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中国のAIブームは成長どころか失業を生む事態に。米国と真逆の「逆噴射」に追い込まれた習近平の大誤算

中国はEVの次の成長産業として人型ロボットに巨額を投じ、AI覇権の確立を狙っています。ところがIMFやOECDは、AIの経済成長への寄与について、米国が大きく押し上げられる一方、中国はごくわずかにとどまると厳しく見ています。同じAIブームでありながら、なぜ米中で正反対の結果になるのでしょうか。メルマガ『勝又壽良の経済時評』では、著者で元『東洋経済』編集長・ジャーナリストの勝又壽良さんが、「AI版一帯一路」の失速、人口急減、そして過剰な補助金という構造的欠陥から、中国経済がなぜAIでも衰退を止められないのかを読み解きます。

中国経済「逆噴射」、AIブーム成長に寄与せず「米国と真逆」

中国は成長産業として、EV(電気自動車)の次に人型ロボットを育成する計画である。15次五カ年計画(2026~30年)の「目玉産業」に据えている。当局は24年以降、既にヒューマノイド(人型ロボット)開発支援に少なくとも200億ドルを拠出している。政府の意気込みのほどが分かるのだ。公式推計によると、知能ロボティクス分野の登録企業は、24年末時点で45万社を超える。4年前の3倍以上に膨らんでいる。

これだけ人型ロボットに力を入れているが、IMF(国際通貨基金)やOECD(経済協力開発機構)は、経済成長への寄与度について、「2030年までに年率0.2~0.4%ポイント」と厳しい見方だ。一方、米国は同期間について年率1.0~1.5%ポイントと、高い成長寄与を見込んでいる。この差は何か。中国は、人型ロボットが失業者を増やすことだ。一方、米国は労働力不足をカバーするという、全く相反する結論である。この違いは、どこから生じるのか。今日のテーマは、ここへ焦点を絞りたい。

中国のAI戦略の基本は、国内の人型ロボット普及と海外での「AI覇権」確立の2本建てである。米国主導の西側諸国へ対抗して、グローバルサウスのAI戦略を束ねる狙いだ。既述の通り、米国は中国の4~5倍ものAI効果が期待できる。これでは、中国が出だしから「劣勢」を強いられるのだ。この状況で、グローバルサウスが中国式AI戦略に乗ると、「泥船」になりかねないリスクを与えるだろう。

中国は7月16日、人工知能(AI)を巡る協力枠組み「世界人工知能協力機構(WAICO)」設立協定の署名式を行った。国際標準規格づくりやAIインフラ整備、デジタル格差解消などで連携する。29カ国が署名した。これは、「AI版一帯一路」ともいえる枠組みだ。注意すべきは、一帯一路に約150ヶ国が参加しているのに対して、AI版一帯一路は29ヶ国に止まっている。ざっと、5分の1の参加国数である。主だった参加国は、中国の発表によればロシア・インドネシア・パキスタンなどである。

参加国数の少ないことから分かるのは、グローバルサウスの大半が「半信半疑」でいることを浮き彫りにしている。AIの国際標準規格づくりやAIインフラ整備という「事業内容」からみて、AI版一帯一路が物やサービスの取引次元と異なり、中国政治圏に密接に繋がるという意味で「重大な選択」になる。だから、29ヶ国の参加に止まっているのであろう。このままだと、米国への対抗にほど遠い「線香花火」に終わりかねない。

この背景には、8月から稼働する西側諸国による「重要鉱物特恵市場」の存在が壁になっている。グローバルサウスの多くの国は、精錬設備のないことで中国が「買鉱」対象にしている。だが、日本の化学的精錬法を採用すれば、小規模鉱山でも精錬が可能となり、付加価値が一挙に高まるというメリットが約束されている。そうなると、極めて政治色の強いAI版一帯一路に参加するデメリットが明らかになる。多くのグローバルサウスが、二の足を踏むのは当然であろう。

ここで、中国のAI版一帯一路の中味をみておきたい。中国が、目指すAIの具体的領域は、4つに分けられる。

1)ソフトウェアAI(生成AI・クラウドAI) 2)ロボティクスAI(人型ロボット・産業ロボット) 3)監視AI(顔認証・社会信用スコア) 4)組込みAI(自動運転・工場制御)

これら4つの領域において、中国自身が今後とも米国へ対抗して世界の先端技術を維持できるか、疑問符がついている。それは、先端半導体を入手できないことだ。この状況で、AI版一帯一路が発足しても、技術更新できない「時代物」を抱えさせる結果となろう。唯一、中国が必死になるのは監視AIだ。権威主義社会で国民を監視する必要上、ここだけは技術更新するであろう。だが、グローバルサウスにおいて、監視AI目的でAI版一帯一路へ参加するというのは、国民の怒りを買う危険性が大きい。

こういう点まで分析すると、AI版一帯一路へ参加する国は、資源のない「極貧国」で権威主義政治を行っている「リトル・チャイナ」に限られ、国民監視目的で中国からの融資で導入するということになろう。参加国が限定されるのは当然だ。

