MAG2 NEWS MENU

「トランプさえ退場すれば世界が正常に戻る」は幻想。国際社会に混乱を招いた犯人は誰なのか?

かつてないほどに混乱し、分裂が深まる国際社会。その責をトランプ大統領一人に負わせる論調が大勢を占めていますが、果たしてそれは真実なのでしょうか。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の「無敵の交渉・コミュニケーション術」』では元国連紛争調停官の島田久仁彦さんが、世界を「漂流状態」へと導いた要因を分析。その上で、さらなる大混乱に日本がどう備えるべきかを考察しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/メルマガ原題:迷走する国際情勢 分裂の深まりと国際社会が抱く淡い期待

「すべてをトランプの所業」とする姑息。分裂深まる国際社会が抱く淡い期待

「トランプ大統領が政界から去れば、きっと国際情勢はまた“正常な状態”に戻るだろう」

いろいろな機会に耳にする希望的観測ですが、果たしてどうでしょうか?

「一方的に要求を突き付け、相手が抵抗したり、相手の対応が気に入らなければ関税措置に訴えて脅す」

「平和の使者を標榜していたかと思うと、突如、圧倒的な軍事力を盾に強引な行動に出る」

「トランプ大統領の対応は予測不可能で、中長期的なビジョンもなく、その場しのぎの対応になり、それが世界全体を混乱に陥れる」

いろいろなトランプ批判が挙げられていますが、ではトランプ政権が終わったら、国際情勢は正常運転に回帰するのでしょうか?そもそも何が“正常な状態”かが分からなくなっていますが、現在の混乱は本当にトランプ大統領のせいなのでしょうか?

答えから言うとNOでしょう。

混乱は2014年にロシアがクリミア併合を強行した際に、非難はしても、経済制裁とロシアのG8からの排除を除き、大した対応を取ることが出来なかったことから始まるのではないかと見ています。その時、トランプ氏はまだ大統領ではありませんでした。

またトランプ氏が大統領としての1期目を務めている際には、コロナウイルスのパンデミックが起き、世界経済と物流が実質的に止まりました。この際、あまり報じられなかったのですが、富める国々は自前でワクチンを開発し、自国民に接種を促しつつも(強制的に)、世界における数多くの途上国への分配を渋り、途上国側の不満が爆発し、少し古い表現になりますが、南北対立が顕在化しています。その分断は今もまだ世界に残留しています。

そしてロシアによるウクライナ侵攻という、ロシアが国際法を無視し、自国のロジックをベースに看過できない行動に出た際、アメリカの大統領はバイデン氏で、その際も2014年のクリミア併合時同様、欧米諸国は仲間たちを募り、対ロ経済制裁を課すものの、ロシアの蛮行に対する行動、言い換えるとウクライナにNATO軍を配置してロシアとの対峙というリスクを冒してでも、ロシアの蛮行を早期に止めるという選択はせず、結果、ズルズルと悲劇が繰り返され、その戦争は今でも大きな被害と破壊を生み出しています。

トランプ大統領が就任して、再度和平協議的なものが表舞台に出てきて、ニュースを賑やかにしたものの、これまでのところ、全くと言っていいほど成果を生み出してはいません。

トランプ政権で対ウクライナ問題を担当している知り合い曰く、「トランプ大統領が登場した時には、すでに状況および情勢は固定していた。アメリカ政府が貫く他国の戦争に巻き込まれるべきではないという基本姿勢と、ロシアとの直接的な軍事衝突は回避しなくてはならないというボトムラインから、できることは少ないのが事実。それにこれはアメリカの戦争ではなく、欧州の戦争であり、アメリカの軍隊を派遣してまでコミットする必然性が見つからない」という認識があるようです。

この記事の著者・島田久仁彦さんのメルマガ

初月無料で読む

イスラエルとハマスの殺戮合戦を最悪の状態に発展させたバイデン

さらに、これはトランプ・ファクターかもしれませんが、エネルギー部門への投資やレアアースの共同開発という非軍事的な要素を強調しつつ、ロシアの関心を惹こうとするものの、ロシアが食いついてこないことと、なかなか“次の”米ロ首脳会談が成立しないこと、そして、トランプ的、またはアメリカ的な視点といえばそれまでですが、「せっかく解決策を見出してやろうと尽力しているのに、ウクライナは言うことを聞かないし、その背後でギャーギャー言っている欧州も、何もしないくせに邪魔ばかりする」という認識が広がり、トランプ大統領と政権のウクライナ離れが加速していることも事実です。

