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欧州に広がる「アメリカは敵対国」という本音。グリーンランドを巡るトランプの強硬姿勢が露わにした「西側」の深刻な分裂

トランプ大統領の「グリーンランド領有への意欲」を巡り、非難の応酬状態となっているアメリカと欧州。国際社会を揺るがすこの亀裂は、今後さらに深刻化してしまうのでしょうか。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の「無敵の交渉・コミュニケーション術」』では元国連紛争調停官の島田久仁彦さんが、欧米分裂の背景にある地政学的思惑と関係各国が抱いている「本心」を解説。さらに「アメリカ抜きの国際秩序」という選択肢が現実味を帯び始めた世界の行方について考察しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/メルマガ原題:アメリカ抜きの国際秩序?!‐欧米の分裂が生み出す西洋の終焉と新国際協調主義

鮮明になりつつある欧米分裂の気配。「アメリカ抜きの国際秩序」を考え始めた欧州

「欧州は『文明の消滅』に直面しており、将来的には米国の信頼できる同盟国としての地位を失う可能性がある」

「長期的には、遅くとも数十年以内に、北大西洋条約機構(NATO)加盟国の一部で非欧州系(の住民)が多数派になる可能性が十分にあり、仮にそうなった場合、彼らが世界の中での自らの立場や、米国との同盟関係をNATO憲章に署名した者と同じように見なすか不透明だ」

「EUが政治的自由や主権を損ない、言論の自由に対する検閲を行い、政治的反対勢力を抑圧している」

このショッキングな対欧州非難は、昨年12月5日に発表された米国政府の国家安全保障戦略(NSS)の中で述べられたもので、欧州のリーダーたちは表立ってコメントしなかったものの、一部では「アメリカは欧州にとって同盟・友好国から敵対国に変わってしまった」と嘆く声が聞かれました。

そしてトランプ大統領が、1月3日に決行したベネズエラ侵攻を経て、再度(第1次政権時にも発言があったので)、グリーンランドをアメリカが“保有”する必要性を強調しだすと、欧州各国のリーダーたちも我慢の限界が来たのか、次々にトランプ大統領に対する非難を行い、欧米間での非難の応酬が続いています。

その非難合戦は今週スイス・ダボスで開催中の年次総会の場でも繰り広げられ、フォンデアライデン欧州委員会委員長やフランスのマクロン大統領など欧州のリーダーたちや、カナダのカーニー首相は、トランプ大統領登場前から対米非難を行っています。

案の定、トランプ大統領は自身の演説の中で、NSSに含められたような内容を踏まえた対欧州非難を“米国が抱く国家安全保障上の懸念の表明”という形でぶつけ、その中で「アメリカが国家安全保障のためだけでなく、NATO全体の安全保障のためにも、グリーンランドを保有するしかないのだ」と、自身の主張を正当化して“応戦”しました。

これだけを見ると「欧米間の結束は危機に瀕している」と悲観的になり、「アメリカが言うように、もしかしたら、この隙に中ロの影響力が伸長し、さらには“西洋”が崩壊することになる」と論じたくなりますが、実際にはどうでしょうか?

確かにトランプ大統領の発言とグリーンランド取得への意欲は、欧州各国からすると受け入れがたい、とんでもない主張と受け取られていることは確かですが、欧州各国の対米非難には温度差があり、必ずしも環大西洋の“不可分”なパートナーシップを崩壊させるところまでは、まだ深刻化していないものと思われます。言い換えると、まだ欧米間でのジャブの撃ち合いと見ることが可能です。

ただ、アメリカが“西洋”の枠組みから離脱し、大西洋を隔てた欧州との同盟関係が消滅するか弱体化すると、欧州各国にとっては重大な危機となることは間違いありませんが、アメリカにとっても世界中に張り巡らされた勢力圏から“欧州を失う”という大きな損失に繋がり、「世界すべての海に海軍のプレゼンスがある」という力の要素を失うことにも繋がりかねません。

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トランプが「グリーンランド取得」にこだわる背景

そしてそれはまた、アメリカが・トランプ政権が強引に推し進めようとしている様々な“事業”を支える担い手を大量に失うことも意味します。

つまりアメリカ合衆国にとってもかなりのリスクを負う“提案”となりますが、なぜこのような荒唐無稽な提案をするに至ったのでしょうか?背景を整理してみたいと思います。

今回ターゲットになっているグリーンランドですが、北極海と北大西洋の間にある世界最大の島(米・テキサス州の約3倍の面積の約213万800平方キロメートル。日本の面積の6倍弱の大きさ)で、デンマーク本土とフェロー諸島と共に対等な立場で立憲君主制国家であるデンマーク王国を形成し、同国の自治領でもあります。

