各国による対話や声明発表が相次ぎ、外交による問題解決が進みつつあるかのように見える国際社会。しかしウクライナや中東といった「現場」では、机上で交わされた言葉とは対照的な光景が広がっているのが現実です。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦が読み解く国際情勢の裏側戦略インテリジェンス・レポート』では元国連紛争調停官の島田久仁彦さんが、「言葉」と「行動」が乖離する国際情勢の実態を分析。さらに外交における約束や対話が実効性を持つために必要な条件を探っています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/メルマガ原題:言葉は届いても、銃声は止まらない-対話と現実の分裂
テーマ:「米国中間選挙まで2カ月、トランプが勝つか負けるかで世界はどうなる?」 主催:まぐまぐ
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言葉は届いても、銃声は止まらない-対話と現実の分裂
今週、世界は驚くほど饒舌でした。
ウィトコフ特使はモスクワとキーウを行き来してプーチン大統領・ゼレンスキー大統領とそれぞれ3時間ほど話し込み、トランプ大統領はプーチン大統領と1時間電話し、12か国(欧州とカナダ)の外相は、イスラエルによるヨルダン川西岸地区での入植地拡大と高まる暴力に抗議する共同声明を出し、太平洋諸島フォーラムの議長を務めたパラオの大統領は、南太平洋で高まる安全保障上の懸念と伸長する中国の影響力に対して警鐘を鳴らすべく記者会見を開きました。
言葉の量だけを数えれば、外交は活発そのものです。
しかし、その言葉が現場の行動を止めたかといえば、答えはノーです。和平交渉が動いた直後にキーウ中心部で保安機関の本部が狙われ、タンカー戦争は開戦以来最大の破壊規模に達し、フォークランドではたった一つの曖昧な発言が、40年以上前の戦争の記憶を呼び覚ましました。
つまり今週は、言葉の量と現実の重さが、まったく釣り合わない一週間だったのです。
交渉の世界には、コミットメントの信頼性という考え方があります。約束は、それを守った実績の積み重ねによってのみ価値を持つという原則です。今週、世界のあちこちで、この原則が試されていました。
交渉の現場に長く身を置いていると、言葉の量がやたらと増えるときほど警戒すべきだという感覚が身についてきます。それは、沈黙は少なくとも嘘をつきませんが、言葉はいくらでも現実を装うことができるからです。
今週号では、ウクライナ、イラン、イスラエル、中東の安全保障再編、太平洋、フォークランド、日韓と同盟の行方、そして国連という8つの現場から、この一週間を眺めていきます。
最後に、この8つの現場に共通する糸を、調停官としての視点からたぐり寄せてみたいと思います。
この記事の著者・島田久仁彦さんの新創刊メルマガ
【1.モスクワも聖域ではなくなる-ウクライナの対話と攻撃の同時進行】
まず、ウクライナから始めます。
事の発端は、ゼレンスキー大統領が断行した情報機関の人事でした。新たに抜擢されたSBU、ウクライナ保安庁のポクラド長官代行は、国防省情報総局、GURをライバル視しているとされ、GURの元長官で政権内に強い影響力を持つブダノフ大統領府長官との間で主導権争いが表面化していると伝えられています。
9月上旬には、両機関の部隊がキーウ市内で銃撃戦を起こしたとの報道もありました。対ロ工作を担う組織どうしが内輪もめを起こしているとすれば、それはロシアにとって願ってもない展開です。
現地の軍事ジャーナリストは、ロシア義勇軍団の管理や国内防諜をめぐる主導権争いが表面化したものだと分析しています。情報機関の内部対立は、外からは見えにくいだけに、当事者どうしの疑心暗鬼を通じて組織全体の機能を静かに蝕んでいきます。
私が調停の現場で繰り返し目にしてきたのも、外部の敵よりも内部の縄張り争いのほうが、組織の実行力を先に奪ってしまうという現象です。
ところが、この内部対立と時を同じくして、もっと大きな出来事が起きました。9月4日、ロシア軍の無人機がキーウ中心部のSBU本部を直撃したのです。