ウクライナを本当に見捨てるのか?それともエネルギーやレアアースの権益と言う米国民受けしやすそうなネタをウクライナに認めさせることで“成果”と捉え、何らかの形で“停戦”に持ち込むべく、ロシアに働きかけを行うのか?そのタイムリミットは、トランプ政権の終わりまでというように、刻一刻と近づいています。

ではイスラエルとハマスの殺戮合戦はどうでしょうか?

これもまた、バイデン政権時に起きた事件ですが、バイデン大統領のネタニエフ嫌いと相まって、従来通りの親イスラエルなのか、それとも徹底的に法の支配に基づいてイスラエルとハマスを罰するような動きにでるのかを決めきれない間に、事態が最悪の状態に発展してしまいました。

イスラエル軍による“自衛権の行使”という名の苛烈な対ハマス報復攻撃は、今ではジェノサイドと非難されるほどの悲劇をガザ市民とガザ市に与えてしまいました。

そしてバイデン政権時の中途半端な対応により、イスラエル国内の政治事情も相まって、イスラエル軍の行動がエスカレーション傾向を極め、“ハマスの壊滅”という実現不可能なゴールを抱えてガザへの徹底攻撃を行った以外に、(それまで凍結してきた)ヨルダン川西岸でのユダヤ人入植地の拡大を強行し、それがまた当該地域における対パレスチナ人への暴力の拡大を生み出し、今ではパレスチナの存続そのものを脅かす事態になっています。

そしてイスラエル軍は「この際、自国の安全保障を脅かす勢力を駆逐すべき」と考えたのか、レバノンのヒズボラへの攻撃を行い、その“ついでに”レバノンへの攻撃、混乱極まるシリアへの攻撃とゴラン高原の占拠(イスラエルのゴラン高原法に基づく“自治”)に踏み切っています。

さらには宿敵イランへの革命防衛隊の幹部の暗殺を行い、イランとの緊張を深め、高めました。まさに縦横無尽の行動と言えますが、その際、特別な同盟国アメリカの政権はバイデン政権で、口先の非難はするものの、結局はイスラエルを止めるための措置は何ら取らず、より事態を悪化させ、アラブ諸国との溝も深めたのではないかと見ています。

そこにトランプ大統領が登場し、半ば強引に和平プロセスを主導して停戦を実現させるべく、動いていますが、イスラエルの攻撃を完全に止めて、ガザ地区の復興プロセスに着手したり、中東全域で高まる緊張を緩和するまでには至っていません。

その背景には、とことん悪化している情勢もありますが、火に油を注ぐかのように、アメリカ軍の爆撃機(B2)と地中貫通弾(バンカーバスター)を用いて、宿敵イランの核濃縮施設を爆撃するという行動は、中東地域を反米・反イスラエルでまとめることになってしまい、昨年10月10日のイスラエルとハマスの停戦合意後の様々なステップにおいても、中東アラブ諸国の全面的な協力を引き出せてはいません。

この記事の著者・島田久仁彦さんのメルマガ

初月無料で読む

ダボス会議で設立が合意された「平和評議会」をめぐる大きな懸念

イエメン情勢を巡るサウジアラビア王国とUAEの対峙という不確定要素がもたらす緊張と分裂を除けば、中東アラブ諸国はアメリカの対応に不満を抱き、かつイスラエルに対しては「これ以上の蛮行を行ない、かつアラブ諸国に直接的な被害をもたらすような事態があれば、イスラエルへの武力行使も辞さない」という態度で一致し、それがまた地域全体における恐ろしい緊張の高まりを生んでいます。

これは即時対応を取らなかったバイデン政権、ウクライナ問題に釘付けで初動が著しく遅れたか、実質的に皆無だった欧州各国、自国への飛び火を恐れたアラブ諸国などにも責めを負っていただかなくてはなりませんが、そこに激しく親イスラエルのトランプ政権が生まれ、“仲介”とは名ばかりのイスラエル寄りの姿勢は、ネタニエフ首相の行いを制御せずに野放しにしてしまう現状を生み出し、事態の収束を非常に難しくしています。