1721年から1953年まではデンマークの植民地で、1979年5月には自治権を獲得し、歴史的、地理的、また国家としての特殊性からデンマーク王国の一部としての自治政府が置かれ、広範な自治が認められています。

2009年には、自治法の改正と自治協定の締結が行われ、政治的な権限と責任がデンマーク政府からグリーンランド政府へと移譲されましたが、外交と防衛はデンマーク政府が担うのが現状です。

つまりデンマーク王国の不可分の一部であるわけですが、地理学では“アメリカ州の一部”という分類がされることもあり、アメリカ合衆国とカナダを形成する北アメリカ大陸と近接することから、アメリカ政府が何度かその取得または領有を試みたことがあります。

記録上は1865年から69年までのAndrew Johnson政権、第2次世界大戦後のトルーマン政権がデンマーク王国に対して、グリーンランドのアメリカへの譲渡を依頼していますが拒否され、その後、アイゼンハワー政権時に対ロ防衛のための重点拠点との認識から、アメリカ軍の基地が設置されて、一応、アメリカにとっての足掛かりは作られたことになります。

その後は冷戦が終わった後も、特にグリーンランドの問題がアメリカ国内で取り上げられたことはありませんが、トランプ大統領は第1次政権時に、グリーンランドの地政学的な重要性、北極海における航路と海底資源開発の可能性に目を付け、その後、気候変動により北極海の厚い氷が溶解し、航行が可能になると、Arctic Councilを構成する各国は挙って北極海を戦略的に位置づけ、そこに自らをNew Arctic stateと位置付ける中国が加わり、物流のアクセス路としてのみならず、軍の艦船を交えた軍事的な戦略channelとしても緊張が高まっています。

実際にトランプ大統領が主張するようにロシアと中国の潜水艦がグリーンランドを取り囲んでいるという“事実”は確認されていないようですが、トランプ政権下のペンタゴンの分析によると、欧州各国はグリーンランドの戦略的な重要性に気付いておらず、防衛を怠っているという認識を強めており、「欧州が何もしないなら、アメリカが防衛し、そして北極海におけるパワーバランスを保つ」という“使命感”を表明しています。

今頃になって欧州各国は慌てて自国軍をグリーンランドに駐留させると宣言していますが、それはあくまでもアメリカによる軍事的な領有に抗議する意味合いからの動きに過ぎず、「北極海を巡る地政学的なバランスに配慮しているかどうかは疑わしい」というのがアメリカの言い分の一つです。

トランプ政権がアイゼンハワー時代に設置した米軍基地を再強化し、グリーンランドに潜水艦の基地を設置することに加え、戦略爆撃機の配備や対ロ防空システムの設置などを盛り込んだ案を前に進めようとしているのは、「グリーンランドはNATOの北極海における最重要な軍事的な側面(NATOの軍事的プレゼンスの翼)であり、同時にアメリカにとって北極海における対ロシア防御壁」という認識からの戦略的な動きと理解できます。つまりNATO軽視の姿勢ではなく、NATOに対する危機喚起という側面があると考えられます。

やり方が強引であることは否めませんが、このように見るとアメリカ政府の主張は一理あるようにも思われます。

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残されている「米のグリーンランド購入」というオプション

ダボスでの欧州首脳との協議の結果かと思いますが、軍事的な手段を用いてグリーンランドをアメリカのものにするという計画は一旦取り下げられた模様ですが、「アメリカがグリーンランドを購入する」というオプションはまだ有効な選択肢として考えられており、アメリカがグリーンランドを諦めることはなさそうに見えます。

ちなみに米国政府の試算では、仮にグリーンランドを購入すると約7,000億ドル(日本円で110兆円)かかるそうですが、この購入案にデンマークが合意することはなさそうです(そしてアメリカ議会もそのような額の出資を認めることは無いと考えます)。

とはいえ、アメリカがかなり本気であることも感じ取っているのか、デンマーク政府はアメリカ政府とグリーンランド自治領を当事者とする作業部会を早速立ち上げ、広域安全保障の確保の観点から見たグリーンランドの扱いについて協議している模様です。

直接協議には参加していませんので、詳細については要確認ですが、ここまでのところ“購入”は非現実的であることで見解が一致しているものの、アメリカ政府が何も獲得せずに引き下がることがないことも明らかになっているとのことです。

現在、有効な解決策として考えられているのが、かつてアメリカが南太平洋の島嶼国との間に締結したCOFA(自由連合協定)をモデルに、グリーンランドにおけるアメリカのプレゼンスを上げるための手段を協議している模様です。

アメリカ軍にグリーンランドでの活動の裁量権を認める代わりに、アメリカがデンマークやグリーンランドに対する経済的な優遇措置を約束し、グリーンランドの開発に貢献するというディールが検討されているとのことですが、トランプ大統領はあくまでも“所有”というラベリングをお好みのようで、今後、どのような展開になるかは不透明です。

では欧州側の反応はどのようなものでしょうか?