ゼレンスキー大統領によれば、無人機はポクラド長官代行の執務室を狙ったものでした。大統領は、しかるべき、実質的な、可能であれば鏡のような対応(Mirror Response)を取るよう指示したと述べています。
私は、この「鏡のような」という言葉を、かなり重く受け止めています。これは単に、撃たれたから撃ち返す、という意味ではありません。「ロシアがウクライナの情報機関トップを狙うのであれば、ウクライナもまたロシアの情報機関や治安機関の中枢を標的として考える」というように読めるからです。
これまでこの戦争には、奇妙な二重基準がありました。ロシアはキーウの政府施設や情報機関を繰り返し攻撃する一方で、自国の首都だけは事実上の聖域として扱われてきたのです。
「戦争を始めた側が、相手の首都を攻撃しながら自国の首都には安全を求める」
これは本来、交渉の場でも戦場でも成立しない理屈です。
今回、その一線をさらに押し下げたのはロシア自身でした。建物ではなく人物を狙ったのだとすれば、戦争は施設対施設の応酬から、指揮官対指揮官の戦いへ一段近づいたことになります。
この構図が崩れたとき、最も居心地が悪くなるのは、執務室から安全に戦争を指揮してきた側のはずです。実際、モスクワ市内では今年に入って、防空システムの作動を告げるサイレンが以前より頻繁に鳴るようになったと、現地の住民が伝えています。戦争を「よそ事」として続けられる期間が、じわじわと短くなっている、そういう変化だと私は受け止めています。
ちょうどこの攻撃と前後して、米国はウクライナへの再介入を強めていました。トランプ大統領の和平特使であるウィトコフ氏と、大統領の娘婿であるクシュナー氏は、9月5日にモスクワでプーチン大統領と3時間以上会談し、翌6日にはキーウでゼレンスキー大統領とも協議しています。双方とも会談後の発言は前向きなものでした。
ゼレンスキー大統領は非常に実質的だったと評価し、ウィトコフ特使も有意義な対話だったと語っています。9月8日には、トランプ大統領とプーチン大統領が1時間にわたって電話会談を行いました。ロシア側の発表によれば、これは建設的で率直な会談だったとのことです。
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■敵よりも身内を恐れるようになる長期化した紛争の指導者
ところが、この電話会談とまったく同じ9月8日に、もう一つの出来事が起きていました。ロシア軍のジェット推進式ドローンがモルドバの領空に侵入し、ノルウェー前国王ハラルド5世の葬儀に向かうゼレンスキー大統領の搭乗機が、首都キシナウの空港で足止めされたのです。モルドバ当局はドローンの侵入を検知して領空を閉鎖し、機体の墜落を確認したのちにようやく離陸を許可しました。
ドローンは空港から160キロほど離れた場所で爆発したと伝えられています。駐米モルドバ大使はCNNの取材に対し、ゼレンスキー氏の搭乗機が地上に駐機している最中に監視目的のドローンが偶然迷い込んだとは考えにくいと述べる一方、標的が大統領機だったと断定するのは時期尚早だとも語っています。
ノルウェーのストーレ首相は、ゼレンスキー氏の搭乗機がまさに離陸しようとした瞬間にドローンと衝突しかけたと明らかにし、これがゼレンスキー氏の直面している現実だと表現しました。同じ日、2機目のドローンもモルドバ領空に侵入し、そのままルーマニア方面へ飛び去っています。
本件について、ロシア大統領府はコメントしていません。トランプ大統領とプーチン大統領が電話越しに「建設的で率直な」対話を交わしていた、まさにその同じ一日に、ウクライナの大統領機はドローンの脅威で足止めされていたのです。
これほど分かりやすい形で、言葉と現実の分裂を見せられた一日はなかったと思います。
ここまでの経過だけを見れば、和平に向けて歯車が回り始めたように見えます。しかし、報道されている会談の中身を見ると、話は少し違ってきます。トランプ大統領はこの電話会談で30日間の停戦を求めたと伝えられていますが、プーチン大統領が示したのは、エネルギー施設への攻撃を条件付きで制限する程度の譲歩にとどまり、残りの時間の多くは、ドンバス地域を完全に掌握できるという戦場での見通しを説明することに費やされたとされています。