とはいえ、一応、停戦を成立させ、人質の解放と遺体の収容が完了して第1段階を終えるところまでこぎつけたことは高く評価されるべきだと考えますが、これからスタートする第2段階は、恐らく前に進めることは不可能ではないかと感じます。

その理由として挙げたいのが、ガザ地区の復興と地域の安定を担うはずの平和評議会(Board of Peace)の趣旨替えです。

当初はガザが対象地域でしたが、停戦合意の第2段階に進捗が見られないことと、今年に入ってアメリカがベネズエラへの奇襲攻撃を行ったり、グリーンランド問題をクローズアップしたりするようになって、この平和評議会がカバーする対象が一気に広がることになったことで、ガザ和平そのものへのフォーカスが一気に薄れるのではないかという恐れです。

一応、ダボス会議において設立が合意された際には同「評議会はパレスチナ自治区ガザ地区が機会、希望、そして活力に満ちた地域へ移行する局面において国際資源の動員と説明責任の確保を担い、非武装化、統治改革、大規模復興の次の重要段階の実施を導く枠組み」という説明がなされていますが、その議長を務めるトランプ大統領の権限が異常に強いことと(終身議長を務めることと、すべての決定に対しての拒否権を有することなど)、この設立メンバーに当事者たるイスラエルが含まれていることは大きな懸念を引き起こしています。

一応、“パレスチナ”も原加盟国に含まれていることから、ガザ問題を話し合うにはバランスが取れているという見方もできますが、対イスラエル戦争を行っているのは、“パレスチナ”ではなく、ハマスであることから、果たしてどこまで実効性ある決定と実施が確保できるかは疑問です。

そして、同評議会の設立に際し、トランプ大統領自身が「この枠組みをガザ和平以外の紛争の解決にも拡大する」と何度も言及していることが、多くの憶測を生んでいます。

またこの評議会の原加盟国のバランスも気になるところです。サウジアラビア王国やインドネシア、カタール、ヨルダン、トルコ、エジプト、UAE、アゼルバイジャン、モロッコ、パキスタン、パレスチナなどをはじめとするイスラム教国8カ国に加え、アルメニア、コソボ、アルゼンチンなど計25か国が参加していますが、ここにフランスや英国、ドイツなどのEU諸国は含まれず、ロシア、ウクライナ、中国、インドなども参加していません。

この記事の著者・島田久仁彦さんのメルマガ

初月無料で読む

「平和評議会」への参加を見送った中ロ印や欧州の思惑

そのような中、評議会が取り扱う案件がガザ以外に広がる場合、この平和評議会が関与する正当性について重大な懸念が生まれる可能性が出てきます。

ダボスでの設立会合の場でトランプ大統領は「この評議会は国際機関として、国連とも協力し…」と発言していますが、国連側はそれを歓迎しておらず、またロシアや中国、欧州各国そしてアジアの多くの国々が、この平和評議会が世界中の紛争の帰結についての議論および決定を行うことに拒絶反応を示していることは、重大な懸念事項だと考えます。

ロシアのプーチン大統領も中国の習近平国家主席も、そしてインドのモディ首相も招待は受けていますが、どの国が参加し、何を議論の対象とするのか、そしてマネージメントはどうなるのか、という点を吟味して、自国の利益に沿うか否かを見極めるつもりかと考えます。

現時点でいろいろと聞くところによると、今回参加を見送った中ロ印については、これはトランプ劇場であり、かつアメリカとの良好な関係に関心があるか、またはアメリカの“次のターゲット”にされないための保険という認識が広がっているようです。

また参加を同じく見送った欧州は(とはいえ欧州委員会がどうするかは未定ですが)「グリーンランド問題やウクライナの命運が、ここで話し合われること」には難色を示し(というより反対)、その正当性を疑問視しているという意見がたくさん入ってきました。

中には「ここで何か決めても、実質的にウクライナの今後にコミットできる国は、アメリカくらいしかいないし、恐らくその負担が一方的に欧州(と日本、カナダなど)に押し付けられることになる」と非難する欧州の声がありますが、正直なところ、この見解に対しては、ちょっと個人的には引っかかります。

もし自分たちが決定および議論に加わっていない内容を一方的に押し付けられるのが嫌ならば、いろいろと思惑・思うところはあるでしょうが、評議会に原メンバーとして加わり、議論に参加した上で、コミットできるかどうかを表明すべきかと私は考えますが、皆さんはどうでしょうか?

