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選ぶべきは自民か中道か?実は「同じこと」を主張しているにすぎない与野党を分ける“意外なキーワード”

日本では超短期決戦の衆院総選挙、アメリカでは秋に控える中間選挙に向け、各々で繰り広げられている「政治の劇場」。その舞台裏では何が共有され、そして何が見落とされているのでしょうか。今回のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』では作家で米国在住の冷泉彰彦さんが、日本の減税論争に潜む腹芸と、アメリカ政治における分断劇の構造を分析。その上で、日米両国に共通する「実現可能な政策の限界」について考察しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/メルマガ原題:政治の劇場、日米に横たわる大きな違い

日本と米国では大違い。「政治の劇場」の舞台裏

日本でもアメリカでも、政治の劇場が続いています。劇というのは、要するにホンモノではないということです。フィクションめいた誇張や、単純化を施したうえで、世論の関心を引き付けておくということで、それ以上でも以下でもありません。

まず日本の場合は総選挙が進行しているわけですが、非常に興味深いドラマが展開されています。与野党に対立があり、野党の中でも立場は様々です。ですが、ドラマのストーリーや背後の価値観というのは奇妙なほどに一致しています。陳腐な比喩になりますが、与野党ともに忠臣蔵の芝居をやっているという感じです。

その共通するストーリーは非常に単純なものです。

「(1)円高が物価高を招き、国民の生活水準を下げているので減税で救済する」

というのが表面にあり、薄いベールのような幕を剥いだその後ろには、

「(2)減税の財源を別の増税で賄うことで国民から憎悪された岸田文雄の轍は踏まない。そうでなければ選挙に負ける。従って財源は示さない」

という演出上の要点が埋め込まれています。ここまで、見事なまでに与野党は共通しています。

その裏にはもう少し厚い幕が張ってあり、それを剥がすと段々に与野党の違いが出てきます。その際の公式は次のようなものです。

「(3)連立や政権交代などで政権を担う可能性がある党は、何らかの言い方で財政規律に言及する」

「(4)一方で、政権参画を考えず野党ビジネスを志向している党は、一切財源を示さずファンタジーを展開することで集票しようとしている」

ということで、政治・経済のリテラシーのある人は大手の政党に、ない人は左右にシフトした政党の「イデオロギーの強い酒」+「無責任なバラマキ論」という「せんべろセット」で酔っ払ってくれという構図になっています。

では、自民と中道の対立軸はどうかというと、ここが興味深いのですが、

「(5)自民党は26年中の食料品の消費税ゼロ化を希望し、検討を加速」

「(6)中道は、食料品の消費税ゼロ化を恒久減税として、財源は政府ファンドや基金の余剰資金」

という言い方となっています。この(5)と(6)はさすがに政治・経済のリテラシーのある人を対象としているだけあって、少し暗号解読の知識のある人に向けてメッセージを出すようになっています。

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「是非の先送り」を意味する「検討を加速」という表現

まず、(5)の自民党ですが、こちらの解読はそんなに難しくありません。「検討」するのが目的ですので、それは「やらない」ということです。更に「検討を加速」というのは、是非をハッキリするのを先送りするという意味です。また、「希望」というのは、可能ならやりたいができないという意味です。

つまり二重否定というより三重否定になっていると考えられます。ですので、正確に暗号解読すると、「(消費減税は)できないことをハッキリさせるのを遅らせるのは無理」という意味です。どういうことかというと、選挙後には予算審議があるので、そこでは減税したら財源が必要という話も全部しなくてはなりません。

ですから、そのタイミングでは現在の日本の財政の状況からは、財源のない減税をやったら破滅するということは明らかになります。従って、予算審議、つまり選挙後にも責任政党であるならば、自民党としては消費減税は無理ですよということを言っているわけです。

更に手が込んでいるのが市場とのコミュニケーションです。現在の自民党政権は、ドル円のレートの下限を「160円」に置いているようです。これと相互に連動する格好で長期金利も上昇して危険水域に入りつつありますが、何と言っても物価に連動するのは円安なので、とにかく「160は死守」という感じです。

一方で長期金利が4%台に乗せているというのも非常に厳しい状況ですが、こちらは3月決算のタイミングまでに改善すれば、生保などでの減損処理は回避できるので、切迫感は表面化していません。何よりも金融リテラシーがないと、起きていることの評価はできない問題でもあります。ですから、高市政権としてはドル円レートにターゲットを絞っていると考えられます。とにかく選挙期間中には「絶対に160円ラインには乗せない」という決意がありそうです。

そこは政権与党で、しかも金融大臣に実務家を充てていることもあり、日銀との連動も含めて水面下での動きができているようです。現時点では一転して円高に振ることができており、153円台まで戻しています。もしかしたら、このまま150円台前半で投票日、そして選挙に勝って予算審議、というところまで引っ張るかもしれません。その結果、円高になり物価が一服したのであれば、減税は「なかったこと」とできればという計算もあるはずです。

例えばですが、首都圏の電気代を下げるには柏崎刈羽の再稼働が必須ですが、これを実現しようとする自民党と、阻止しようという勢力の間で、何らかの暗闘が起きているのかもしれません。それはともかく、仮に再稼働できれば一気に電力料金の引き下げが可能で、益々減税は回避できることになります。

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ストーリー的にはほぼ重なる自民と中道の主張

ここまでの説明は高市政権側のストーリーですが、中道の野田路線も実は「原発は認める」とか「円高に振る」という話は入っており、ストーリー的にはほぼ重なってきます。ということは、実は通貨や金融政策に関しては、自民党も中道連合もほぼ変わらないということが言えると思います。