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虚しい過度の政治期待

冒頭に挙げた米国と中国における、AI化がもたらすGDP成長率への寄与について議論を進めたい。

AIが、市場経済による発展過程を経てきた産業構造の国では、明らかに労働力不足を補うであろう。一方、計画経済による不完全就業者の多い国では、AI化が失業を増やす可能性を持っている。中国のように不完全就業者の多い国では、AI化がむしろ逆効果になって人々から雇用を奪うはずだ。AIは本来、「労働の代替」である。余剰労働力の多い国が、雇用を奪うのは当然である。労働力不足の国では、生産性を補う役割を果たす。このように、AIは就業状態によって全く異なる現象をもたらす。

中国は現在、AIによって衰退する経済を立て直そうと必死である。中央政府と上海政府は7月18日、合同でヒューマノイドロボット・イノベーションセンターの試作・試験用公共サービスプラットフォームを設立した。鳴り物入りの宣伝である。

一方では7月初め、杭州に国内初の「ロボットのための学校」を開校した。ここでは、各種ロボットが専門的な訓練を受ける。それぞれの専門コースで、産業用途、医療、芸術、スポーツなどに適応した「ロボット教育」が行われる。中国は、国を挙げて「人型ロボットの開発と訓練」を始めた。国民啓蒙活動だが、多分に国内経済不振をカムフラージュする目的も含まれている。

問題は、AIが国家の衰退を止められるか、である。現実論を言えば、AI活用だけで止められるものではない。ただし、条件が揃えば「経済減速を和らげる」ことは可能である。AIが、根本的に経済衰退を止められない理由は、次の点にある。

AIは本来、「生産性向上の技術」であって、「人口」「債務」「制度」という問題解決は不可能である。中国は、敢えてこの不可能なことをAIによって解決させようとしている。言葉は悪いが、「最後のあがき」に映る。AI導入には、高度な人材・豊富な資本・自由な競争が必要である。中国は、これら諸条件を欠いているのだ。

経済の基礎体力が弱い国では、AIはむしろ雇用を破壊する。中国の場合、労働力過剰(不完全就業)、規制強化で民間活力が低下している。外資・人材が流出するという構造的問題を抱える。こういう悪条件が重なっている中で、AIは「痛み止め」になるが、根本的な「治療薬」にならないのだ。この限界を全く認識していない点に、中国の混乱ぶりが窺える。AI版一帯一路は、参加国の経済をかえって疲弊へ導くであろう。物事には、全て順序だった発展が必要である。中国とグローバルサウスは、これら条件を欠いている。

大きい内需減退補えず

中国が、抱える問題点の一つは人口急減である。中国は、技術革新によって人口減少に伴う労働力不足を補えるのか。部分的には補えるが、人口減少の規模が大きすぎて役立たないのだ。歴史的にみて、技術で人口減少を補えた国はほぼ存在しない。例えば、日本の技術力は高いものの成長率が低迷している。韓国は、合計特殊出生率の急低下で長期的に成長率が鈍化している。ドイツは、移民で補っているものの技術だけでは不十分である。これらは全て、人口減少に対して100%技術進歩で補えないことを示している。

要するに、労働力減少によって消費減少や投資減少を同時に引き起こすため、技術だけでは埋められないのだ。中国の場合、10年で7500万人の労働力が消える一方、移民流入がほぼゼロである。こうした需要不足の結果、すでに中国は若年層の高い失業率を招いている。AI創出による付加価値増加程度では、とても需要不足に追いつけない厳しい状況を生んでいる。米国の場合は別格である。移民希望者が、世界中から殺到している。AIの進歩と合わせてみれば、中国がまともに対抗できる「相手」でないのだ。

中国は、既に「国家主導モデルの限界点」に達している。国家主導モデルは、初期のインフラ整備や製造業の拡大によって、低賃金労働力動員には適したシステムである。だが、賃金が一定の限界を超えて上昇すると、強い「リアクション」が起る。イノベーションが低下するので、民間活力(消費・投資)が落込むので市場の魅力が低下する。この結果、外資が撤退を始めて技術導入が停滞し、高付加価値産業までが弱体化する。現在、既にこの状況が進んでいる。日本企業にとって中国は、魅力度5位へ低下している。

中国は今、国家主導モデルの転換点に来ている。経済発展を阻む桎梏と化しているのだ。国家主導による規制強化は、民間活力を削ぐ。具体的には、テック企業への締め付けと同時に外資撤退が加速するので、対内直接投資がマイナスへ転落する。これに伴い、研究などの人材流出が始まる。こうして、「国家主導モデルの副作用」が顕著になっている。中国AIは、監視AIを強化することによって国内をさらに引締めようとするであろう。これが、ますます中国経済を「窒息」状況へ追い込む。AIの悪用である。