この点については、今週、東京でお目にかかった欧州各国政府の大使館の皆さん曰く、「欧州各国は、欧州委員会も含め、国連こそがこのような多国間主義に基づく協議の場であり、総会や安全保障理事会が議論の場であるべき。それを蔑ろにするような組織や取り組みは支持できない。評議会がガザ問題に特化した組織であれば、もちろん、そこに国連のコミットメントは必要だと考えるが、欧州は支持し、積極的に参加する。しかし、そうはなっていないと感じているから、今は様子を見るべきだと考えている」ということでした。

そして表立っては認めないのですが、欧州各国が抱く共通の懸念が「アメリカと世界の関心がウクライナから離れるのではないか。そうなれば欧州にとって直接的な安全保障上の脅威であるロシアのプレッシャーが増大することになる」というものと、「グリーンランド問題は基本的には欧米間の問題であるはずのものを、多国間の枠組みで議論させてしまうと、意図しない方向に流れていくのではないか」という内容です。

実際にウクライナ問題については、トランプ大統領とゼレンスキー大統領がダボスで会談していますので、アメリカの関心がなくなったということではないでしょうが、一つ明らかなのは、トランプ大統領は「ロシアとウクライナの停戦がなかなか進捗しないのは、ウクライナが自国の置かれている不利な状況を理解せず、あれこれアメリカに要求を突き付けるからであり、それはまた背後にいる欧州が口だけ出してゼレンスキー大統領を混乱させるからだ」という考えを強めているとされ、「もしそうなら、もうアメリカは手を退くので、自分で解決するとよい」というように、ウクライナと距離を取る姿勢を見せていることです。

この記事の著者・島田久仁彦さんのメルマガ

初月無料で読む

トランプの「アメリカの主軸を他に移そう」という本筋

表向きにはこれがストーリーの筋なのですが、実際には「ウクライナ問題に時間とエネルギーを割くよりは、もっと直接的な脅威となっている中国のプレゼンスの高まりに対応すべき」という意図が働き、ウクライナ問題ではロシアに大幅に譲歩し、終わらせる気がないなら戦争は続けさせ、後始末は欧州に押し付けて、アメリカの主軸を他に移そうというのが本筋かなと見ています。

その本筋とは、中国封じ込めのための【イラン、ベネズエラ、グリーンランド】です。

まず、イランについては、大使館占拠事件以降、アメリカ国内に渦巻くイランへの警戒心と、根強いイスラエル支援の立場があり、イスラエルをコマに使ってイランの現体制を弱体化させ、親米・親イスラエルの体制を構築することで、中東からアメリカを再度脱出させることを目論んでいるのではないかと見ています。

現体制が気にしているのはこの点で、実際にイラン国内で発生している反体制派デモの背後にアメリカのCIAとイスラエルのモサドの工作があるものと確信して、デモに対応しつつ、工作の証拠を掴もうと必死になっています。

何とか今、イランの現体制は持ちこたえていますが、そこに加担しているのが中国とロシアです。ハメネイ師が失脚せざるを得ない場合には、ロシアが身柄を保証することで話が通っているようですが、アメリカとイスラエルがそれを認めるかは今後の展開次第とのことです。

ただ、以前との大きな違いは、中国政府の仲介にとってイランとサウジアラビア王国をはじめとするアラブ諸国が和解しており(UAEとは別件でもめていますが)、イランへの攻撃を地域全体にとっての危機および地域全体に対しての挑戦と受け取る風潮があり、サウジアラビア王国もカタールも、ヨルダンも、アメリカがもしイランを攻撃するのであれば、基地の使用も領空の通過も認めない旨、明確にして、これ以上のエスカレーションに加担しないことを明言しています。