「アメリカがグリーンランドに軍事侵攻すれば、NATOは根本から崩壊し、環大西洋の同盟も終焉する」という危機感は共有しているものの、対応については一言でいうと全く一枚岩とは言えません。

「荒唐無稽で馬鹿げている」という感触は共通しているようですが、対応についてはまちまちです。

例えば、ドイツ、デンマーク、スウェーデン、ノルウェーなどはグリーンランドに自国軍を駐留させてアメリカが(ベネズエラに行ったような)軍事的にグリーンランドに侵攻する事態に備える動きをしているのに対し、アメリカの特別な同盟国を自任する英国は「アメリカがグリーンランドに軍事作戦を行うようならば、英国軍を派遣する」(スターマー首相)と強い不快感を示しつつも、まだ軍は動いていませんし、フランスは軍事的なプレゼンスについては発言せず、あくまでも領事館をヌーク(グリーンランドの首都)に開設するという外交的なメッセージに留まり、イタリア(メローニ首相)については、トランプ大統領が示す“意義”にはある程度の理解を示しつつも「手段が大いに間違っている」と反対していますが、EUやNATOとは距離を置き、イタリア軍をグリーンランドに送ることには反対しているようです。

西洋の存続の危機、NATOの危機…などへの危機感は共有しており、かつ昨年12月5日に公開されたアメリカの国家安全保障戦略(NSS)において欧州に対する辛辣なコメントや見解が述べられたことに対する反発は欧州各国間で共有されているものの、なかなか対米強硬策に出ることができない理由は「ロシアによるウクライナ侵攻を失敗に終わらせないと、欧州全域の安全が脅かされることになり、それを防ぐ唯一かつ最適な手段こそが、アメリカのウクライナに対する継続的なコミットメント」だと考えていることがあります。

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欧州が打った「禁じ手」とトランプが突き付けた「踏み絵」

ただ、アメリカのトランプ政権にとっては、地政学的な重点は実はロシアへの対策ではなく、中国からのアメリカへの挑戦に対する策であると思われ、中国対策に力をさらに注ぐために、内容は二の次で、とにかくロシア・ウクライナ戦争を“終結”させ、ロシアとの関係改善を図ったうえで、中国と対峙するべきとの思考が強まっているとの認識が欧州全域で共有されていることから、あの手この手を尽くしてアメリカを“西洋”に留めようと苦慮している模様です。

その一手が、禁じ手とも思われるのですが、ウクライナへの支援と並行して、欧州各国が再開した中国との関係改善とロシアに対する再コミットメントです。

メローニ首相は「いろいろとあるが、現状に鑑みて、欧州はロシアとの対話を再開すべき」と述べていますし、マクロン大統領も「モスクワと協議するべき時が近づいている」と発言し、ドイツのメルツ首相も、ロシアによるウクライナ侵攻と非人道的行為を非難しつつも、「モスクワと協議することなしに、問題の解決は見通せない」と、やっとまともなことを言いだして、ロシアとの“手打ち”を模索しているように見えますが、これは明らかにアメリカが欧州を見捨てた場合のヘッジではないかと考えています。

そこでlast resortとして欧州が考えたのが、「1月22日にパリでG7首脳会合を開催し、そこにロシア、ウクライナ、デンマーク、シリアの首脳も招いて、グリーンランド問題をはじめ、ロシア・ウクライナ問題、中東和平など包括的に協議する」という提案(マクロン大統領)でしたが、トランプ大統領はダボスでの自身の演説前に、このマクロン大統領からの提案を一蹴したため会談は実現せず、米欧の歩み寄りのチャンスは途絶えたかのように見えます。

しかし、それは表向きの話であり、水面下での対話のチャンネルはちゃんと開かれており、欧米間の同盟国としてのつながりは保たれています。ただ、もちろん通常よりは緊張感が高まっていることは間違いありません。