中国は、国内経済の悪化をAIによって食止めることは不可能である。となると、ロボティクスは輸出へ向けられる。だが、中国製人型ロボットを購入する西側諸国があるだろうか。人型ロボットは、製造国の信頼性が最も大きな要素になる。「バックドア」が仕掛けられていないか。暴走することはないかなど、品質=信頼性が重視される。価格が、競争力のポイントにならず「製造国」の質が重視される。そういう意味で、権威主義国家の中国が製造する人型ロボット需要は、かなり制約されるであろう。つまり、売れないのだ。

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補助金が国運衰退の原因

中国が、国家としての信頼性を喪失している背景には、過剰な補助金政策がある。補助金は温床である。芽を出すまで温床は必要であるが、成木に達しても政府によって保護し続けることで、企業の自律性を奪っている。これが、偽らざる中国産業の実態である。企業の成長が、地に足が着いていないのだ。具体的には、基礎研究力不足によって「金太郎飴」のような同一種類の製品を大量生産している。

諸悪の根源は、過度の補助金による政府への「甘え」にある。それが、企業の自律性を奪い、過剰生産という矛盾を生んでいる。これは、EV・半導体・AI・機械産業すべてに共通する「構造的欠陥」を浮き彫りにしている。

IMFは、中国の補助金が対GDP比4%と高いので2%へ引き下げるように提言している。一般的に補助金の対GDP比は、多くの国が0.5~2%程度である。その内訳は次の通りだ。

先進国は、0.3~1.0% 新興国は、1~2% 産油国は、2~3%(燃料補助金が大きい)

中国の4%は、通常の2~4倍の規模であり、IMFが強く問題視する理由である。

IMFは、補助金を「市場歪曲の源泉」として扱い、特に以下を問題視している。国有企業への過剰支援。過剰生産能力(鉄鋼・EV・太陽光パネルなど)を世界市場に輸出して、国際価格を押し下げ、他国産業を圧迫している。これが、中国の財政負担を大きくする。つまり、中国の補助金は「国内産業保護」ではなく、「世界市場の構造を変える規模」というのがIMFの評価である。

OECDも、中国企業が受け取る補助金の規模が、OECD加盟国企業の3~8倍に達すると報告している。これは、国有企業(SOE)や特定産業への集中支援が背景にある。OECDは「市場の歪み」を強く問題視している。補助金の透明性が低いこと。WTO(世界貿易機関)ルールでは補助金の詳細開示義務が弱いこと、国際競争条件が不公平になることを指摘している。WTOは、中国加盟(2001年)以前に設立されており、中国のような「異質国」の加盟を想定していなかった盲点を突かれた形だ。

補助金は、最終的に企業の自律性を蝕むという極めて厄介な存在である。補助金は、短期的には産業を急成長させる。生産量は増える、価格が下がる、市場も拡大するなどの効果がある。だが同時に、「自律性の喪失」を生む。企業が研究開発を怠る、価格競争に走る、補助金がないと生きられない体質になるのだ。一方、補助金の対象にならない外資は、不平等な競争条件に耐えられず撤退する。これによって、海外からの技術更新が止まる。つまり、補助金は「成功のように見える失敗」である。

EV産業を例にして説明すると、次のようになる。補助金で、BYDなどは急成長したが、技術研究投資が弱いという欠陥を抱えている。具体的には、次世代電池の本命とされる「全固体電池」では、日本よりも大きく出遅れている。また、価格破壊で利益が出ないという悩みだ。補助金が切れたら倒産という矛盾が生まれる。EVでの補助金が、対象外である外資を撤退させている。

AIでは、補助金でスタートアップが増えた。しかし、先端半導体GPU(画像処理装置)が輸入できないことで、研究者は海外へ流出している。検閲で、自由研究ができない点も悩みである。モデルが、更新できないという矛盾も生まれている。このように、日進月歩が生命線であるにもかかわらず、米国から出遅れた立場を強いられている。中国は、このAIを使って一帯一路を引き留める策に出ているのだ。

企業は、一般に以下の循環を経て競争力を強化する。技術投資が品質向上を向上させる。これによって、市場競争力をつけて利益が再投資される。この結果、さらなる技術進化が進むのである。しかし、中国のように潤沢な補助金によって、以上のような好循環が壊されるのだ。

中国の場合は、次のようなケースになる。

技術投資=補助金頼み 品質向上=価格競争で軽視 市場競争=補助金で歪む 利益再投資=利益が出ない 技術の進化=外資撤退(外資は不平等競争で撤退)で止まる

こうして、補助金は最終的に中国産業の「筋力」を奪う事態となる。「良かれ」と始めた補助金が、最終的に中国産業を「衰えさせる」厄介な存在に変る。今まさに、それが始まっている。中国は、もはや引き返せる段階をとうの昔に通り過ぎた。これからは、「負の効果」に苛まされる段階だ。その準備が、中国にあるとは思えない。「毒を食らわば皿まで」という状況に追い込まれている。

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経済記者30年と大学教授17年の経験を生かして、内外の経済問題について取り上げる。2010年からブログを毎日、書き続けてきた。この間、著書も数冊出版している。今後も、この姿勢を続ける。

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