もちろん、その背後にはイスラエルの蛮行に対する抗議と、それを咎めないアメリカへの不満もありますが、トランプ政権としては、“イランを何とかしたい”という意図はあるものの、現時点でアラブを失うことは、イスラエルを危機に晒すことと、アメリカが展開する防衛網の破綻を意味することから、非常に慎重になっているものと考えます。

さらには、イランで高まる中国の影響力にも、アメリカは神経を尖らせています。すでに25年間にわたる経済面での戦略的パートナシップを締結しており、中国はイラン産原油を安価に手に入れることに成功しています。それは同時にホルムズ海峡のコントロールに影で中国が絡んでいることも想像できるため、地域におけるパワーバランスを崩される恐れがあります。

トランプ政権によるイランに対する圧力の増大は、軍事的にサポートするロシアと経済面で支えつつ、地政学上のcritical pointを押さえようとしている中国の思惑を阻止しようとする狙いがあるものと考えます。

この記事の著者・島田久仁彦さんのメルマガ

初月無料で読む

中国の「中南米と北極圏」への進出も徹底的に阻止

その中国の世界進出、特にアメリカが歴史的に(一方的にではありますが)裏庭と考えている中南米および北極圏における影響力の拡大に対し、徹底的に備え阻止するという基本姿勢が浮き彫りになってきています。

例えば1月3日の対ベネズエラ攻撃と大統領夫妻の拘束は、表向きは麻薬カルテルの撲滅が理由の一つに挙げられましたが、世界最大の埋蔵量を誇る原油資源の掌握とOPECプラスが握る原油価格に対するコントロール体制を崩壊させるという狙いも透けて見えました。

ただ、ここでもう一つ出てきているのが、総額1.3兆ドルとも言われる中国からベネズエラの油田および原油精製施設等への投資をアメリカが凍結し、中国の経済的な覇権を崩壊させようという狙いも見えてきます。

国際的な議論の場では、中国政府がアメリカ政府に対して、その権益に対しての補償を求める訴えを起こしていますが、トランプ政権側は聞く耳を持っていないとのことです。恐らく今年中に数度予定されている米中首脳会談時のホットイシューの一つになるものと思われます。

これに関連して、ベネズエラにエネルギーを依存してきたキューバも、アメリカが対キューバ原油の供給を停止させる動きを見せていることで、重大な危機に直面することになりそうですが、キューバにも肩入れしている中国は、ベネズエラ周辺に近づけないことと、ベネズエラからの原油をキューバに回してやることができないため、アメリカ政府の(特にルビオ国務長官の)キューバ潰しが加速しています(そしてトランプ政権はキューバを中ロから取り戻し、現政権を倒して、親米国に変えたいという企みもあるという説があります。そうなると反米ニカラグアも危ないのではないかと…)。

舞台をグリーンランドに移すと、ここでも米中対立のネタが見つかります。

トランプ大統領がグリーンランドに拘り続ける理由は、もちろん噂に違わず、レアアースの権益の獲得もあると思われますが、一番大きな理由はグリーンランドの物理的な位置が、アメリカおよび北米大陸、そして欧州にとって非常に戦略的な場所にあることではないかと考えます(実際に世界地図をご覧になれば分かりますが、グリーンランドは北米大陸の続きではないかと考えられるほどアメリカ大陸に近接しており、ヨーロッパに比べると近いことがお分かりになるかと思います。実際に地図学の分野では、グリーンランドはアメリカ大陸に含められています)。

その戦略的な重要性がさらに高まったのは、皮肉なことにトランプ大統領がまやかしだと非難する気候変動問題の影響だと思われますが、厚い氷がずっと張っていて艦船の航行には向かないとされた北極海の氷が溶けて、軍艦および商業船の新たな航路として用いられるようになってきました。

先日のコラムでもお話ししましたが、以前、デンマーク政府とスウェーデン政府、英国政府の共催で行われたWilton Parkの会合「気候変動と安全保障」では、北極海の氷が溶けることによる軍事的なプレゼンスへの大きな影響について議論され、その中で「北極海の制海権を握るものは、軍事的にも物流的にも世界を制することになる」という結論が導かれました。

