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世界は「脱米国」へと踏み出したのか?カナダとイギリス両首相の“訪中”が映し出す「米覇権時代の終焉」

トランプ大統領の「専横的」な言動に業を煮やしたかのように、相次いで中国を訪問し始めた欧州やカナダの首脳。この動きは、単なる経済重視の外交転換と見ていいのでしょうか。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』ではジャーナリストの富坂聰さんが、カナダのカーニー首相、イギリスのスターマー首相の訪中を軸に、トランプ政権下で進む国際社会の力学の変化を分析。その上で、「中国シフト」とも受け取れる動きの実像と、分断が深まる世界秩序の行方を考察しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:カナダのカーニーに続きイギリスのスターマー首相も訪中 世界は「中国シフト」に向かうのか

世界は「中国シフト」に向かうのか。国際社会に広がる「脱米」の潮流

「私自身の道徳観。私自身の心。私を止めることができるのはそれだけだ」

トランプ大統領が米紙『ニューヨーク・タイムズ』のインタビューに答えて放った言葉に世界が戦慄した。

どこまで本気で言っているのかわからないが、世界はもはや真意を見極める段階を過ぎ、対応を実行に移そうと動き始めた。

「私たちは別の道を歩み出した。地球規模の問題解決のため、共通の価値観と利害に基づき、課題に応じてさまざまな連合を組み替えることを追求している」

こう語ったのはカナダのマーク・カーニー首相である。カーニーは、「アメリカの覇権時代は終わった」と宣言。貪欲な超大国の露骨な力の行使に対抗することを他国に幅広く要請した。

いわゆる「ミドルパワー国の団結」の呼びかけだ。

これに続いたのがイギリスのキア・スターマー首相の訪中だ。中英両国は「長期にわたって安定した包括的・戦略的パートナーシップを発展させる」ことで合意した。

ワシントンの反発が予想される中での中英接近を、ドナルド・トランプ大統領は案の定、「非常に危険だ」とけん制した。

だがイギリスは訪中以前には懸案だったロンドンの巨大中国大使館建設問題でも中国にゴーサインを出している。大きな変化の兆しといえよう。

英『BBC』はスターマーが

英ビジネスリーダーら60人を前に、「この代表団は歴史を作っている。あなたたちは私たちがもたらそうとしている変化の一部だ」と述べた。

というエピソードを紹介している。

訪中の目的は経済で協力強化だ。

だが、会談ではアメリカをけん制するかのような発言も習近平国家主席の口から相次いだ。

例えば「このところ、一国主義、保護主義、強権政治が横行し、国際秩序は深刻な打撃を受けている。国際法は、各国がそれを遵守してこそ真に効力を持つものであり、大国は特に率先すべきだ。そうでなければ『ジャングルの世界』に戻ってしまう」という発言だ。

アメリカがベネズエラを攻撃し、グリーンランドにも武力を使う可能性を否定しないことを意識し、「中国は常に平和的発展の道を堅持し、これまで一度も自ら戦争を発動したことがなく、一度も他国の領土を侵略したことがない。中国がいかに発展し強大になっても、他国に対して脅威をもたらすことはない」とも発言している。

これに対しスターマーも、「現在の不安定で脆弱な国際情勢の下で、英国が相互尊重と相互信頼の精神に基づき、中国と長期にわたって安定した包括的・戦略的パートナーシップを構築することは極めて重要」と応じている。

もちろんイギリスは、対中外交でカギとなる台湾問題で、「英国の長期的政策は変わっておらず、今後も変わることはない」と触れることを忘れなかった。

会談の度に「国内の人権問題」や「力による現状変更への懸念」、「ロシア『支援』へのけん制」など、中国をいら立たせる発言を常に繰り返したかつての姿勢とは明らかに変わったことがうかがえるのだ。

これが、コロナ禍前の世界に戻る「修正」であることは先週の本メルマガで触れたとおりだ。

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明らかに「脱アメリカ」の一歩を踏み出した国際社会

昨年のアルバジーニ首相に続き、今年はカナダとイギリスの首相が相次いで中国を訪れた。これを「中国シフト」と呼ぶべきかと問われれば、必ずしもそうではないと思うが、脱米か否かと問われれば、世界は明らかにその一歩を踏み出したといわざるを得ない。

象徴的であったのはベルギーのバルト・デウェーフェル首相のダボス会議(世界経済フォーラム年次総会)での発言だ。

米誌『THE HILL』は、デウェーフェルの発言を記事の中で以下のように伝えている。

「これまで私たちはホワイトハウスの新大統領をなだめるよう努めてきた」とデウェーフェル氏は述べた。「私たちは関税についても非常に寛大で、ウクライナ戦争に対する彼の支持も得たいと願ってきた」。

「我々は当時、非常に悪い立場にあり、米国に依存していたため、寛大である道を選んだ。しかし多くのレッドラインを踏み越えられ、いま自尊心を守るかどうかの選択を迫られている」。「幸せな乗船者であることと、惨めな奴隷であることは違う。いま引き下がれば、尊厳を失うことになるだろう。そして、民主主義において、尊厳はおそらく最も貴重なものだ」。

なかなか思いつめた発言で、カナダのカーニーの呼びかけにも重なる内容だ。

一方の中国は、こうした国々の不満を糾合して反米勢力を結集しようとしているのか。答えは明らかに「ノー」だ。

中国の謝鋒駐米大使は「中国は中米関係を発展させようという誠意はあるが、原則も重んじる。主権の安全と発展の利益を守るという重要問題において、いささかも妥協の余地はない」と述べている。

関係よりも原則重視なのだ。

対米関係を重視していても、アメリカがベネズエラに対し軍事行動をとれば中国は非難するのである。

そんな中国はいま、紛争や対立を話し合いで解決できる国という実績づくりに躍起である。直近の典型的なケースとして対韓国外交での譲歩がある。

中国は李在明大統領との首脳会談の後、突如、「中国が無断で黄海に設置した構造物」と韓国が非難してきた「構造物」を移動して話題を呼んだ。

明らかに中国側の妥協であり、それを中国政府も認めている。

中国のこの動きは、たまたまトランプ政権が韓国に対し関税を上乗せしたタイミングとも重なったことで、「中国による韓国取り込み戦略」とも疑われだが、むしろ中国の狙いは世界だ。「話し合いのできる国とのイメージ」と世界にアピールすることに向けられている。

それにしても、こうしたチャンスをきっちりものにする李在明外交も、なかなか強かである。

(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2026年2月1日号より。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をご登録下さい)

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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【著者】 富坂聰 【月額】 ¥990/月(税込) 初月無料 【発行周期】 毎週 日曜日

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