独立系の専門家の間では、プーチン大統領がドンバスを完全に制圧するまでは、本気で交渉に応じない可能性が高いという見方も出ています。
実際、米側の使節団がモスクワとキーウを訪問した直後、ロシアはキーウへの大規模な攻撃を再開したとも報じられています。対話の言葉が丁寧になるほど、現場の攻撃が止まらない、これが今のウクライナ情勢の実相だと私は見ています。
ゼレンスキー大統領にとっても、この状況は楽ではありません。侵攻開始から4年目に入り、国内の戦時世論調査では、和平交渉のために一定の領土的譲歩もやむを得ないと考える国民の割合が、開戦当初と比べて着実に増えていると伝えられています。
情報機関どうしの内輪もめが表面化したタイミングも、決して偶然とは言い切れません。戦争が長引くほど、指導者の周囲では疑心暗鬼が強まり、権力の使い方そのものが荒くなっていく、これもまた紛争の現場でよく見る現象です。
私が現場で見てきた限りでは、長期化した紛争の指導者は、外の敵よりも先に、身内の裏切りを恐れるようになります。味方であるはずの組織を疑い始めた指導者は、判断の質そのものが落ちていきます。
ゼレンスキー大統領の情報機関人事が、対ロ工作の強化ではなく、身内の統制強化を優先した結果に見えるとすれば、それはウクライナにとって決して良い兆候ではありません。
この矛盾を理解するうえで、ラブロフ外相の発言が手がかりになります。ラブロフ外相は、単なる停戦では問題は解決せず、NATOの東方拡大とロシアの安全保障上の懸念を解消しなければならないという立場を繰り返し語っています。
この発言を額面通りに受け取るなら、ロシアが本当に問題視しているのは、ウクライナ一国の帰属ではなく、東欧・北欧全体におけるNATOの軍事的プレゼンスそのものだということになります。
フィンランドはどうするのか。エストニア、ラトビア、リトアニアはどうするのか。そう考えていくと、この論理の射程はウクライナよりはるかに広いことが分かります。
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■ウクライナの外側でも静かに広がる「ロシアの圧力」
交渉の世界には、要求を一度に出さず少しずつ積み上げていく手法がありますが、私にはロシアの安全保障をめぐる主張が、まさにその手法をなぞっているように見えます。だとすれば、ウクライナでどこかの町や州の帰属が決まったとしても、ロシアが安全保障上の脅威と呼ぶものは何一つ解決しません。
停戦と和平は、似ているようでまったく違います。銃声を止めることはできても、相手が抱えている根本的な不安を解消できなければ、それは第一段階が終わっただけのことです。
バルト三国の外相らは9月上旬、非公式にこの点への懸念を米欧の当局者に伝えたと報じられています。自分たちの頭越しに、ウクライナの領土問題だけが取引され、NATOの東方でのプレゼンスという本丸が置き去りにされることを、最も恐れているのがこの3か国です。
交渉の世界でよく言われることですが、当事者の一方がこれで最終合意だと考え、もう一方がまだ次の段階があると考えている限り、その合意は長続きしません。
ウクライナの外側でも、ロシアの圧力は静かに広がっています。
ドイツでは9月1日、政府が8月にライプツィヒ・ハレ空港で起きた事件についてロシアの関与を公式に認定しました。問題の無人機には爆発物と起爆装置が搭載されていたとされ、幸い起爆には至らずに済みましたが、空港は一時閉鎖されています。ドイツ政府はこれを受けて、対抗措置としてボンにあるロシアの総領事館と文化施設の閉鎖を決めています。
英国際戦略研究所(IISS)は、2024年8月から2026年2月までに欧州13か国で144件の関連事案を分析し、ロシアによる組織的な無人機活動である可能性が高いとの評価を示しています。ドイツだけで58件を数えるとのことですが、144件すべてがロシア政府の指示によるものだと断定されているわけではありません。
正直に言うと、私はこの「断定できない」というところに、今回の一連の出来事の本質があると感じています。ロシア側は関与を否定していますが、安全保障の専門家の間では、正面からの軍事衝突には至らない無人機やサイバー攻撃、破壊工作を通じた圧力だという見方が広がっています。