ストーリーをもう一度整理すると、

「(ア)まずは米国当局(具体的にはベッセント財務長官の腹芸)との協調で円高シフト」

「(イ)円高で物価に一服感が出て選挙に勝ったら予算審議で正直に減税は撤回」

「(ウ)減税撤回を好感して市場で長期国債の暴落ストップ」

ということです。そして、実は対外的には高市政権でも野田政権でも同じような推移になることが考えられます。減税はしない、物価対策は原発再稼働と円高、の2点については結局は同じだからです。またこの2点について国が存続するゾーン内では、これ以外の解はなさそうです。では、選挙でどちらを選んだらいいのかというと、改革がキーになると思います。

「守旧派を味方にしているので、ステルス的に改革はできる。維新と連携しているので官公労、地方のバラマキ渇望のどちらも突き放せる。この2点を評価するなら自民」

「高市では対中経済の先行きが不安。また守旧派が切れない高市は安倍同様に改革は無理。従って国の生存可能なゾーン内から相対的に見て外さないのは野田」

というあたりを有権者は考えて、更には具体的に選挙区やブロックに出てくる「タマ」で判断することになるのではと思います。つまり政治の劇場の舞台の上で演じられている「芝居」はあるものの、その舞台裏にあるものは、実現可能なゾーンは極めて狭いし、短期的にはその「生存可能ゾーン」の内側で、自民も中道も考えているのだと思われます。

勿論、それだけではダメであり、21世紀の社会に整合するように、雇用体系を変え、教育を変えて生産性を上げていかなくてはなりません。ですが、そのような痛みを伴う改革を主導するような才能は政財界には見られない中では、今回のような劇を繰り返して生き延びるしかないのかもしれません。

今は、危機的な債券安を生き延び、危険な円安を回避し、その一方で世論に何とか苦しい台所事情を理解してもらうということで、不思議な腹芸選挙をやるしかないのかもしれません。腹芸というのは、全員が減税を主張しつつ、全員が財源を示さないことによって、間接的に「分かる人には分かる」かたちで減税要求をウヤムヤにするということです。

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社会の変化に政治が追いついていないアメリカ

一方でアメリカの劇場というのは、日本とは全く異なります。

まず政権の側は、年明け以降だけでもベネズエラの一幕、グリーンランドの一幕、そして現在はミネソタにおける陰惨な一幕と、どれも短くそして未解決のドラマを演じています。

これに対して野党民主党は、それぞれに国際法違反だとか、官吏による市民の処刑だという主張で喧嘩を買うという行動をしています。一理も二理もありますが、同時にそれ以上の対応でもありません。

いずれにしても、政治の舞台の上では陰惨かつ未解決の寸劇が延々と繰り広げられています。その裏の薄い幕を剥がすと、そこにはインフレの問題がありますが、更にその裏にはAIと雇用、グローバリズムと雇用という未解決の問題が広がっています。

非常に大きく俯瞰的に見るのであれば、AI+グローバリズムと雇用の問題については、与野党ともに直視していないのは明らかです。そんな中でどちらかと言えば、トランプ政権のほうがこの問題には意識的です。

「関税政策でグローバリズムを抑制して製造業回帰を狙う」

「戻ってきた製造業はロボット化されるが、新たなブルーカラー雇用は生み出す」

「AIの開発は民間に任せるが、国際競争力は維持させる」

「AIがホワイトカラーの職を奪うのは必然、だからこそのブルーカラー重視」

というのはトランプ政権の立場です。正確に言えば、4番目の部分については、大統領自身の世代的な限界とも思われますが、明確に自覚はしていないと思われます。

問題は民主党の方で、

「主流派は、グローバリズムを否定できないし、しない。AI開発も否定しないが、プライバシー問題や自殺幇助などへの規制は少しやる。AIによる失業についてはダンマリ」

「左派は、グローバリズム否定でトランプ主義に接近。AIの進歩による労働の劣化には強く反対。シリコンバレーにも規制を主張。強めの課税で再分配」

という立場に分裂しています。何度も申し上げますが、特にAI失業に関する穏健派の沈黙は政治的自殺としか言えません。一方で左派の主張はもっともらしく聞こえますが、では全体の成長を否定するのかと問うと、まともな答えは持っていないのです。

冷静に考えると、保守陣営は「表面的な劇場政治においては破壊的で陰惨」であるにもかかわらず、奥にある幕の裏では、ポスト・グローバリズム、ポストDXの時代へのZ世代の不安や不信には一定程度シンクロしています。

民主党の側は、そもそもこの全体構図をあまり理解していないように見えます。そして保守の側も特に4番目の「AI失業への対策としての新ブルーカラー雇用の創出」という政策については、自分たちのほうが現実に近いのに、その自覚が足りません。

ということで、「分断と対立の劇」という双方が共犯の劇場型政治の奥には、かなりの無理解と無責任があるのを感じます。21世紀の社会がどんどん変化してゆくのに対して、政治が追いついていないのです。

そう考えると現在のアメリカの抱える問題というのは、文明的な転換点において、Z世代が抱える不安と不信の核心について、上の世代が理解していない問題だということができます。では、これを理解する勢力もしくは個人が登場するのかどうか、中間選挙においてはこれは大きなテーマになってくると考えています。

※本記事は有料メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』2026年1月27日号の抜粋です。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。今週の論点「山手線運休とソニーのTV事業撤退の背景」「無理ゲー、郵送在外投票が破綻する選挙日程」「プルデンシャル保険の問題は、本社の監査不足なのか?」「(エンタメ評)『スキャンダル・イブ』」、人気連載「フラッシュバック81」、読者Q&Aコーナーもすぐに読めます。

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東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは第1~第4火曜日配信。

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