024年6月の討論会で、彼はトランプ大統領を侮辱したが、その後、彼は不名誉なことに選挙戦からの撤退を余儀なくされた。バイデンは法的機関を武器にして、政治的に対立する相手を無実の罪で迫害し続けた。そして、身内の犯罪者に恩赦を乱発した。しかし、次の選挙ではトランプ大統領が圧勝して再選されたのだ!トランプ大統領こそがアメリカを救うだろう!
どうですか?この厚顔無恥ぶりは。まるでトランプのSNSの投稿そのものじゃないですか。百歩ゆずって、これがホントにSNSの投稿だったのならまだしも、ホワイトハウスの歴代大統領の肖像画を陳列した歴史ある「ウォーク・オブ・フェーム」に掲げてある文面なんですよ。そして、これが、各国の首脳らが訪れた時にはトランプの判断で公開されるんですよ。
バラク・オバマ元大統領についても、トランプは言いたい放題です。まずは「バラク・フセイン・オバマは初の黒人大統領であり、コミュニティ・オーガナイザーであり、イリノイ州の1期上院議員であり、アメリカ史上最も国民の分裂を招いた政治家の1人だ」という軽いジャブから始まり、「医療保険制度改革法(ACA)」や「イラン核合意」や「パリ協定合意」など、オバマ元大統領の実績をことごとく失敗だったと批判しています。
そして「オバマは小規模事業者を厳しい環境規制で麻痺させ、アメリカの炭鉱労働者を壊滅させ、IRSや連邦官僚機構を政治的対立者に対する武器として利用した」って、あれ?これってバイデン前大統領にも書いてましたよね?まさにバカのひとつ覚えですね。そして、この辺からトランプはいつもの妄想モードに突入するのです。
「オバマ政権下でISIS(イスラム国)のカリフ制が中東全域に拡大し、リビアは混乱に陥り、ロシアはウクライナのクリミアを侵攻して占領した」などと、ISISの台頭からロシアのクリミア侵攻まで、何から何までオバマ元大統領のせいにするというデタラメを撒き散らしつつ、いよいよトランプ節は佳境を迎えます。
オバマは2016年の大統領選でドナルド・トランプ陣営の選挙キャンペーンをスパイするため、アメリカ史上最悪の政治スキャンダルである「ロシア、ロシア、ロシアの捏造」を主導した。しかし、彼が指名した後継者のヒラリー・クリントンは、その後、ドナルド・トランプに大統領の座を奪われることになる。
この「ロシア、ロシア、ロシアの捏造」と言うのは、原文には「Russia Russia Russia hoax」と書いてあって、この「hoax」には「詐欺」という意味もあります。ここでは「作り話」という意味合いなので、あたしは「捏造」と訳しましたが、これはトランプが以前から垂れ流して来た「オバマはロシアと手を組んで俺の陣営をスパイした!」という妄想で、すでにFBIの調査でも上院の超党派の調査でもロシアの関与は「なかった」と報告されています。
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トランプのトランプによるトランプのための説明
洋の東西を問わず、思考が幼稚な人って強調したい言葉を繰り返しがちですが、この「Russia Russia Russia hoax」にもそれが現われてますね。就任後にトランプは「地球温暖化などデマだ!」と騒いで「パリ協定」から離脱し、石油について「drill, baby, drill!」と叫びました。日本ではこれを「掘って掘って掘りまくれ!」と訳して報じましたが、英語ではこうしてリフレインの間に「baby」を挟むのも、思考が幼稚な人が多用する「強調」の方法なのです。
トランプは他にも、ジョージ・W・ブッシュなども批判していますが、面白いのは民主党のビル・クリントンが共和党からも支持されたり数多くの表彰を受けたことに対して、「テックブームの助けがあったからだ」とか「不倫スキャンダルがあったのにも関わらず」などと、どこかの姑(しゅうとめ)のように、いちいち「言わなくてもいい一言」を付け加えている点です。
ビル・クリントンの大きな業績の1つであるNAFTA(北米自由貿易協定)に関しても、トランプは「アメリカにとってはマイナス」などと批判した上で「NAFTAなどトランプ大統領が1期目に終わらせるだろう」などと自分で書いているのです。そして「2016年、クリントン大統領の妻ヒラリーは大統領の座をドナルド・トランプ大統領に奪われた!」などと「ビックリマーク」まで付けた自画自賛の一文で締めくくっているのです。
ここまでの流れからも分かるように、ドナルド・トランプという小学生は、自分以外の者が業績を上げたり表彰されることが悔しくて悔しくて仕方ないのです。だから他の大統領の業績や表彰にいちいちイチャモンをつけまくり、挙句の果てには「ノーベル平和賞を受賞した」という理由でバラク・オバマ元大統領をボロクソに批判し、デマまで垂れ流して貶めようと必死なのです。
こうしたトランプの幼稚な人間性を良く理解しているからこそ、今年「ノーベル平和賞」を受賞したベネズエラの野党指導者マリア・コリナ・マチャド氏は、自身のSNSに「この受賞をトランプ大統領に捧げる」と投稿したのです。そして、トランプに電話して「あなたこそ本当に受賞に値します。私はあなたに敬意を表しつつ受賞します」などとオベンチャラまで言ったのです。