欧州委員会のフォンデアライエン委員長とNATOのルッテ事務総長は9月2日に共同記者会見を開き、ロシアの無謀な行動に迅速かつ効果的に対処できるよう備えを強化しなければならないと訴えました。
「正面切った攻撃だと名指しできないまま、疑いだけを積み重ねて相手を疲弊させる」
これは私が交渉の現場で何度も味わってきた揺さぶりの感覚と同じです。
並行して、ウクライナはロシアの民間航空にも揺さぶりをかけています。
ウクライナのシビハ外相は9月2日、国際民間航空機関にロシアの領空は安全ではないと正式に通知しました。実際にトルコやドバイの航空会社の一部で、モスクワ便の欠航や引き返しが起きています。
ゼレンスキー大統領は、「ロシアの空が安全だった時代は終わった」と述べており、民間機を巻き込むリスクを承知のうえで、経済的な打撃を狙う姿勢をにじませています。
興味深いのは、こうした圧力の応酬の最中に、プーチン大統領が北極海航路の通年航行という将来構想を語っていることです。プーチン大統領は9月3日、事実上封鎖が続くホルムズ海峡を念頭に置きながら、北極海航路の輸送量を2030年までに拡大させる方針を掲げました。
私は、こうした発言を単なる経済政策の説明としては受け取っていません。苦境にあることを認めず、次の選択肢を提示することで、相手に「まだ手は残っている」と思わせる、交渉ではこうした振る舞いが相手の認識を変えることがあります。
プーチン大統領は同じ9月2日、極東の造船所を訪れ、北極圏のLNG事業向けの砕氷タンカーも視察しています。ロシアは砕氷船の保有数で米国を上回っており、日本企業・政府系機関も10パーセントの権益を持つこの事業は、米欧の制裁対象になっている点で、日本にとっても他人事ではありません。
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【2.タンカー戦争-ホルムズ海峡で交錯する二つの発表】
次に、ホルムズ海峡です。
9月8日、米中央軍はオマーン湾とカーグ島付近で、イラン革命防衛隊系の原油タンカー5隻を攻撃し、航行不能にしたと発表しました。破壊されたのはM/Tカビズ、シャルミナール、ホライズン1、デリヤの4隻に、もう1隻を加えた計5隻とされ、これは開戦以来最大規模のタンカー攻撃です。
米側は、イランが2度にわたり米海軍艦船を弾道ミサイルで標的にしたことへの報復だと説明しています。
そもそもの発端をたどると、トランプ大統領は8月16日に韓国との合同軍事演習の大幅な縮小を打ち出し、8月19日には新たな対イラン制裁の計画を公表、その5日後にはイラン政権を支える経済的な生命線を断ち切ると称する経済的追放作戦を発表していました。
わずか数週間の間に、圧力をかける対象と手段を次々に切り替えていくという、この予測しづらさ自体が交渉戦略の一部になっているというのが私の見立てです。最初に大きな数字や強い言葉を打ち出し、その後の話し合いの基準点そのものをずらしてしまう、そんなやり口に近いものを感じます。
これに対しイラン革命防衛隊は、「米艦船2隻とタンカー8隻を攻撃した」、「ヨルダンの米軍基地に弾道ミサイルを撃った」などと発表しています。
イランの国家安全保障を統括する最高安全保障委員会のレザイ事務局長は9月6日、ホルムズ海峡周辺に制限区域を設ける方針を表明し、無断で入域する船舶を制裁対象に加えると警告しました。この制限区域には、米軍がイランに対して敷いている海上封鎖の区域も含まれるとみられています。
ここで一つ、注意が必要です。イラン側のこうした発表は、船舶保険会社や旗国、海事当局のいずれからも裏付けが取れていません。つまり双方が、これだけの戦果を上げたと主張し合っているものの、その多くは検証不能な自己申告にとどまっているのです。
私はこれを、交渉の場でしばしば見かける情報の非対称性が、そのまま戦場に持ち込まれた形だと捉えています。「事実そのものよりも、事実らしく見える発表を積み重ねることで相手より優位に立とうとする」構図です。
数字で確認できることも、いくつかあります。ホルムズ海峡を通過した貨物船は、9月8日時点で6隻にとどまり、前日の9隻からさらに減少し、過去10日間の平均である12隻を大きく下回りました。