トランプ大統領が欧州との距離感を図るために突き付けた“踏み絵”が、トランプ案でガザ紛争の解決策として提案されている平和協議会(Board of Peace)のマンデートを拡大し、ここでガザ問題をはじめ、シリアやレバノンを含めたイスラエル問題、イランの“脅威”、ロシア・ウクライナ戦争、そしてベネズエラをはじめとする中南米地域の安定などについて協議し、実質的な調停役として活動するFounding memberへの参加です。現時点では欧州の首脳で参加表明しているのは、ハンガリーのオルバン首相くらいで、あとの首脳は返答していません。

その理由として挙げられているのは、グリーンランド問題の存在もありますが、それよりも法の支配に基づく国際秩序を守る体制を軽視する取り組みに、法の支配を重視する欧州が関わることは許されないという矜持があるようです(とはいえ、かつての植民地主義や旧植民地に対する不平等な扱い・行いなどを考えると、欧州も見事な二枚舌です)。

それに加えて、ガザ問題やロシア・ウクライナ戦争など、それぞれがすでに混乱を極めている中、それらを一緒くたにして包括的に“解決”することは現実的ではなく、余計に世界を混乱させるとの欧州の恐れがあるものと考えられます。

【力こそ正義】と信じ、【国際協調の下で物事を解決する国連中心の法の支配による国際秩序の維持は非効率だ】と考えるトランプ大統領と、欧州の考えは相容れず、今、グリーンランド問題を通じて、NATOの分裂が加速しているのは、残念ながら間違いないと思われ、欧州サイドは有効な解決策を見いだせていないのが現状です。

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欧米間の分裂を「チャンス」と捉えて動くロシアと中国

そのような状況を眺めて戦略的な重要性を拡大しているのがプーチン大統領のロシアです。

ペスコフ大統領府報道官は1月19日に「もしトランプ大統領がグリーンランドを取得するようなことになれば、確実に世界史に名を刻むことになる」と皮肉たっぷりにグリーンランドを巡る欧米対立を揶揄していますし、ラブロフ外務大臣は1月20日に「西側社会で危機が深まっている。NATOの結束を含め、想像もしていなかったような議論が展開されている」と“懸念”を表明しつつ、「アメリカにとってグリーンランドが重要なのと同時に、クリミアもロシアの国家安全保障にとって重要だ」と、2014年のクリミア併合を正当化し、加えて「現在、進行中のウクライナに対する特別軍事作戦も、ロシアの国家安全保障にとっては非常に重要であることを理解すべきだ」と欧米諸国が行うロシア非難を糾弾する動きに出ています。

その上で、トランプ大統領が繰り返す“ロシアと中国がグリーンランドを狙っている”という発言に対しては「ロシアはアメリカのグリーンランド取得には一切関係なく、中ロがグリーンランドを取得する意図が全くないことをここに繰り返し明言するし、トランプ大統領もそのことを知っているはずだ」とし、「ロシアと中国に欧米間の争いの原因を擦り付けることは許しがたい」とアメリカと欧州に対して非難をしています。

そしてロシア・ウクライナ戦争の“停戦”を巡る米ロ間の協議、そして対ウクライナ協議のロシア特別代表を務め、今週、プーチン大統領の名代としてダボス会議に参加しているドミトリエフ大統領特別代表は「グリーンランド問題は大西洋横断連合の崩壊を意味すると考えるが、ついにダボスで議論する価値があるトピックが出来て嬉しい」と述べ、欧米の確執の深まりを横目に、欧米社会がこれまでに国際社会に投射してきた大きな矛盾を明らかにし、各国の欧米離れを加速させ、中ロに寄せてくる機会が到来したとみているようです。

今のところ、トランプ大統領がこれらのロシアからのコメントを相手にしている様子は見えませんが、ウィトコフ特使をダボスに帯同させ、ドミトリエフ特使との間で、ロシア・ウクライナ戦争の行方はもちろん、対イラン、対ガザなど多方面の問題を話し合わせているようです。

これはまるでダボスで立ち上げられたBoard of Peaceの狙いを具現化するような動きではないかと考えられますが、いかがでしょうか?

