アメリカの覇権が大きく揺らぎ、戦後秩序の綻びが露わになりつつある国際社会。そんな中にあって、ダボス会議でカナダ首相が行った基調講演が注目を集めています。今回のメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』ではジャーナリストの高野孟さんが、「カーニー発言」を取り上げつつ、米国覇権崩壊後の世界で中堅国家が果たしうる役割について考察。その上で、中堅国家の一角を占める日本が現在どのような状況にあるのか、そしてどのような選択をすべきなのかについて論じています。
※本記事のタイトルはMAG2NEWS編集部によるものです/メルマガ原題:カナダのカーニー首相が示した米国覇権崩壊後の「ミドルパワー連合」による秩序づくり/トランプと心中するのか高市首相
プロフィール:高野孟(たかの・はじめ)
1944年東京生まれ。1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。同時に内外政経ニュースレター『インサイダー』の創刊に参加。80年に(株)インサイダーを設立し、代表取締役兼編集長に就任。2002年に早稲田大学客員教授に就任。08年に《THE JOURNAL》に改名し、論説主幹に就任。現在は千葉県鴨川市に在住しながら、半農半ジャーナリストとしてとして活動中。
カナダのカーニー首相が示した米国覇権崩壊後の「ミドルパワー連合」による秩序づくり/トランプと心中するのか高市首相
カナダのマーク・カーニー首相はダボス会議で20日、「大国がルールや価値観の体裁すら捨てて、権力と利益の追求に走る」ような「世界秩序の断絶」に直面する中、「カナダのようなミドルパワー(中堅国家)をはじめとする他の国々は、人権尊重、持続可能な開発、連帯、主権、領土の一体性といった、私たちの価値観を体現する新たな秩序を構築する能力」を示さなければならない――と演説して大いに注目された。
「中堅国家連合」が次の世界秩序を作る
トランプ米大統領から無理難題を吹っかけられ「米国の51番目の州になれ」とまで侮辱されたカナダのマーク・カーニー首相が、ムキになって感情的に反論するのでなく、トランプのトの字も口にせずに、静かな口調で米国の覇権の終わりを改めて宣告し、それにとって代わって世界のミドルパワーが決起して新しい価値観と新しい秩序を作っていこうと呼びかけた。
ミドルパワーとはどこの国のことかと言えば、例えばゴールドマン・サックスの世界GDP予測の2050年と2075年を見れば分かりやすいが(図1)、「大国」はすでに中国、インド、米国の3国の指定席で、それ以下がミドル。
インドネシア、パキスタン、エジプト、ブラジル、ドイツ、英国、メキシコ、日本、ロシア、フィリピン、フランス(以上は75年の3位~15位。日本は12位でメキシコより下ですよ!)、サウジアラビア、カナダ、ナイジェリア(以上は50年の15位以内)など。
さらに別の予測(権威ある医学雑誌The Lancet)で50年に25位以内に入っているそれ以外の国を追加すれば、トルコ、オーストラリア、韓国、イタリア、スペイン、オランダ、スウェーデン、スイス、マレーシア、ポーランドといったところだろう。
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ますます酷くなるトランプの「裸の王様」化
カーニーに具体的な構想がある訳ではないだろうが、上記の国名に下線を付したのは、BRICSの加盟国もしくはパートナー国の8カ国。また太字にしたのは、G20のG7以外の10カ国で、すでにミドルパワーが共同して米国の狂乱粗暴行為による被害を防ぎ、米国抜きでも国際社会の運営を協議する場はあちこちに生まれている。
他方トランプは「裸の王様」ぶりをますます亢進させ、ガザの完全停戦と戦後復興を取り仕切る「平和協議会」を作り自ら「拒否権を持つ永世議長」に収まって、加盟希望国は10億ドルの拠出金を持って来るよう要求した。
この趣旨のよく分からない団体に馳せ参じる国は少なく、今のところイスラエルと中東及び周辺のイスラム国8カ国のほかハンガリー、ベラルーシ、インドネシアなどに留まり、欧州諸国は様子見をしている。
カナダのシャンパーニュ財務相は「万が一、カナダが参加するとしても、1つだけ確かなのは、カナダは10億ドルを支払わないということだ」」と述べた。
結局これは、米国の覇権が崩壊した後、国連はじめどこの国際機関でも米国の思うがままに振る舞える場がなくなったため、自分で勝手に自由になる団体をデッチ上げてお山の大将になり、そこだけはまだ米国の「ミニ覇権」が通用する遊び場にしようということなのだろう。
こうして世界は、崩れゆく米国覇権の残骸が飛び散って来るのを避けながら、カーニーの言うような米国抜きのミドルパワーのフラットな連合による問題解決の仕組みを作り上げていくのだろう。そのようにして、戦後80年の世界を貫いてきた「覇権主義」と「多国間主義」との原理的な抗争は後者の勝利となる最終局面へと向かっていくのである。
トランプの横でピョンピョンの日本の首相
世界の潮流はそういうことになっていて、日本もこれまでの惰性のままに壊れゆく米国覇権を永遠のものであるかに幻覚しながらそれにしがみついておめおめと生きていくのか、それとも毅然として対米自主を実行して真の独立国家としてアジアと世界の信用を回復し、いずれGDPで世界6位から12位程度に落ちていくまさに中堅国家として独自の生き方を見せていくのか、その大きな選択が問われている。
しかしその時に高市早苗首相は、10月のトランプ来日の際にトランプと共に横須賀基地の米空母を訪れ、トランプの横でピョンピョン飛び上がりながら満面の笑顔で手を振って兵士たちの拍手を浴びた。
属国の支配人代理といった卑しさ丸出しのそんな姿を晒しておいて、今度はいきなり解散で、「私が総理でいいのか皆様に決めていただく」と言うのだから、彼女にとっての選択は米国の覇権主義と共に心中していく道しかないと決めているのだろう。
そうかと言って「中道改革連合」も対米従属では同じで、15年安保法制は違憲でない、辺野古基地建設も推進、という具合に右へ右へと流れていくから、結局、日本には自立した中堅国家としての生き方の選択肢を示し、カーニーの呼びかけに応えて新しい世界秩序づくりに参画していこうとする政治勢力は存在しないということになるだろう。
現今の最も大事な戦略的選択問題が話題にもならず、消費税の下げ方・なくし方を各党が競っているような選挙では、この国は衰えるばかりである。
そうならない手立てはないのか。それを考える素材としてカーニー演説全文を以下に掲げる――(メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2026年1月26日号より一部抜粋・文中敬称略。「カーニー演説全文」を含む続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)
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