また、現在、北極海の深海には各国の潜水艦が潜水していて、非常に近接した状態でパワーバランスを保っていると聞きました。

この記事の著者・島田久仁彦さんのメルマガ

初月無料で読む

絵空事ではないアメリカによる「グリーンランド奪取」

そして、そこに1点加えるとすれば、北極海の海底資源はこれまで開発が非常に困難とされてきたこともあり、ほぼ手つかずの状態が続いていたのですが、北極海の氷が溶解することで開発が可能になり、アークティック・カウンシルの加盟国が挙って海底資源の権益を握ろうと競争しています。

そこに北極海には面していないにもかかわらず、新北極海国として乗り込んできたのが中国です。

そしてグリーンランドはその北極海に存在する非常に大きな島で、北極海海底と同じく、非常に豊富なレアアースと地下資源が埋まっていると言われています。中国はそれを見越して北極海における権益を獲得すべく、近年、活動を活発化させているわけです(投資額が一気に上がっており、法的に認められているものの、実際にグリーンランドを自治領として生存させるベースになっているのが、中国からの投資だと言われています)。

よく動画のパロディーでトランプ大統領が「グリーンランドをロシアと中国に取られるようなことになれば、中ロがアメリカの隣国になる」と発言したことに対し、コメンテーターが「いや、すでにロシアと米国はベーリング海を挟んで隣国ですが…」と揶揄するものがありますが、太平洋側の隣接(アラスカあたり)だけでなく、もしグリーンランドがロシアの影響下に置かれるようなことになれば、アメリカ大陸の両岸からロシアの影響力が及ぶとも言えますし、仮に中国がグリーンランドを影響下に置くと、北米全体を防空レーダー網の範囲に収めることも物理的に可能となり、それはアメリカの国家安全保障上、由々しき問題と考えるのは、荒唐無稽なお話し・妄想ではないと言えます。

もちろん、購入するとか軍事的に手に入れるというのは、手段的にいかがなものかと考えますが、グリーンランドにご執心なのは全く“ただの気まぐれ”とも言えないのではないかと思います。

このような状況に陥ったのは、もちろん気候変動の仕業でもあるのですが、欧州各国が中ロに接近し、その間、グリーンランドを中心とした北極海岸の守りを怠ったことで、ロシアと中国の北極海におけるプレゼンスを高めることになったことも一因と考えられ、トランプ政権のアメリカは欧州の“同盟国”に対して、ちょっと荒い脅しを通じて、備えを固めるように最後通告を行ったのではないかと見ています。

ちょっとアメリカの意図を好意的に見過ぎだとの批判を受けそうですが、もしこれで欧州がグリーンランドをはじめ、北極海の守りを固めるような動きに出なかった場合には、アメリカによるグリーンランド“奪取”も絵空事ではないような気がします。

ベネズエラへの侵攻も、グリーンランドの領有への意欲を新たにしたのも、レアアースや原油へのアクセス、エネルギー・資源市場に対する影響力の確保と産油国・資源国の価格操作力を無効にするという戦略的な思考に基づくものではあると思いますが、常にその対岸には中国の影響力があり、その増大と拡大をマルチ・フロントで防ぎたいという一貫した意図が見えてきます。

今年、米中首脳会談が数回開催される見込みと言われていますが(初回が4月のトランプ大統領の訪中)、トランプ政権側は、中国を表立って刺激することは避けるそぶりを見せつつ、交渉(ディール・メイキング)において少しでも有利に立つために、世界における中国の影響力の拡大を阻むことで、プレッシャーをかけ続けているのだと考えています。

ロシアのプーチン大統領もこのゲームに参加しようと企み、また欧州のリーダーたちも機会をうかがっているようですが、米中のように現在の国際紛争や案件のいたるところで対峙し、パワーゲームを静かに、でも緊張を切らすことなく、戦い続けることはできていないようです。

この記事の著者・島田久仁彦さんのメルマガ

初月無料で読む

世界を襲う「混乱の大波」に備えておくべき日本政府

世界は確実に分裂・分断を深めています。

これまでは、それでも「欧米とその仲間たち」という軸と、「中ロを核とした国家資本主義および独裁体制の仲間たち」という軸が対峙し、そこに第3極としてのグローバルサウスが、実利主義に基づく緩やかな結びつきでシェアを拡げるという三つ巴の様相を呈していましたが、欧米の分裂が加速し、欧州の対米不信が表明され、欧州の中ロへの最接近が顕著になる中(今週のスターマー英首相の中国訪問、それに続くドイツ・メルツ首相の中国訪問、さらにメローニ首相の「そろそろロシアとの対話を再開すべき」という発言など)、“西側”ブロックの結束は乱れていますし、中ロ間もつかず離れずの関係が続いており、どこも安定的な関係を維持できていません。