トランプ大統領に近い幹部によると、トランプ大統領とその側近たちは「欧州は原理原則ばかり突き付けて、実際には問題の解決に取り組もうとしない。平和を創造するためには欧州とだらだら議論を重ねるよりも、当事者であるロシアと話した方が効率的だし、すでにプレゼンスを高めている中国と直にディール・メイキングしたほうがよい」と考えているようだと述べており、Board of Peaceに参加する国々とどんどん世界の進むべき方向を考えようとしているようです。

欧州各国はもちろんそれを黙って眺めているはずもありませんが、かといって効果的な対策を打ち出せるわけではなく、ただトランプ大統領が打ち出す提案に反対し、非難を浴びせるだけのように見えます。

完全に欧米間が分裂してきているように見えますが、これをチャンスと捉えて動くのがロシアと中国です。

先述のメローニ首相の発言にもあるように、欧州各国はロシアとの関係修復のための対話を始めるべきと考え、モスクワにアプローチをはじめ、ダボスにおいてもドミトリエフ特使との協議も行われ、ウクライナ戦争の行方に関わらず、ロシアの魔手が欧州各国に及ばないための策を練っているようですし、トランプ大統領が何かあるたびに関税を脅しとして用いることに飽き飽きしてきたのか、対米バランスの向上なのか、それとも経済的な貿易の形を作るためなのか、中国との関係修復および強化にも勤しんでいます。欧州の変わらない多方面実利主義外交の現れでしょうか。

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「G7マイナス米国」に与する姿勢を示し始めたカナダ

欧米の分裂の気配が鮮明になり、国際協調や法の支配に基づく国際秩序よりも、力による外交を推し進めるアメリカの姿を前に、G7諸国は(日本を除く)、スティグリッツ教授が言うように、【Gマイナスアメリカ】、つまりアメリカ抜きの新国際秩序の確立をまじめに考え始めているのかもしれません。

トランプ政権が66の国際機関や条約から一方的に脱退し、気候変動や貿易問題、SDGs、多様性、公衆衛生、教育文化のプロモーション、貧困問題、開発などの“多国間主義”に基づく国際体制に背を向け、独自の力任せの支配を押し付けることに嫌気が差し、付き合いきれないと考え始める国々が増えてきているように思われます。

これまでアメリカと一緒くたに見られてきた北の隣国カナダも、ベネズエラで起きたことを見て、いつアメリカの毒牙がカナダに及ぶかもしれないという、一見あり得ないと考えられてきた脅威を現実のものとして感じ始め、アメリカと距離を置き、自国を法の支配による新国際秩序の中核に据えようとし、このG7マイナス米国に与する姿勢を示し始めているように感じています。

私が携わっている紛争調停のコミュニティーには、まだこの分裂の波が襲ってきてはいませんが、力をもつ者が世界の趨勢を勝手に決め、他国の話に耳を傾けないような状況が拡大するようなことになれば、“調停・仲介”というコンセプト自体が絵に描いた餅のようになってしまい、これまで協調の下に解決されてきた紛争が、解決の糸口を見つけられないまま、大国の意向にのみ左右される世界の中で、実質的な役割を失うことになるのではないかと懸念しています。

このアメリカが推し進める力の外交と“国際社会からの離脱”を窘め、アメリカを再び国際協調の軸に引き戻すことができるのは、G7の他の国々がアメリカとの緊張関係にある中、日本ぐらいだと考えるのですが、グリーンランド問題を前にしても反応を示さないのは得策と言えるのだろうか?と懸念を抱いてもいます。

個人的には、世界の現状(軍事・経済力など)に鑑みるとG7が世界のリーダーではないことは明らかだと考えているため、そろそろ現状に見合った新世界秩序を構築すべきだと感じていますが、その前にG7の最後の役割として、アメリカを国際社会に引き戻し、トランプ大統領が推し進めるBoard of Peaceを否定するのではなく、そのスタイルや案を国連の改組・改編の参考として取り入れることを望んでいますが、果たしてどうなるのでしょうか?

今年11月にアメリカは連邦議会中間選挙を迎えますが、アメリカ国民・有権者はどのような判断を自らの国に対して下すのか?それまでに何らかの前向きな姿勢が出てくるのか?それとも秋の審判を待たずに、トランプ大統領と政権はグリーンランドを取りに行き、欧米関係を破壊し、世界を取り返しのつかない方向に導くのか?

正直なところ予測不可能ですが、いろいろな可能性を考えて、少しでも望ましい方向に世界が進むことができるよう、微力ながら貢献できればと願っています。

以上、今週の国際情勢の裏側のコラムでした。

(メルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』2026年1月23日号より一部抜粋。全文をお読みになりたい方は初月無料のお試し購読をご登録下さい)

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世界各地の紛争地で調停官として数々の紛争を収め、いつしか「最後の調停官」と呼ばれるようになった島田久仁彦が、相手の心をつかみ、納得へと導く交渉・コミュニケーション術を伝授。今日からすぐに使える技の解説をはじめ、現在起こっている国際情勢・時事問題の”本当の話”(裏側)についても、ぎりぎりのところまで語ります。もちろん、読者の方々が抱くコミュニケーション上の悩みや問題などについてのご質問にもお答えします。

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