湾岸の石油会社関係者はロイター通信の取材に対し、開戦前と比べて戦争リスク保険料が急騰し、1航海あたりの輸送コストが1,000万ドルから2,000万ドル規模に達していると証言しています。
一方で、イラン側は、オマーンとの間で船舶の通航ルートについて合意に近づいており、近く署名する見通しだと主張しています。ただし、これはイラン側の一方的な発言であり、正式な合意はまだ発表されていません。
「交渉が決裂したときに何を最善の代替案とするか」
これは当事者どうしの力関係を測るときの基本です。
イランにとってのこの代替案は、海峡そのものを人質に取ることです。米国にとっての代替案は、軍事的な圧力によってイランの資金源を断つことです。双方とも、自らの代替案を誇示することに躍起になっていますが、誇示された数字の多くが検証不能だという点に、この対立の危うさがあります。
この消耗戦は、米軍自身の駐留態勢にも影響を及ぼし始めています。
バーレーンの海軍施設は対岸のイランからわずか250キロメートルの距離にあり、イラン製の自爆型無人機シャヘド131の航続距離は最大900キロメートルとされるため、常に射程内にあります。
米シンクタンクCSISの分析によれば、司令部機能を前線から後退させ、一部の部隊をイスラエルやエジプトに移す案が米政府内で浮上しているとのことです。
1発400万ドルの地対空誘導弾パトリオットで、価格が数百分の1にすぎない無人機を撃ち落とすのは、費用の面から見ても割に合いません。
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■じわじわと広がりつつある世界市場への影響
圧倒的な軍事力を持つはずの米国が、安価な無人機によって配置の見直しを迫られているという、この非対称性こそ、今回の衝突が浮き彫りにした構造だと私は考えています。
「大きな力を持つ側が、必ずしも交渉のテーブルで優位に立てるとは限らない」という現実は、紛争調停の現場でも繰り返し確認されてきたことです。
守るべきものが多い側は、それだけ選択肢が狭まり、身軽な側のほうがかえって自由に動けるものです。
市場への影響もじわじわと広がっています。
船舶保険各社は、ペルシャ湾内から積み出してホルムズ海峡を通る航路について、戦争リスク特約の保険料を大幅に引き上げています。フーシ派による攻撃でバベルマンデブ海峡の通航も細っており、代わりに喜望峰を経由する迂回ルートを取る船が増えていることも、コスト全体を押し上げる一因になっています。
原油そのものの値段よりも、その原油を安全に運ぶための保険の値段のほうが、今は交渉の焦点になっている、そういう逆転が起きているのだと思います。
日本の電力会社や商社は、この数か月、調達先の分散を急いでいますが、ホルムズ海峡を経由しない航路には限りがあり、根本的な代替にはなっていません。エネルギーの安全保障を、遠い中東の情報の非対称性に委ねざるを得ない、この構造そのものが、日本にとっての宿題だと私は考えています。
自前でエネルギーを賄えない国は、どうしても他人の戦争の情報戦に振り回されます。これは今に始まった弱点ではありませんが、今週ほどその弱点がむき出しになった週も、そう多くはなかったように思います。
【3.入植地から始まった経済制裁-孤立するイスラエル】
3つ目の現場は、イスラエルです。
9月8日、英国、フランス、カナダに、デンマーク、フィンランド、アイスランド、アイルランド、ノルウェー、ポーランド、ポルトガル、スペイン、スウェーデンを加えた12か国の外相が、ヨルダン川西岸のイスラエル人入植地で生産された製品の輸入を制限する共同声明を発表しました。
英国、フランス、カナダの3か国は即時の国内措置に踏み切り、残る9か国は支持または検討にとどまるという段階的な足並みです。
引き金となったのは――(メルマガ『最後の調停官 島田久仁彦が読み解く国際情勢の裏側戦略インテリジェンス・レポート』2026年9月11日号より一部抜粋。全文をお読みになりたい方は初月無料のお試し購読をご登録ください)
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