ま、マチャド氏に関しては、イスラエルによるガザでのジェノサイドを支持したなど問題点も多いですが、ここで触れるとテーマから脱線してしまうので、取りあえず「今や全世界がドナルド・トランプという小学生の顔色をうかがいながら生活している」という異常な状況のみ報告しつつ、話をクルリンパと「ウォーク・オブ・フェーム」に戻しましょう。
今回の歴代大統領の肖像画に添えられた説明板が「トランプのトランプによるトランプのための説明」であることが顕著なのが、200年近くも前の第7代大統領、アンドリュー・ジャクソンの説明板です。ここには「ジャクソン大統領はメディアから不当に扱われたが、後のリンカーン大統領やトランプ大統領ほどは不当ではなかった」…って、何ですか?これ。
ようするに、トランプは自分がメディアから不当に扱われてるってことが言いたいわけですが、そのために200年近くも前の大統領まで利用するとは、もはや厚顔無恥を超越しています。そして、そんな「俺様ナンバーワン」ですから、自分の説明板は自画自賛の嵐なのです。その上、トランプは第45代と第47代の大統領をつとめているので、肖像画も2枚だし説明板も2カ所に設置できるという特典付きなのです。
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今やドナルド・トランプの別宅と化したホワイトハウス
第45代の説明板には、政治経験も軍事経験もなしに大統領に選出された初めての優れた人物であり、16人の共和党対立候補と民主党候補のヒラリー・クリントンを破り、重要な激戦州をすべて覆して圧勝したと書かれています。「304対227」が圧勝かどうかは微妙なところですが、トランプならたとえ1ポイント差でも圧勝と書くだけのツラの皮を持っていると思います。
何しろトランプは、第45代の自分の業績として「減税」「規制緩和」「軍事拡張」「NAFTAの終結」「ISISの打倒」「COVID-19パンデミックの対応」などに留まらず「アブラハム合意からの離脱」や「イラン合意からの離脱」や「パリ協定からの離脱」まで鼻高々と挙げているのです。そして「世界史上最大の経済を成し遂げた」とまで書いているのです。もはや嘘とかデマとかのレベルを完全に超えています。
さらに第47代の現在の説明板には「2024年の大統領選で歴史的勝利を収め、312もの選挙人票を獲得し、132年ぶりに非連続任期をつとめることになった初の大統領である」と記されており、トランプが大統領に返り咲いたことによって「アメリカの黄金時代が始まった」とまで書かれているのです。
そして、就任からわずか8カ月の業績として「8つの外国紛争の終結」「インフレの抑制」「国境の安全確保」「数兆ドルの海外投資の誘致」「新たな関税による巨大な利益」「NATOからの貢献拡大」「新たなミサイル防衛プロジェクト」など、根拠不明な自画自賛は枚挙に暇がありません。
その上、ホワイトハウスのイーストウイング(東棟)に建設中のサッカーグランドよりも大きい巨大宴会場まで、自分の手柄として明記しているのです。ま、今回の「プレジデンシャル・ウォーク・オブ・フェーム」の説明板に限らず、今やホワイトハウスはドナルド・トランプの別宅のようなもので、その極めつけがオーバルオフィス(大統領執務室)なのです。
今年1月20日に就任したトランプは、わずか2カ月でオーバルオフィスの内装を自分の好みに模様替えしてしまったのです。まずは前任のバイデン大統領時代には6枚だった壁の肖像画を、一気に20枚に増やしたのです。そして、トランプが富と権力の象徴だと信じる金色のオブジェが、ところ狭しと飾られたのです。純金なのか金箔なのかは分かりませんが、金色の人物像や天使像があちこちに置かれ、サイドテーブルには金色の鷲(わし)のオブジェが飾られ、そこら中が金色のもので埋め尽くされたのです。ああ恥ずかしい…。
何よりも呆れたのは、テレビのリモコンまで金箔を貼った特別製のものと交換したと言うのです。成金趣味どころの話じゃありませんね。もはや「ザ・下品」としか言いようがありません。
さらには、これまで重要な発表や記者会見の場として使われて来た外部のローズガーデンも、トランプの趣味に変えられてしまいました。美しかった芝生は一部が剥がされて、海辺のリゾートホテルの中庭のようなパティオスタイルに改造されたのです。その上、トランプは、現在建設中の巨大宴会場の内装を、フランスのヴェルサイユ宮殿の「鏡の間」を模して装飾すると抜かしているのです。
元ホワイトハウス高官は「すべての大統領には執務室を自分好みに飾る権利があるが、トランプ大統領のスタイルはまるでどこかの国の王様のようだ」と指摘しました。その一方で、ホワイトハウスの敷地内はアメリカの歴史的空間でもあるため、本来は大幅な変更など許されません。しかし、すでに巨大宴会場に関して多くの批判が出ていますが、もちろん王様の耳には届いていないのです。何しろ「王様の耳はロバの耳」ですから。
※ ちなみに、英語で「オスのロバ」を意味する「jackass(ジャッカス)」はスラング(俗語)で「バカ」「マヌケ」という意味になります。
(『きっこのメルマガ』2025年12月24日号より一部抜粋・文中敬称略)
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