また反イスラエルで一枚岩となりかけていたアラブ諸国とイラン、トルコのグループも、イエメンにおける対立に端を発したサウジアラビアによるUAE権益への空爆、UAEのイスラエルへの再接近、UAEの対イラン強硬姿勢の復活など、中東地域も荒れています。

それぞれに自国の生存を最優先しつつ、自国の影響力とプレゼンスの拡大を図っており、その結果、とても不安定で脆弱な環境が表出しているように感じています。

特に今年はアメリカでは11月3日に連邦議会中間選挙を控えていますし、イスラエルも総選挙が行われることになっています。また欧州も4月にスロベニアとハンガリーで議会選挙が行われ、5月にはアイスランド、9月にはスウェーデンと議会選挙、10月にはボスニアヘルツェゴビナ議会選挙、そして12月にはブルガリア大統領選挙が続きます。

さらには10月にはブラジルの大統領選挙が行われ(10月4日)、まさに世界は選挙イヤーとなり、それぞれがどうしても内向きの政策を取りがちになるのは仕方のないことなのですが、その間に国際情勢は荒れ、紛争は長期化し、悲劇が繰り返される恐れが高まります。

2027年になったら世界は安定するかと言えば、それも謎です。

「欧州がアメリカの庇護から独立し、独自の防衛を築く必要がある」と主張するフランスのマクロン大統領も2027年春には大統領選挙を控えていますし、その前に2026年中に下院が解散され、予算審議がストップするという事態が予想されているため、フランスも、口先では大見得を切っても、国際フロントでは何一つ貢献できないというジレンマに陥る可能性が高いと思われます。

フランスが機能不全に陥ったら、最大のパートナーと言われるドイツも“また”一国で欧州全体を支えないといけない状況に陥りますが、それが顕著になりつつも、支えてきたメルケル首相時代と違い、ドイツでも極右勢力が台頭し、国内の経済も好調とは言えないことから、欧州連合の機能不全、または瓦解の可能性も高まるのではないかと予想されます。

今、世界中で見受けられる混乱と不安定要因の拡大は、もちろんトランプ大統領の台頭と予測不能な言動と行いに帰するところはあるものの、彼の政権が終焉すれば元通りの“多国間協調主義”に基づく世界に戻るかと言えばそれは期待できず、ここ最近、深まる世界の分断と分裂の波はドミノのように止まることなく、世界秩序を大きく変えていくのだと予測します。

その混乱し、漂流する国際社会と国際情勢の中で、日本はどのような立ち位置を築き、役割を果たすのか?

日本でも選挙の争点にはなりませんが、早急に明確なビジョンを築き、来るべき混乱の大波に備えておくべきだと感じています。

以上、今週の国際情勢の裏側のコラムでした。

(メルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』2026年1月30日号より一部抜粋。全文をお読みになりたい方は初月無料のお試し購読をご登録下さい)

この記事の著者・島田久仁彦さんのメルマガ

初月無料で読む

image by: The White House - Home | Facebook

島田久仁彦(国際交渉人)この著者の記事一覧

世界各地の紛争地で調停官として数々の紛争を収め、いつしか「最後の調停官」と呼ばれるようになった島田久仁彦が、相手の心をつかみ、納得へと導く交渉・コミュニケーション術を伝授。今日からすぐに使える技の解説をはじめ、現在起こっている国際情勢・時事問題の”本当の話”(裏側)についても、ぎりぎりのところまで語ります。もちろん、読者の方々が抱くコミュニケーション上の悩みや問題などについてのご質問にもお答えします。

有料メルマガ好評配信中

    

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』 』

【著者】 島田久仁彦(国際交渉人) 【月額】 ¥880/月(税込) 初月無料! 【発行周期】 毎週 金曜日(年末年始を除く) 発行予定

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け